保険屋


 セールスマンにはふたつのタイプがあると昔教わった。海だらけで、たこ型の住民しか住んでいない惑星に送り込まれた靴のセールスマンが二人いたが、一人はこんな所で靴が売れるわけがないとすぐにあきらめて帰った。ところが、もう一人の方は、誰も靴をはいてないし足の数も多いからから需要は莫大だと判断して本社に大量発注をかけたと言う。
 俺は言ってみれば保険のセールスマンだ。そして、セールスマンとしては後者のタイプだ。
 この星に保険という言葉も概念もないのには驚いた。しかし、これはチャンスだ。
 俺はまずこの星で保険という概念を伝えることにした。
 まずは入星審査官だ。
「つまるところですね、保険というのは予期できない不幸災難に備えてお金を積み立てていくようなものです。貯金と違うのは積み立てた以上のお金がえられることですね」
 入星審査官は腑に落ちない顔をして聞き返す。
「その金はお前の会社が出すのか。客が積み立てた以上の金を出すんなら、損だろう」
「保険に入っているすべての人が不幸災難にあうわけではありませんから、少数の不幸な人をみんなで助ける形になるわけです」
「じゃあ不幸災難にあわない人間が保険に入ったら損をするわけだな」
「まあそうですけど、不幸災難にあうかどうかは誰にもわかりませんからね」
「ほう?」
 入星審査官は妙な薄笑いを浮かべた。
「何となくわかってきたよ。で、ひとつ聞きたいんだが、その保険とやらに加入してすぐに不幸災難にあっても保険金は支払われるのかい?」
「保険の種類にもよりますが、最初の保険料を支払った後ならすぐに契約は有効です」
「わかった。俺は今のところいいが、知り合いにちょっと当たってみよう。パンフレットを置いといてくれ」
 ちょっと変に思った俺は念を押す。
「契約の約款をよく読んでいただきたいのですが、病気にかかっていることを知っていながら保険に入った場合、契約は無効になります。何より保険金の額が大きい場合、医者の診断書が必要になります」
「今現在、健康でありさえすればいいわけだろう」
「ええ、そうです」
 入星審査官の自信たっぷりの顔にちょっと違和感を覚えたものの、協力してくれるのに否もない。俺はパンフをいくつか渡してゲートを抜けた。
 この星の住民は入星審査官と同様、みんな保険について最初はいぶかしげだったが、俺が説明すると皆乗り気になった。
 俺はその日のうちに生命保険を十口、損害保険を五十口引き受けた。
 翌日からは、保険の説明をする必要もなかった。住民が口コミで伝えてくれたのだ。この星にはいままでなかった概念なので物珍しいのだろう。
 俺は保険の勧誘に行く必要もなくなった。住民の方から俺の泊まっているホテルに押し掛けてきたのだ。契約書類そのものが底を尽き、俺はあわてて本社に送付を依頼した。上司の驚いている顔を見て、俺はほくそえんだ。 どうやらこの星で一生分の契約を取れそうだ。
 しかし、翌月になって俺はまっさおになった。保険契約を行った者たちが次々に病気になったり死んだり、事故にあったりしだしたのだ。
 医者がぐるなのかと疑って調べたが、この星は医者の倫理の面では宇宙でもトップクラスで、とうていありえなかった。事故も意図的なものは発見できなかった。
 俺は頭をかかえた。
 その時、本社から衝撃的な電文が入った。
この星の住民には自分の運命に関することだけだが予知能力があるというのだ。
 これですべてに合点がいった。俺は気落ちしながらも必死に善後策を考えた。
 たこ型宇宙人相手に靴を売りつけようとしたセールスマンも結局は大量在庫をかかえてしまったものの(たこは靴をはかなかった)、何とかさばいたはずだ。
 俺は、本社から送られたこの星の資料を隅から隅まで何度も読み返した。そして、みつけた。
 この星の住民は途方もなくギャンブルが好き、という一文を。
 翌日から俺は保険の売り方を変えた。
 保険の契約者と被保険者が赤の他人でない限り、引き受けないことにした。彼らは自分の運命は知っていても他人のそれは知らない。家族は別として赤の他人に運命を知らせることをタブー視している。そこにギャンブルの発生する要素がある。
 保険の売り方としては邪道だが、この手はあたった。今までは近いうちに何らかの災難にあう人だけがやってきたが、その日以来、猫もしゃくしもやってくるようになった。
 例のセールスマンの例を調べてみたら、彼も靴の大量在庫を、たこ型宇宙人の子どもの遊び道具としてさばいたのだった。
 ものを本来の用途で売る必要はない。
 これは大きな教訓だ。

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