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顔どろぼう


 
 その夜、順ちゃんの顔がぬすまれました。
 でも、順ちゃんは朝になるまで気がつきませんでした。
 おきてからも、しばらくはわかりませんでした。
 いつものようにねむい目をごしごしと手でこすった後、順ちゃんは、あわてて鏡の前に行きました。
「か、顔がない」
 目がないのに、なぜか鏡にうつった自分の顔が見えます。口もないのに、声もでます。
「学校で一番かわいいわたしの顔が」
 順ちゃんは、おこりました。
「きっと、だれかがぬすんだんだわ。そう言えば、あき子ちゃんも京子ちゃんも、わたしのきれいな顔がうらやましいと言ってたし」
 目のところだけがあいている毛糸の帽子を頭からかぶると、順ちゃんはお母さんに見られないようにこっそりと家をでました。
 学校に行って自分の教室に入ろうとした時、順ちゃんはびっくりしました。
 自分の席に、自分と同じ顔の女の子がすわっているのです。
「あの子ね。あの子が私の顔をぬすんだのね」
 みんな、その子がにせものだとは気づいてません。それどころか、仲良くおしゃべりしているのです。
 順ちゃんが教室にとびこんで、顔を取り返そうと思った時、京子ちゃんの声が聞こえてきました。
「今日の順ちゃん、いつもとちがうね」
 やっぱり仲良しの京子ちゃんはわかってくれたんだ、順ちゃんはそう思いました。
「いつもとちがって、人の話をきちんと聞くし、自分の顔のじまん話もしないし」
 京子ちゃんの声に、あき子ちゃんもうんうんうなずいています。
「ほんと。それにおちついているから、いつもよりずっときれいに見えるわ」
 順ちゃんははらがたって、教室にとびこみました。
「ふたりとも何言ってるのよ。いつもと同じ顔じゃない」
 大声をあげた順ちゃんを、京子ちゃんとあき子ちゃん、そしてにせものの女の子がびっくりして見ています。
「おまえ、だれだよ。へんな帽子なんかかぶってさ」
 らんぼうもののトシオくんが、そう言って、いきなり順ちゃんの帽子をぬがしました。
「うわあ」
 のっぺらぼうの順ちゃんの顔を見て、みんながびっくりした顔をします。
「ばけもんだあ」
 トシオくんがいきなり、消しゴムを順ちゃんの顔に投げつけました。それを見て、クラスのほかの男の子たちも消しゴムを投げてきました。
 消しゴムが顔にあたって、順ちゃんは泣き出しました。
「わたしがほんものの順子よ。その子はにせものよ」
 そう言いましたが、だれも聞いてません。
 筆箱まで投げてくる子もいるので、順ちゃんは教室からにげだしました。
 順ちゃんは校舎の裏に行き、しゃがみこむと、しくしく泣きました。目はないのに、なみだがどこからか流れてきます。
 しばらくして、だれかがうしろから順ちゃんのかたをたたき、顔をのぞきこみました。
「だいじょうぶ?」
 順ちゃんは顔をおさえました。
「見ないで」
「こんな顔だから?」
「え?」
 思わず、順ちゃんがふりかえると、そこにいたのは、のっぺらぼうの女の子でした。
「ひっ」
 おびえる順ちゃんに、女の子が言いました。
「ごめんね。顔をぬすんじゃって。一度、人間の学校に来てみたかったの。とっても楽しかったわ」
 女の子は、順ちゃんの顔に何かをぺったんとはりつけました。
「さよなら。ほんとにごめんね」
 そう言うと、女の子は風のように消えてしまいました。
 順ちゃんの顔は、目も鼻も口ももとにもどっていました。
 ぼうっとして教室にもどった順ちゃんに、みんなが心配して声をかけてきました。
 順ちゃんはしばらく何も話さないで、ただみんなのやさしい声を聞いていました。
 今日は何だか、みんなの気持ちがよくわかるような気がする、順ちゃんはそう思いました。
「また、顔を貸してあげてもいいよ」
 順ちゃんは、まどの外にむかって、そうつぶやきました。

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