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ハズレ


 ハズレの出る自動販売機で買ったらだめよ、といつも母さんに言われていたけど、安いんだからしょうがない。
 だいたい、ハズレなんてめったに出るものか。今まで何度買ってもハズレなんて出なかったし。
 それなのに……
 いつものようにコーラ買って、ビンのふたあけて、ごくっと一口飲んだ、つもりだった。でも、それはコーラじゃなかった。
 口の中に入ったものを、あわてて手のひらにはきだす。それは、うずらの卵よりも小さな白い卵だった。
「うわあ、ハズレだあ」
 タカシがはしゃいだようにそう言うと、ほかのみんなも初めて見るハズレに大さわぎだった。
「あれだけ言ったのに」
 家に帰ってその卵を見せると、母さんががっかりした声で言った。
「ほんとに、このばか」
 兄さんは、いつも以上におこった顔をする。
 仕事から帰ってきた父さんもしばらく肩を落としていたけど、顔をあげてきっぱりと言った。
「ハズレちゃったものはしょうがない。ちゃんと育てるしかないだろう」
 父さんがあちらこちらでしらべたところ、ぼくの持っている卵は、どうやらハズレザウルスという恐竜の卵らしい。
「恐竜? すごい」
「でも、ハズレだからなあ」
 父さんが、にが笑いする。
 恐竜の本で、ハズレザウルスの写真を見た。首が長くてプラキオザウルスに似ている。でも、プラキオザウルスは、二十五メートルもある。そんな大きな恐竜がこんな小さな卵から生まれるんだろうか。
 三日後、卵がわれて、中から小さな恐竜が出てきた。
「これが恐竜かあ」
 兄さんが、あきれた顔で言った。ぼくも声は出さなかったけど、ため息をついた。
 プラキオザウルスに似てはいるけど、ぼくの親指の先ぐらいの大きさしかないし、長い首も足も、針金のように細く弱々しい。
「やっぱり、ハズレはハズレだな」
 そう言った時、恐竜がぐわっと口を開いた。
「うるせえ」
「うへ、こいつ、しゃべれるんだ」
 ぼくらはみんな、おどろいた。
「オレはハズレなんかじゃねえ」
 いさましい物言いだけど、からだと同じで声も小さい。全然迫力がなかった。
 ハズレザウルスは、草食の恐竜なので、毎日、野菜を柔らかく煮て、食べさせる。
 えさをねだるとき、首をぶんぶんふりまわして「エサくれ、エサくれ」としつこくさけぶので、エサクレという名前をつけた。
 エサクレは、いくらえさをあげても、もっと食べたがった。
「おまえね、そんな小さなからだで、どうしてそんなに食べるの」
「うるせえ。だまって、エサくれ」
「なまいきなやつだな」
 夜ぼくがねむっている時にも、エサクレは「エサくれ、エサくれ」とさわぐ。小さな声だけど、寝ている時に耳もとで言われるとうるさくてたまらない。
 ぼくが無視すると、兄さんのところに行く。
「なんで、オレがこいつにえさをやらないといけないんだよ。ハズレ引いたのは、おまえだろ」
「ハズレを引いたら、家族でめんどうみなくちゃならないと決まっているんだよ」
 父さんが起きてきて、目をこすりながら、えさをあたえた。
 エサクレは何だか無理して食べているように見えた。
 少しずつしか食べないけど、一日中ひっきりなしに食べるから、母さんもぐちをこぼす。
「お金がかかってしょうがないわ」
 そう言われると、ぼくはつらくなる。
 勉強も運動もできる兄さんと比べて、ぼくはどっちもできない。いつも自分のことをこの家のハズレだと思っていたけど、そのハズレがハズレを引いてきてみんなをこまらせているんだから。
 ある日、夜中に目がさめた時、エサクレが部屋のすみにある鉄あれいに頭をおしつけているのが目に入った。うんうんうなりながら、鉄あれいをからだ全体でおしている。
「おまえ、何してるの」
 ぼくが声をかけると、エサクレはびくっとして、ふりむいた。いつもおこった顔をしているのに、今日はなぜかうろたえている。
「う、うるせえ」
 にくまれ口にも、いきおいがない。
「もしかして、からだをきたえているの?」
 そう聞くと、エサクレはまたびくっとした。
「どうして」
