第28話「夜桜だけが知っている」 放映日:1974年4月10日(水) 脚本:ヤンバルクイナ/てつまにあ
☆喫茶店
ゲン「先輩、今度の週刊ドリームの表紙どうするんですか?〆切りまであと2日ですよ、2日!」
十一「うるせぇな。分かってるよ、それくらいオレだって!」
ゲン「だったら早く撮りましようよ。うちの美人揃いのモデルの中から、選り取りみどりですからね〜」
十一「まったく、豆カスみたいなのばっかり揃えやがって、どうやって撮れってんだよ。たまにはもっと食欲湧くようなモデル連れてきてみろって」
ゲン「それは贅沢ってもんですよ。うちのモデルだって、よ〜く見ればみんな個性的美人でしょ。ま、そりゃ、夏代さんに比べれば、世の中の女性すべて豆カスに見えるでしょうけどねぇ?」
十一「まぁ、そう言われれば確かに、、、バカ! モデルのことはいつものことだから仕方ないとしてだな、問題は何処で撮るかだ・・・」
ゲン「え?何処って、スタジオじゃないんですか?」
十一「それがだなぁ、、、稲葉先生が奥さん連れて帰ってきてから、もう荷物だらけで、、、スタジオにまでクィーンサイズのベッド入れちゃって、もうあれじゃ仕事にならねぇよ」
ゲン「でも、稲葉先生たちまたいなくなったんだから、問題ないじゃないですか?」
十一「だから、余計に困ってんだよ。荷物はあのまま、またフラって出てっちゃうし・・・」
(十一、困った顔して外の通りに目を向ける)
十一「そうだ!ゲン!花見だよ!あ、いや、今回は桜の花の下で撮るぞ!」
ゲン「ま〜た、そんな突然思い付いて!花見ですかぁ?は、は〜ん、先輩、読めましたよ。撮影の後、派手にパ〜っといくわけですね!」
十一「さすが後輩、よく解ってるじゃね〜か!だったら、早く支度してこい!モデルだけじゃなくて、ゴザと酒も忘れんなよ!それから、うまい肴もな!」
ゲン「まったく人使い荒いんだから。でも、宴会代までうちの会社持ちにしないでくださいよ!ただでさえ先輩と仕事すると、無駄な出費が多いんですから。いいですね!」(ゲン先に喫茶店を出る)
十一「ちぇっ、花見くらいいいじゃね〜か!まったくケチケチしやがって!(テーブルの伝票に気付き)あっ、ゲン、コ、コーヒー代!!」
―オープニング―
☆栗山邸リビング(日曜の朝食風景)
信「夏代。十一くんは、まだ寝てるのかね?もう婚約もしたことだし、食事くらいいっしょにどうかね?」
夏代「あたしからもそう言ってるんだけど、なかなか生活パターン変えられないみたいで・・」
(夏代、ちょっと寂しげな表情をする)
冬子「夏姉ちゃんも、これから苦労しそうね〜。昨日も寝坊したどうし、秋姉ちゃんとキッチンで食事してたわよ〜」
夏代「そうなの?まったくしようがないんだから・・・」
秋枝「あ〜〜、よく寝た〜!いや、ちょっと寝たりね〜かな、今日は。ともかく腹へって、もう寝てられね〜よ」
(秋枝、パジャマ姿で頭をかきながら入ってくる)
冬子「あら、今日はいつもより早いじゃない。珍しいわね?何かあったの?」
秋枝「いや、いつも2階のフーテンの兄貴と不味いメシ食うより、たまにはみんなとうまいメシでも食おうかなって」
夏代「あら、やだぁ。フーちゃんの話、本当だったのね?」
(新聞広げていた信、食欲なさそうなあまりの様子に気がつき)
信「どうした?あまり。元気なさそうだな?どうかしたのか?」
あまり「う〜ん、ちょっと・・でも、なんでもない・・」
信「なんでも話してごらん。心配ごとがあるんなら」
