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ぼくは何になるの?
つちのこは、森の木の上で、大好物の鳥の卵をさがしていた。
鳥の巣がみつからず、あきらめてほかの木にうつろうとした時だ。
つちのこは、ぽっかりあいた木の穴に、きみょうな卵をみつけた。にわとりの卵ぐらいの大きさだが、色が変わっている。赤、青、黄色、緑、さまざまな色でまだらになっている。
「なんだ、この卵は」
いつもは、卵をみつけたらすぐに食べてしまうのだが、つちのこはためらった。ふつうの鳥は、こんなところに卵を生まないはずだ。いったい何の卵なのか、気になってしょうがなかった。
「こいつは、くじゃくの卵かもしれないな」
つちのこがそうつぶやいた時、卵の中から声がした。
「くじゃくって、何ですか」
つちのこはおどろいた。
「おい、おまえがしゃべったのか。おまえ、ほんとに卵なのか」
「はい。でも、この中はまっくらなので自分が何なのか、ぼくにはわかりません。だから、あなたが言ったくじゃくというのが何なのか、教えてください」
つちのこはふしぎな気がした。自分が何なのか卵が知りたいなんて。
「くじゃくってのは、おれも見たことはないけど、色とりどりの羽がきれいな鳥らしい」
「鳥って、何ですか」
「おまえ、鳥も知らないのか」
そりゃそうだよな。まだ卵なんだから。
つちのこはそう思って、こまかく説明した。
「まあ、そういうふうに羽があって、それで空を飛ぶのが鳥さ」
「鳥にもいっぱい種類があるんですね。じゃあ、どうしてぼくのことをくじゃくの卵だと思うんですか」
「卵にいっぱい色がついているからさ」
「そうなんですか」
「そうか、卵の中からは、色がついているのがわからないのか」
「この森には、ほかにどんな生き物がいるんですか。そもそも、あなたは何なのですか」
「おれは、つちのこさ」
「つちのこ?」
「ああ、へびの仲間だ」
そう口にして、つちのこはむねがちくりとした。
へびたちはおれのことを仲間だとは思ってないようだけど。つちのこは、心の中でつぶやく。
つちのこは、頭としっぽはへびのように細長いのに、どう体の部分は大きくふくらんで、ほかのへびとは似ていない。
卵はへびがどういうものかも知らなかったので、つちのこはそれもまた説明しなければならなかった。そうやって、森の動物たちのことも教えてやった。
「森で一番強くて大きいのはクマなんですね。ぼくもクマになれないかな」
つちのこは笑った。
「クマは卵からは生まれないよ」
「そうなんですか。じゃあ、あなたと同じつちのこでもいいかな」
つちのこは、むねがツンときた。
そうだ、どうしておれには仲間がいないんだろう。おれは自分がうまれた卵がどんなものだったかおぼえてない。もしかしたら、こんな色つきの卵だったかもしれない。
でも、つちのこは、軽くためいきをつきながらこたえた。
「つちのこに生まれても、何もいいことないぜ。おまえは、たぶん鳥だろうよ」
それから、つちのこは、毎日その卵のところに来て話をしていった。何の卵だろうとか、何になるのが一番いいだろうかとか、そんなことをしゃべりあった。
だれかとこんなに話をしたことは今までなく、つちのこは毎日が楽しかった。
「あなたは、何になりたいんですか」
ある日、卵にそう聞かれ、つちのこはとまどった。
「何になるも、おれはつちのこなんだよ」
「つちのこで終わりですか。これから何かになるんじゃないんですか」
つちのこは首をふった。
「おれはもう卵じゃないんだ。これから何かになることは無理だよ」
「そうなんですか」
「でも、なりたいものは、ある」
つちのこがためらいがちにそう言った時、卵はよろこんだような声をあげた。
「何になりたいんです」
「竜だよ」
「竜?」
「ああ。竜というのはこの森だけじゃなく、この世界で一番大きく、一番強い生き物なんだ。そんな竜がもともとはへびだったと言うんだぜ」
竜の説明をしながら、つちのこの目はかがやいていた。
「ふーん、竜ってそんなにすごい生き物なんだ。ぼくも竜になりたいな」
「ははは。何の卵かわからないというのは、先が楽しみでいいぜ」
それから何日かたったころ、森に大雨がふった。
この雨だと、穴が水でいっぱいになる。卵だって水の中では息ができない。それに水があふれて木の下におちるかもしれない。そう思ったつちのこは、あわてて卵のところへ行った。
思ったとおり、穴は水でいっぱいだ。卵は水のそこにしずんでいる。
「おい、だいじょうぶか」
つちのこが声をかけても卵は返事をしない。
つちのこは水の中に顔をいれ、卵をくわえて外に出そうとした。
そのしゅんかん、大きな音とともにあたりが光った。雷が落ちたのだ。つちのこはまぶしさで目がみえなくなった。
目が見えるようになった時、雨はやみ、森の上には日の光がさし始めていた。
つちのこは、はっとした。くわえていた卵がない。ひっしになって木の下をさがしまわったが、みつからない。
その時、上から声が聞こえたような気がして、つちのこは頭をあげた。
いっしゅん、大きな何かが飛んでいるように見えた。
空には、くっきりとにじがかかっている。
ぼーっとしてにじをながめていたつちのこは、年よりのへびが昔、話してくれたことを思い出した。
「にじというのは、竜の影なんだよ」
まさか。
つちのこは、泣き出しそうな顔でつぶやいた。
「ちくしょう。だまって行きやがって。さっさと食ってしまえばよかったぜ」
つちのこは、空を見上げながら思った。
あいつは初めから竜の卵だったんだろうか。それとも竜になろうと思ったから竜になったんだろうか。
にじがうすれていく。にじが消えないうちにと、つちのこはさけんだ。
「おれもかならず竜になってやるからな。待ってろよ」
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