「恐竜なんだから、大きくて強くなくちゃならないだろ」
 エサクレはうつむいて、そうつぶやいた。
 そうか。ぼくも、兄さんに追いつこうと思ってがんばったりするから(でも、だめなんだけど)エサクレの気持ちがよくわかった。
「ぼくも協力するよ」
 エサクレは、えっとおどろいた顔をした。
「鉄あれいはまだ無理だから、もうちょっと軽い物にしよう」
 エサクレの細い首にひもをまき、そのひもの先に、中身が入っているコーヒーの缶をつけた。
「さあ、これを引いてみるんだ」
 エサクレはぐいっと足を前に出した。が、缶の重さで後ろにひっくりかえった。
「だ、だいじょうぶ?」
 ぼくは、あわててエサクレを起こす。
「だいじょうぶだ。このぐらい」
 エサクレはまっかな顔をして、からだ中に力をいれ、缶をひっぱる。缶はなかなか動かない。缶はエサクレの何倍も大きい。
「もっと軽いおもりをさがしてこようか」
 ぼくがそう言っても、エサクレは返事をしない。歯を食いしばって、前足に力をいれている。
 缶が少し動いた。そして、ずるずると少しずつエサクレは前に歩き出した。
「すごい、やったぜ」
「へっ」
 エサクレが初めて、照れた顔を見せた。
 エサクレは毎日がんばった。コーヒーの缶も一つから二つ、三つとふやしていった。
 やがては鉄あれいを引きずり、ついには鉄あれいを首で持ち上げることもできるようになった。
 食べる量も今まで以上にふえ、エサクレは少しずつ大きくなっていった。いつのまにか、猫ぐらいの大きさにまでなった。
「お、すごいじゃないか」
 父さんが言った。
「ハズレザウルスはどんなに大きくなっても、ねずみぐらいだって言うのに」
 父さんはぼくががっかりすると思って、だまっていたらしい。
「そろそろ外に出してくれ」
 エサクレが言った。
「もっと重いものを、もっと遠くまでひっぱりたいんだ」
 庭にあったブロックを、犬用のくさりでエサクレの首につけた。重いかもしれないと思ったけど、エサクレは力をこめて、それをひきずっていった。ぼくはその後をついていく。
 公園まで行った時、タカシにあった。
「それがハズレザウルスかあ」
 タカシがにやにや笑った。タカシはペットのブルドッグをつれていた。
「恐竜と犬とどっちが強いかな」
 ぼくが止めるより早く、タカシがブルドッグをはなした。
 ブルドッグはエサクレの首にかみついた。
 エサクレは顔をしかめたが、その長い首を思い切りふりまわした。ブルドッグは口をはなし、地面にたたきつけられた。
「今度はしっぽでたたくぞ」
 エサクレがどなった。タカシはあわてて、ブルドッグをひっぱっていった。
「エサクレ、強いじゃないか」
 エサクレはにやっと笑った。
「オレは恐竜だぜ。犬なんかに負けるものか。そのうち、ライオンや象とたたかってやる」
 でも、エサクレは、それ以上はなかなか大きくならなかった。あいかわらず、いっぱい食べ、トレーニングもつづけていたのに。
「やっぱり、オレはハズレなのかな」
 めずらしく、エサクレが弱音をはいた。
「そんなことはないよ。ハズレザウルスなのに猫と同じぐらい大きくなったし、犬にだって負けないんだから」
 そう言ってなぐさめると、エサクレはちょっと悲しそうな顔をして笑った。
「でも、恐竜としてはハズレだろ」
 ぼくが答えにつまった時、父さんが部屋に入ってきて言った。
「おまえがハズレだって思ったらハズレさ。恐竜にだって、大きいのから小さいのまでいっぱい種類があるんだ。だけど、小さくても、恐竜には力強さがある。大きくなろう、強くなろう、というおまえの思いの強さも、恐竜らしさのひとつじゃないのかな」
 エサクレは、考えこんでいた。しばらくしてから顔を上げ、父さんに言った。
「わかんねえ。でも、トレーニング行く。恐竜がなやんでもしょうがないしな」
 また元気にトレーニングを始めるエサクレを見て、ぼくも力がわいてきた。
 ぼくだって、ハズレなんかじゃないさ。がんばれば、きっとどこかにぼくの当たりがあるはずだ。

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