夏代「それがね、お父さん、四月から担任の先生が変わったでしょ、それが合わないらしいのよ。ね、マリー?」
秋枝「給食をちょこっとしか食わさないとか、そういうのか?」
冬子「またそんなこと〜。こわ〜い男の先生になったの?言いなさいよ、ちゃんと」
あまり「そうじゃなくて、、、口うるさいおばさんみたいでー、、まるで春姉ちゃんみたいなの・・・」
秋枝「そりゃ、災難だな・・・あたしだって食欲なくなるよ、それだったら」
信「な〜んだ、そんなことか。大丈夫さ、じき慣れるさ。あまりなら」
冬子「そ〜ね。あの春姉ちゃんとだって、やってきたんですものね」
信「そんなことより、どうだ。みんなで花見でも行かないか?今日は陽気もいいし、きっと桜も見頃なはずだよ。2階の十一くんも誘って。そうしたら、あまりも元気が出るだろう」
夏代「彼行くかしら?そういうのあまり好きそうじゃないし・・・」
秋枝「酒で釣りゃぁ、すぐ来るって!それとも、姐御の愛情たっぷりのお酌がいいかな?」
夏代「な〜にバカなこと言ってるの!」
(2階から十一、ドタバタと慌てて降りて来る)
信「あ、十一くん、どうかね、これからみんなで花見でも、、、」
十一「あ、おじさん、おはようございます。それが、これから撮影入ってるのに寝坊しちゃって、間に合いそうもないんですよ。多摩川の河川敷まで、これじゃタクシー使うしかありませんねハハハ」
(傍らの夏代に向かって)
十一「な、なんで起こしてくれなかったんだよ〜!昨日、頼んでおいただろ?」
夏代「あ〜ら、そんなこと聞いてないわよ、ぜ〜んぜん。誰か他の方に頼んだじゃないのかしらぁ?」
十一「また、そんな意地悪を・・・。あ〜、とにかくもう時間ないから、行ってくるぜ!じゃぁ!」
(十一、タクアンの切れっ端くわえて、慌てて玄関から飛び出していく)
信「仕方ないな・・わたしらだけで行くとするか・・」
☆多摩川河川敷(桜並木とひどい人混み。近くには騒々しい出店の列)
十一「おい、ゲン!こんな人出で、何処にバッチリな撮影ポイントがあるんだよ?えっ?」
ゲン「お、おっかしいな〜!昨日ロケハンしたときは、こんなじゃなかったんですけどねぇ?」
十一「お、おまえな〜、今日が日曜日だってこと分かってるのかよ?まったく」
ゲン「そ、それくらい、分ってますよ〜。何しろ、今日のモデルの芳江ちゃん、葬儀屋でスカウトしましたからねぇ、日曜日が定休日で、今日しか仕事が入れられないんですよ」
十一「あん?葬儀屋に定休日なんてあったか?」
ゲン「ま、そんな細かいこといいじゃないですか。それより、芳江ちゃん可愛いでしょ?さ、早く撮影してパ〜っとやりましょうよ!先輩」
十一「この娘のどこが、可愛いんだよ、まったく!姥桜か、桜の塩漬けみたいな顔しやがって・・・」
モデル「あ〜、お腹すいちゃった〜!社長、焼ソバ食べたいな、アタシ」
十一「だめだよ!撮影前にそんなもん食って!撮影のとき、ニって笑って、歯に青ノリ付いてたらどうすんだよ!」
ゲン「あ〜、もうちょっと辛抱してね。今日は仕事終わったら、なんと!特別にお花見しながら、宴会しますからね〜!」
十一「とにかく、ゲンこんな場所じゃ撮影にもならね〜よ!何処か、他の場所探せ!」
ゲン「そうですか〜?バックの桜はほんの少しで、芳江ちゃんいっぱいに入れたら、なんとかなりませんかねぇ?あとは、その先輩の天才肌の腕でカバーして!お願いしますよ〜!」
十一「その前に、もっとアップに耐えられるようなモデル連れてこいって!さぁ、次、行くぞ!」
(先にさっさと歩き始める)
ゲン「解りましたよ。もう・・・」
