| あたしは、雪女だ。 と言っても、民話に出てくるような雪女じゃなくて、雨女とか雨男の意味の雪女。 つまり、あたしがある状態になると、必ず雪が降るということ。 ある状態というのは、変な話だけど、空腹状態のこと。 たとえば、あたしに、もっとダイエットをしろと言う人がいる。それに応じてダイエットをすると、当然おなかがすく。すると、雪が降る。 どうしてって? 知らないわよ。 でも、いつからこうなったのかなあ。 子どもの頃はそんなことなかったと思う。中学高校の時も気がつかなかった。やっぱ、おとなになってからだと思う。やたら異常気象になったのも、ここ十年ぐらいだし。 雪が降ったからどうだって? 雪が降ると困る人が多いじゃない。 人に迷惑をかけることは、あたしの本意ではないの。 だから、いつもダイエットは挫折する。あたしの空腹が満たされている限りは、雪は降らないから。 人のために、あたしは食べる。食べて食べて食べまくる。 だって、あたしがおなかすかせると、みんなが困るんだよ。いいわけじゃないのよ。 おかげで、体重はとうとう百キロをこえてしまった。身長は百五十しかないのに。 人助けのために太っているのに、自制心がないだとか、いやしいだとか言われるのは、がまんができない。 でも、このままだと病気になって死ぬよ、と医者に言われた時は、考え込んでしまった。 雪が降っても誰も困らない北極とか南極にでも行くしかないのか。でも、そんな所で暮らせないし。 雪がなくて困っているスキー場だってあるだろう、って? あたし、スキー場嫌いなのよ。みんな、おしゃれしてカップルばっかりで。 って言うか、あたしの力の及ぶ範囲って結構大きくて、日本列島の半分ぐらいは雪降らせることができるのよ。スキー場だけに降らせるなんて器用なことできないわ。 夏場はどうなのかって? 夏はあたしがいくらおなかすかせても、雪は降らない。雪は降らないけど、氷雨が降るのよ。そして、冷夏になる。 そう、作物が実らなくて農家の方々が困るでしょ。農作物の値段が上がると、みんなも困るでしょ? だから、あたしは夏場もひたすら食べるしかないのよ。 そうよ、あたしが病気で死んでしまえば、何の問題も起きないのよ。 と思ったけど、病気になって満足に食事がとれなくなったら、どうなるんだろう。 日本は、氷河期になっちゃうんじゃないかしら。 このままじゃ駄目だわ。 そこで、あたしは考えました。 簡単じゃない。あたしの能力?をもってしても雪も氷雨も降らないような南の国へ行けばいいんだ。どうせなら、砂漠の国の方がいいかもしれない。万が一降ってもあまり困らないだろうし。 そう思って、やってきたのが今いるこの国。 飛行機からおりてびっくりした。 日中の最高気温が五十度とか六十度よ。 これだけ暑けりゃ、あたしがいくらダイエットしても大丈夫じゃない。 あたしは住むところを見つけると、さっそくフィットネスクラブをたずねた。 走って泳いで、バイクをこいで。ひたすらからだを動かして汗をかく。 ほんと、ここまで汗をかいたのは何年ぶりかしら。おなかももちろん空く。ぐーぐーと気持ちいいぐらい、腹の虫が鳴く。 笑いがこみあげてきた。 まわりが不審な顔をするのもかまわず、あたしは笑いながら運動を続けた。 そして、空腹で目が回って倒れそうになった時、まわりの人たちが騒いでいるのに気づいた。 みんなが、窓の外を指さしている。 なんと、みぞれが降っていた。 この国では雪はおろか、みぞれだって降ったことがなかったと言う。 あたしの力だ。 でもま、誰も困ってはいないようだ。子どもたちは初めて見るみぞれに喜んでいた。 あたしは嬉しくなった。あたしの力で、初めて人を喜ばせることができたのだから。 おーし、今度は雪を降らせるぞ。 あたしは、それから、もっとがんばった。でも、みぞれどまり。雪は無理。雪を降らせるためには、栄養失調にでもならないとだめみたい。 