村上春樹にしては、いまいちという感じ。 女性の同性愛という設定が、他の作品には見られないが、愛する人の失踪と捜索というのは、「ねじまき鳥クロニクル」を思い起こす。ミュウという中年女性は加納マルタに似ている。すみれという女性の失踪に、主人公は井戸をイメージするが、これも「ねじまき鳥クロニクル」と似ている。 本の帯には「この世のものとは思えないラブ・ストーリー」とあるが、ラブ・ストーリーに焦点をあてた話ではないと思う。 「この世のものとは思えない」という表現は当たっている。村上春樹本来のテーマである、「こちらの世界」と「あちらの世界」の対比が印象に残る。 「こちらの世界」のミュウに受け入れられなかったすみれは、「あちらの世界」へ消える。「ねじまき鳥クロニクル」では主人公が「あちらの世界」へ行って妻を取り戻そうとするが、この話では、すみれは自ら戻ってくる。 きっと行ったきりで話は終わるのだろうと思っていたので、ちょっと意外な感がある。 村上春樹の作品は、翻訳調の大仰な修辞がたまに目障りに感じるが、この作品は特にそう。ただ、一カ所、次の表現だけはとっても気に入った。 「白い月が賢いみなしごのように寡黙に空に浮かんでいた」 イメージが鮮やかに浮かぶ。 |