(慌てて十一の後を追い掛ける。手にはゴザと一升瓶と重箱入りの風呂敷包みの大荷物)
☆轟渓谷(栗山一家花見の宴)
秋枝「さすが、姐御の作った料理はうまいな〜!」
信「うん、うん、さすがは夏代だ。短い時間でよくこれだけ揃えられたねぇ?あまりも、しっかり食べるんだよ。いいね?」
あまり「は〜い!」
秋枝「もうすっかり元気になりやがって、げんきんなヤツだな、こいつは」
夏代「あら、よかったじゃない。そのために来たんだから。お父さん、ハイお酒」
冬子「あら、でも本当はこのお料理。もっと違う人のために作ったはずよ〜!ねぇ?夏姉ちゃん?」
夏代「なにバカなこと言ってんのよ。あんなヤツのこと思い出したら、せっかくのお料理が不味くなるわ!さ、食べましょう!」
秋枝「マリーが元気になったかと思ったら、今度は誰かさんがご機嫌斜めか・・」
☆轟渓谷別の場所(十一とゲン、そしてモデル)
十一「へッ、ヘ〜クションッ!だ、誰かまたオレの悪口言ってやがるな・・」
ゲン「先輩どうです?この場所なら?いいでしょ?」
十一「ま、さっきのとこよりマシかな?それより早く撮らねぇと、春の日はつるべ落としって昔から言うからな」
ゲン「それを言うなら、秋の日は、でしょ!先輩。またそんなこと言って、早く呑みたいだけじゃないんですか?」
十一「う、うるせ〜な!そんこと言ってないで、ちゃんとレフ当ててろっ!」
モデル「お花見はま〜だ?お腹すいちゃった〜」
十一「何言ってるんだよ!まだ1枚もシャッター切ってないだろ!その前に、ちゃんとポーズ決めてみろよ!」
ゲン「だめですよ、先輩〜。もっと優しく言わないと。ただでさえ、芳江ちゃんはデリケートなんですから」
十一「なにがデリケートだ?バリケードみたいな、厚化粧しやがって!」
カントク、まだ助けてくれないんですか・・・ゼ〜ゼ〜
ちょこっとお助け28話ー4 投稿者:てつまにあ
☆轟渓谷(別の場所)
十一達歩いてくる。桜の下の周辺に小さい板状の石が散見している
少し離れた場所に、恐そうなお兄さん達がホステス風の女達と花見をしている
十一「よし、ここにしよう。おい、用意しろ」
モデル、服を脱ぎ、ビキニの水着スタイルになる
十一「ポーズ取れ(カメラを構えたまま後ろに下がる)」
十一、後ろに下がり過ぎてヤクザA−大政にぶつかる。はずみでこぼれるビール
十一「あ、すいません(振り返り)あ、ど、どうも」
大政「(ジロッと睨む)」
十一「す、すいません(ゲンとモデルに)おい、は、早くポーズ決めろ」
ゲン「(ビビリながら)は、はい(レフ構える)」
モデル、髪を掻き揚げたり、桜の木に抱きついたり、数ポーズ取る。十一、シャッターを切る
十一「よ、よし、いいだろ。さ、早く帰ろ」
十一たち、そそくさと引き上げようとする
大政「おい、兄さん!」
十一「へ?」
大政「人にビール引っ掛けといて、黙って行くつもりかい?」
十一「も、申し訳ありませんでした(頭を下げ歩き出す)」
大政「待たんかい!」
ビクッと立ち止まる十一たち
大政「皆が花見してる所で、女の写真なんか撮りやがって。折角の気分が台無しじゃねえか
どう、オトシマエつけるんじゃい!」
十一「お、オトシマエって言われても・・」
大政「なに!」
親分「大政、素人さん相手にでけえ声出すんじゃねえよ」
大政「しかし親分」
親分「テメエは黙ってろ!」
大政「へい」
ビビリまくる十一たち
親分「兄さん、すまねえな。ウチの若いヤツが脅かしちまって。俺の顔に免じて、勘弁してくれや」
十一「は、はい、こちらこそ」
