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あかり屋さん
あかりが暗くなってきた。
「最近は、すぐ暗くなるわね」
おかあさんがそう言うと、おとうさんもうなずいた。
「あかり屋さんも、もう歳だからな」
わたしは、それを聞いて悲しくなった。
あかり屋さんは、わたしの一番の友だちだから。
学校が終わると、わたしはいつもあかり屋さんの店による。そして、あかり屋さんが星のかけらをみがくのをながめている。
最初はぼんやりとした星のかけらが、しだいしだいに明るくなっていくのを見るのが、好きだ。
「ミユ、明日、学校の帰りに、あかり屋さんであかりを買ってきてくれないかい」
おかあさんのことばにわたしはうなずいたが、気持ちがしずんでくる。
あまりひんぱんにあかりを買いに行くと、あかり屋さんはつらそうな顔をするから。
「もう暗くなったのかい」
そう言って、ためいきをもらす。
「昔は、もっといいあかりを取ってくることができたんだがな」
翌日、学校が終わってから、わたしはあかり屋さんの店によった。
でも、店の戸がしまって、はりがみがあった。
「二、三週間、るすにします」
星のかけらを取りに行ったんだ。
あかり屋さんは、年に何度か、あかりの材料になる星のかけらを取りに行く。
ずっと遠くの高い山にのぼるんだと言う。 そして、その山のてっぺんから、長い棒をのばして、星のかけらをけずってくる。
「わたしも、いっしょに行きたいなあ」
一度そう言った時、あかり屋さんはうれしそうな顔をした。
「ミユがもっと大きくなったら、いっしょに行こう。山にのぼるのは大変だから、まだミユには早い」
今じゃ、あかり屋さんよりもわたしの方が体力があると思う。ちょっと歩いただけですぐに息をきらすあかり屋さんが、星に近い山にのぼるなんて。
二、三週間どころか、一ヶ月、二ヶ月たってもあかり屋さんはもどってこなかった。
わたしはもちろん、町の人たちもみんな心配になってきた。あかりがなくなって、夜はまっくらだ。
「あかり屋さんがいないと、こまるよな」
みんながそう言うので、ちょっとだけうれしくもなったけど。
三ヶ月近くたって、あかり屋さんはようやく帰ってきた。
店の前に立っているわたしを見て、あかり屋さんは大きな声をかけた。
「おお、ミユ、まってたのか」
ひげぼうぼうで、顔も服もかなりよごれているのに、目だけはかがやいていた。
大きなふくろを背中にしょっている。
「ミユ、こんどはすごいのが手に入ったぞ」
店に入ると、あかり屋さんは、ふくろからひとかかえもある大きな石をいくつかとりだした。
星のかけらとはちがっていた。みがいてもないのに、かがみのように光を反射してきらきらしている。
「これ、なんなの」
わたしが聞くと、あかり屋さんは顔をくしゃくしゃにして笑った。
「月だよ、月。月のかけらなんだ」
「月?」
「大変だったぞ。満月が山のてっぺんに近づくのをまって、いかりを投げてもなかなかとどかないし。三度目の満月の日にようやく、いかりが月にひっかかったんだ。そうして、月にとびついた」
「そんなあぶないこと」
あかり屋さんがひっしになって月にしがみついているすがたが目にうかび、むねが痛くなった。
「星よりもかたかったが、何とかこれだけ切り取ることができた」
あかり屋さんは満足そうに石をなぜた。
それから、月のかけらをさらに細かくわって、それをみがきはじめた。
「ほら、見てみろ。星のかけらよりも、ずっと明るいぞ」
「ほんとだ。これなら、長持ちするかもね」
「長持ちしてくれないと、こまるよ。そう何度も取りに行くわけにはいかないから」
あかり屋さんは初めて、疲れた表情を見せた。
月のかけらで作ったあかりは、星のかけらよりも明るいので、みんなよろこんで買っていった。そして、星のかけらよりも長持ちしたので、ひょうばんが良かった。
「これで、しばらくはのんびりできる」
あかり屋さんは、久しぶりにくつろいだようすだった。
