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鬼になる日


 タケシが鬼になった。
 顔も手も足もまっかっかで、授業中も帽子をかぶったまま、先生に注意されてもぬごうとしなかった。
 休み時間、ぼくはこっそりとタケシのうしろにまわり、帽子をとった。
「あっ」
 タケシの頭には、つのが二本はえていた。 タケシは、しくしくと泣き出した。
「朝起きたら、はえていたんだ」
「げっ、気持ち悪い」
 ぼくは、タケシをこずいた。
「そうだ。鬼ごっこやろうぜ」
 みんな、にやっと笑った。
 翌朝、ジロウも鬼になっていた。
「おまえも鬼になったのかよ」
 ぼくは、ジロウのつのをひっぱった。ジロウはわーっと泣き出した。
「泣いた赤鬼だ」
 みんながどっと笑った。
 その日も鬼ごっこをやった。
 そして、次の日、アキコが鬼になっていた。 長い髪でつのをかくしていたけど、顔も手足もまっかだから、すぐにわかる。
「女の鬼、第一号だな」
 アキコはべそをかき始めた。
 もうあきてきたけど、その日も鬼ごっこをやった。
 そして、また次の日、タイチが鬼になっていた。もう、ぼくたちはうんざりしてきた。 次はだれが鬼になるんだろうと、みんな、心配になって笑わなくなった。
 それから毎日のように、だれかが鬼になっていった。
 そして、とうとう、ぼくをのぞいてみんなが鬼になった。教室中がまっかっかだ。
「人ごっこをやろうぜ」
 ジロウが言い出した。
「なんだよ、人ごっこって」
「鬼ばっかりで人間がひとりだけだから、人ごっこさ」
 がまんしてつきあった。なーに、明日になれば、ぼくも鬼になるんだから。
 でも、ぼくは鬼にならなかった。
 いつまでたっても、鬼になれなかった。ぼくは毎日、人ごっこの人役だった。
「くそー、どうして、鬼にならないんだ」
 ぼくは、毎晩寝る前に、明日は鬼になってますように、とお祈りした。
 そして、ある朝、頭につのがはえているのに気づいた。
「やった。とうとう鬼になったぞ」
 うきうきしながら、鏡をのぞいた。でも、鏡にうつったぼくの顔は、まっさおだ。ぼくは、青鬼になっていた。
 まよったけど、帽子をかぶって学校に行く。
 教室に入ると、さわいでいたみんなが、ぼくの顔色を見て静かになった。
 いきなり、ジロウがぼくの帽子をとった。
「うひゃあ」
 みんなが、いっせいに笑いだした。
「今日からは青鬼ごっこかあ」
「もう、いいかげんあきただろう」
 タケシがおこったように言うと、みんなだまった。弱虫だったタケシのけんまくが、本物の鬼のようで、ぼくもびっくりした。
 お昼休み、みんながサッカーやってるのをひとり廊下の窓からながめている時だった。
 だれかに肩をたたかれ、ふり返った。
 そこには、身長が二メートルぐらいもある本物の青鬼がいた。つのだけじゃなくきばもはえ、全身毛むくじゃらだ。
 ぼくは、おどろいて後ずさった。
「おいおい、何こわがってるんだ。同じ青鬼だろ。仲良くやろうぜ」
 ぼくはぶるぶると首を横にふった。
「いいから、いっしょに来いよ。どうせ赤鬼どもは仲良くしてくれないだろ」
 青鬼がぼくの手をとろうとした時だ。
「やめろ。ユタカは鬼じゃない」
 タケシがふるえながら、後ろに立っていた。
「へ、赤鬼のくせに」
「ちがう。ぼくたちは鬼じゃない。人間だ」
 その時、タケシの頭のつのがぽろっと取れた。赤い肌が白っぽくなった。
「ユタカ、そうだろ。ぼくらは人間なんだ」
 タケシがぼくの顔を見た。
 そうだよな。何で鬼になったんだろ。
 そう思った時、ぼくの頭からもつのが落ちてきた。手を見ると肌の色がもどっている。
「ちぇっ」
 青鬼はくやしそうな顔つきで舌打ちすると、ふっと消えてしまった。
 サッカーやってる連中がさわぎだした。みんな、つのが取れたのだろうか。
「メンバーがたりないんだ」
 タケシが、てれくさそうな顔で言った。
「わかった。入ってやるよ」
 ぼくはそう答えてから、小声でつけたした。
「ありがとう」

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