さすがに、それはあきらめる。 でも、みぞれと氷雨のおかげで、この国の気温は急速に下がっていった。それでも、日本の夏よりちょっとは暑い。あたしがこれだけがんばっても、この程度なんだから、どれだけダイエットしても大丈夫そうだ。 毎日過激なダイエットしていては、逆にからだに悪いから、たまにはさぼる。すると、また気温があがる。耐えられないぐらい。 この気温を日本の夏程度まで下げるんだから、あたしの能力はすごいなあと自画自賛したりする。 ところが、人がせっかくダイエットにはげんでいるというのに、この国の男どもときたら。 この国では、女は太っている方が美人なんだって。 おかげでもう、この国に来てから寄って来るわ来るわ、男どもが。ちょっと道を歩くだけで、ナンパの嵐。うそじゃないわよ。 結構いい男が多くて、ちょっとつきあったりしたんだけど、どいつもこいつも、女は太っているべきだ、ダイエットなんかするべきじゃない、という思想の持ち主ばっかり。 あたしをもっと太らせようとして、食事ぜめなのよ。おいしいものが多くて嬉しいんだけど、これじゃあ、何のためにこの国に来たのかわからないから、男は全部あきらめることにした。 ほんと、こんなにもてたの生まれて初めてだから、もったいなくて、ちょっぴり涙がでたほど。 そうやって、ダイエットが順調に進んでいた頃に出会ったのが、日本大使館の男性職員。 大使館行くたんびに顔合わせて、いつのまにか好きになっちゃった。 なんとか食事に誘って、それとなく今後のおつきあいをほのめかしたんだけど、その時、こいつ何て言ったと思う? 「俺、太っている女の人は駄目なんだ」 ショックで、しばらく口がきけなかった。あたし、まだ太っていると言うの? もう標準体重よ。これ以上やせたら、やせすぎよ。 そう思ったけど、恋は一途。 努力したわよ。今まで以上に。いったい、どれだけやせたかしら。最後はほんとにぶっ倒れてしまったから。 目をあけたら、(後で知ったけど)そこは病室。 腹の虫を抑えながら窓の外を見ると、雪。 そう、この砂漠の国に初めて雪が降ったのよ。 きれいだったわ。あたしは空腹を忘れて、砂漠の国の雪景色に見とれた。 道には車が止まり、人がみんな車や家から外に出てはしゃいでいる。特に子どもたちの笑顔ときたら。雪を見慣れている人間には考えられないぐらいの喜びなんだろうな。 もっと見せてあげたいけど、からだがもたない。 案の定、ダイエットのやりすぎを医者に怒られ、しっかり食事をさせられた。 今は何とか標準体重に戻ったけど、どうやらこれで定着しそう。今は食事減らしても、そんなにおなかがすかないの。 恋煩いも治まったし、もう日本に戻ってもいいかもしれない。 でもね、この国の将来がちょっと気になって。 あたしのおかげで、断続的にだけど、氷雨やみぞれ(一度だけ雪)が降って、全体的に気温も低くなっているみたいなの。 そして、砂漠も少しずつ潤って、このままの気候が続けば緑地化できるんじゃないかと、人々は期待しているみたい。 砂漠が緑地化されれば、地球の温暖化も緩和されるだろうって、科学者も言ってるわ。 あたしの力、地球規模で役に立っているのよ。そう思うと、ぞくぞくする。 でも、もうあたしには限界。これ以上はダイエット無理。 だから、あたしの替わりを探しているの。 あたし以外にも雪女っているんじゃないかな。 いたら、連絡してください。 この国に来たらあなたもやせられます。やせられるうえに、この国の人々が喜びます。 あ、もしかしたら、逆もありかな。 おなかがいっぱいになると雪が降る体質の人もいたりして。だから、いつもおなかすかせてやせてたりして。 そういう人は、この国でいっぱい食べられるわね。 ほかにもいろんな特異体質の雪女がいるかもしれない。でも、だれでもこの国に来ればきっと大丈夫。雪が降ることを気にしなくていいんだから。 あ、雪男でも可よ。 連絡待ってまーす。 |