何ヶ月かたったころ、町に電気がひかれた。
電気をつかったあかりを初めて見た時、わたしたちはびっくりした。
「まるで、昼間のようだ」
わたしは、あかり屋さんといっしょだった。わたしの手をにぎっているあかり屋さんの手が、きつくなった。そして、つめたい汗がながれ、かすかにふるえた。
わたしは、あかり屋さんの顔を見上げた。
おびえているような、おこっているような、こわい顔だった。
電気はあっという間に広がった。
おとうさんとおかあさんは、はじめのうち、あかり屋さんにえんりょして電気をひかなかった。でも、となり近所がみんな夜も昼のように明るくなるのを見ているうちに、とうとう電気をひくことにした。
「今までどおり、あかり屋さんのあかりをつかって」
わたしは泣きながらそう言ったが、おとうさんは悲しそうに首をふった。
「これが時代の流れなんだよ」
電気のあかりがついた夜、そのあまりの明るさに、わたしは思わず目をしばたたいた。そのまぶしさの中で、うすぼんやりした月のかけらが目に入った。
わたしは、あかり屋さんをうらぎったような気がして、それからは、あかり屋さんの店に行けなくなった。
しばらくして、あかり屋さんはすがたを消した。
そのうわさを聞いて、わたしはあかり屋さんの店に行った。
月のかけらは、まだのこっている。新しいのを取りに行く必要はない。
いったい、どこに行ったんだろう。わたしは心配でたまらなかった。
遠くの町の病院に、あかり屋さんが入院しているという話を、だれかが聞いてきた。
わたしはおとうさんにお願いして、その病院につれていってもらった。
すぐには、あかり屋さんだとわからなかった。全身大やけどで、顔までほうたいをぐるぐるまいている。目と鼻と口のところがちょっとのぞいているだけだったから。
わたしはあかり屋さんのむねに、つっぷした。あかり屋さんは、わたしの頭をやさしくなぜた。
「ミユ、だいじょうぶだよ。死にはしない」
わたしは顔をあげて聞いた。
「いったい、どうしたのよ」
あかり屋さんはちょっとだまってから、口をひらいた。
「電気にまけないぐらいのあかりを手に入れようと考えたんだ。そうなると、お日様のかけらしかないだろう?」
「お日様のかけらを取ろうとしたの?」
わたしは目をみはった。
「そうだ。さすがに、お日様のかけらはむりだったな。取ってこれたとしても、あんなに熱くもえているものは、家にはおけない。自分でも、ばかげた考えだったと思うよ。すなおに、あかり屋をやめた方がよさそうだ」
あかり屋さんのさびしそうな声に、わたしはさらになみだが止まらなくなった。
あかり屋さんは退院したが、しばらくはむりをすることができないので、お店をしめた。
それでも、わたしは毎日、あかり屋さんの店によった。
毎日、あかり屋さんといっしょに、店先にころがる、星のかけらと月のかけらをぼんやりとながめていた。二人とも、ほとんど話をしなかった。
そんなある日、だれかが店の戸をたたいた。
「あかり屋さん、いるかい」
町のまんなかにある居酒屋の人だった。
「あかりがほしいんだがね」
「おたくには、電気はなかったかな」
「あるにはあるが、明るすぎておちつかないという人が多くてね。酒をのむには、もっとやわらかい光の方がいいらしい」
あかり屋さんの目に、光がもどった。
くつろぐときは、星のかけらや月のかけらの方がいいという人たちがふえてきた。
あかり屋さんには、以前ほどではないけれども、お客さんがもどってきた。
わたしも、少しずつあかり屋さんの仕事を手伝った。
「わたし、将来、あかり屋さんになるわ」
そう言うと、あかり屋さんはうれしそうな顔になる。
「やけどがなおったら、星のかけらをいっしょに取りに行こう」
その日が楽しみだ。
この作品の著作権は、財団法人グリムの里いしばしに帰属します。
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