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どんべの村は山の中にある。 どんべはもう三十をすぎていて、からだも村の大人たちの中では大きなほうだ。 でも、頭の中は、村の子供たちとあまり変わらない。 どんべは力持ちなので、毎日、あちらこちらの畑の手伝いにかりだされているが、子供たちが遊んでいるのを見ると、仕事をほったらかして一緒に遊びに行ってしまう。 「こまったやつだ」 村の人たちはそう言うが、誰も怒ったりはしない。どんべは性格がおとなしく、いつもにこにこしていて、みんなに好かれている。 子供たちもみんな、どんべが好きだ。 そんなどんべがときどき、子供たちとも遊ばず、山の上の原っぱで何時間も寝そべっているときがある。 子供の一人が何をしているのかと聞くと、 夢を見ているんだとこたえる。 「おらは、おっとうもおっかあも子供の頃に死んでしまったけど、こうやって空を見ながら寝ていると、いつも夢の中で会えるんだ」 どんべの目はまるで三つ四つの子供のようだ。 ある日、村に夢屋がやってきた。 夢屋はやせた小がらな男だ。 一年に一回ぐらい村にやってくる。 初め、夢屋は村長の家に行く。村長の家が村で一番大きいからだ。 まず村長相手に商売をして、それから村人たちがかわりばんこに出かけていく。子供たちも親についていくことがあるが、普通、子供たちには、夢屋の方から近づいてくる。 夢屋の商売道具は、小さなかばんに入ったおふだだ。 悪い夢、こわい夢を見てこまる、という村人がいれば、夢屋は、ばくの絵が描かれたおふだを取り出してすすめる。ばくは悪い夢を食べるという動物だ。そのおふだをまくらの下に置いて寝ると、悪い夢を見なくなる。 おねしょを気にしてる子供たちにもこのおふだが与えられる。 夢屋のもうひとつの商売は、夢を買うことだ。 夢屋は村人に最近どのような夢を見たのかたずねる。その夢が気に入ると、夢屋はまっしろなおふだを出して、村人の額にはりつける。それからびんに入った水のようなものを軽くふりかける。そうすると、そのおふだの色が変わる。青になったり、赤になったり、さまざまな色に変わる。 夢の内容によって色が変わるのだと、夢屋は言う。 夢屋がどんな夢をほしがるのか、村人たちはよく知らない。昼間のできごとのような当たり前の夢に高いお金を支払うことがあれば、同じような夢であっても、まったく買ってくれない場合もある。 夢屋はどちらかと言えば、おとなよりも子供の夢を聞きたがる。 「子供の夢の方が値打ちがあるんですよ」とよく言う。 だから、子供たちが遊んでいる場所へ自分からたずねていく。 子供たちも、うまくすると、おいしいものや遊び道具がもらえたりするので、夢屋が来ると喜ぶ。 ただ、子供の夢でも高い値打ちがつく夢はほんとにたまにしかない。その時、夢屋はちょっとがっかりした顔をするので、子供たちもちょっとくやしい。 今年も夢屋の満足するような夢はなかったようだ。 「どんべの夢だったら、どうかな」 子供の一人が思いついたように言う。 「どんべはあれでもおとなだよ」 「でも、いつも楽しそうな夢を見ているみたいじゃないか」 「どんべというのは誰かな」 夢屋が来るのはいつも畑仕事がいそがしい時なので、まだどんべと会ったことがなかった。 「つれてってあげるよ」 子供たちはみんなでわいわい言いながら、夢屋をどんべの所につれていった。 どんべの顔を見て、夢屋の目が光った。 夢屋にどんな夢を見ているか聞かれて、どんべは初めこまった顔をした。おとなにそんなことを聞かれたのは初めてで、からかわれたのだと思った。でも子供たちも一緒になって熱心に聞くので、話し始めた。 仕方なくという感じだったが、話し始めると、うっとりと幸せそうな笑顔になってきた。 「いつも見るのは、おっとうとおっかあの夢だ。二人ともにこにこしてただおらを見ているだけだけど、ほんとに幸せな気持ちになるんだ。 子供の時の友だちと遊んでいる夢もよく見るよ。今じゃ、みんなおとなになってしまって、おらとは遊んでくれないけど、夢の中だったら昔のように仲良しだ」 夢屋はうれしそうな顔をして、どんべの額におふだをはった。それからびんの水をふりかける。 おふだはきれいなオレンジ色に変わった。 「わあ、きれいな色だ」 子供たちも目を丸くする。 「うん、きれいな夢ですね」 夢屋もよろこぶ。みんなが感心するので、どんべはわからないなりにうれしくなった。 「今まで見た中で一番よく覚えている夢はありませんかね」 夢屋のといかけに、どんべは目を輝かせてすぐにこたえた。 「あるよ」 遠くの方に一本だけ大きな木が見えた。その木は満月に照らされ、銀色に輝いている。どんべはその木にひきよせられるようにふらふらと近づいていった。 木はどんべが両手を横に広げてもまだまだ足りないぐらい太く、首を大きく後ろにかたむけなければならないぐらい高かった。 枝は横に大きく広がっていたが、葉はまったくついてない。 どんべがその木に抱きつくと、どんべの心の中にあたたかいものが流れてきた。 「ほんとに気持ちがいいんだ。自分とその木のくっついている所がわからないぐらいで、まるで自分がその木になったみたいに、回りの原っぱが見えたんだ。 目がさめてからもずっと気持ちが良かった」 夢屋は大あわてでおふだをどんべの額にはって水をかけた。すると、おふだはきらきらと銀色に変わった。 「すげえ」 子供たちはみんな大声をあげる。 夢屋もびっくりしていた。 「銀色の夢は久しぶりですね」 夢屋はどんべにお金を渡した。どんべはめったにお金を持たないのに、あまりの大金だったのでびっくりしてしまった。 「こ、こんないっぱい、もらってもいいのか」 「どうぞ、どうぞ。あなたの夢はそれだけの値打ちがある夢です」 「じゃあ、みんなに好きなものを買ってあげるぞ」 どんべが走り出し、子供たちがはしゃいでついていく。 帰りかける夢屋に、一人残った子供が聞いた。 「夢屋さん、その夢をどうするの」 「売るんだよ」 「夢を買う人もいるのかい」 「そうさ。お金持ちだけど、夜なかなか寝られなかったり、寝てもいやな夢ばかり見る人がけっこういるんだ。そういう人にどんべのような楽しい夢が役にたつのさ」 「人の夢より、自分で見ればいいのに」 「そうだな。それが本当は一番さ」 夢屋はにやっと笑った。 「あのわけのわからない銀色の夢も売れるの」 「ああいう夢を必要とする人もいるんだよ」 「どんな人」 「銀色の夢は人の心を純粋にするんだ」 「純粋って」 「風呂に入ってからだがきれいになるように、心がさっぱりすることさ。 大人になると、心に少しずつよごれがついていく。それが全然気にならない人もいるけど、中には風呂に入るのと同じように心もさっぱりしたい人がいるのさ」 「ふーん、じゃあさ、金色の夢ってのもあるの」 「あるよ。わたしはまだお目にかかったことがないが、話には聞いたことがある。まあまずお目にはかかれないだろう」 「それはいったいどんな夢なの」 「金色の夢は、一人のための夢じゃない。この村全体あるいはこの国の人すべてに関係する、大きな夢だ」 「わかんないや」 「おとなでもなかなかわからないよ。それより早くみんなの後を追わないと、仲間はずれにされるぞ」 「ちぇ」 子供は大あわてで走って行く。 夢屋はどんべの夢のおふだを大事にかばんにしまうと、ゆっくりとした足どりで村を出て行った。 |
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