親分「今日は花見だ、愉快にやらなくちゃいけねえよね、ハハハ」
十一「(引きつった顔で)ハハ、ハハ」
親分「どうだい?手締めの盃といこうじゃねえか」
十一「いえ、ぼ、ぼくたちは」
大政「親分の盃が受けられねえのか!」
親分「テメエは黙ってろ!(殴る)さ、遠慮しないで座ってくれ」
十一「(ゲンを押して)おい」
ゲン「先輩どうぞ(押す)」
大政「グズグズしてんじゃねえ!」
ビックリしてペタンと座る十一たち。大政、紙コップを十一たちに渡し、ビールをつぐ
十一「ど、どうも(手が震え紙コップがカタカタ鳴る)」
親分「さ、グイーとやってくれ」
十一「(ヤケクソのように飲み干す)」
大政「兄さん、いける口だね。さ、もう一杯いこう」
ゲン「せ、せんぱい(後ろからそでをひっぱる)早く引き上げましょうよ」
十一「今そんなこと言えるか」
大政「何、ごちゃごちゃ言ってやがんでえ!」
十一「いえ、別に」
大政「さ、一杯いこい(注ぐ)」
親分「後ろの兄さんにも注いでやんな。お姉ちゃん、何でも好きなもの食いな。なあ、袖すり合うも縁て言うじゃねえか。皆で愉快にやろう、ハハハ」
ヤケクソで飲む十一、後ろでビビリっているゲン
つづきをどうぞ(笑)
☆轟渓谷内を移動しながら
ゲン「まったく先輩はドジなんだから。それで、もう撮影のほうは大丈夫なんですか?」
十一「大丈夫なワケないいだろ?あんな震えながらシャッター切って、使えるとでも思ってるのかよ。だいたいはだなぁ、ゲンお前がちゃんとロケハンしないからこうなるんだよ」
ゲン「分かりましたよ。芳江ちゃん、もう少しお仕事がんばってね〜」
モデル「え〜、お花見も早くやり直したいのにな〜」
☆轟渓谷
冬子「あら、夏姉ちゃん。あそこで写真撮ってるの、ジャックさんたちじゃない?」
秋枝「お〜、ほんとんだ!アイツもたまには仕事してんだね。いつも金なさそうなシケたツラしてやがんのに」
夏代「変ねぇ?朝は河川敷に行くとか言って、飛び出してったのに?何でこんなところで撮影してるのかしら?」
あまり「お兄ちゃん、カッコいいな〜!私もあのモデルさんのように撮ってほしいな〜!」
秋枝「なにマセたこと言ってるんだよ。十年早いんだよ、コイツは」
信「ねぇ、夏代。適当な頃合い見計らって、十一くんたちに、いっしょにどうぞって声かけてきなさいよ」
夏代「え〜、あたしが?」
信「なんで構わないだろ。もうすぐ結婚する旦那さまじゃないか?」
夏代「でも、まだ何もはっきり言われた訳じゃないし・・・」
信「まだそんな事言ってるのか?それから、出来ればあまりの、、いや皆の記念写真でも撮ってもらえんかねって」
秋枝「姐御が嫌なら、あたしが行って、無理矢理にでも引きずってこようか?その代わり、アバラの2、3本折れても保証しないけどね?」
夏代「わかったわよ。行ってくるわよ。もう・・」
冬子「本当は嬉しいクセにね」
(十一たちに近付く夏代、それに気付くゲン)
ゲン「あっ、夏代さん!」
(十一振り向きながら)
十一「あれ?なんでこんなとこに君がいるんだよ?」
夏代「あら、いたらいけないの?ここはあなたのお庭だったかしら?」
十一「そうだよ。その昔、田中のおっさんから親父が貰って・・・」
夏代「またバカなこと言って!今朝言ったでしょ。皆でお花見に行きましょうって。それでね、お仕事終わったら、ごいっしょにどうぞって、お父さんが。それから悪いんだけど、みんなの記念写真撮ってもらえないかしら・・」
十一「オレたちは遊びに来てるわけじゃないよ。見れば解るだろ。し、ご、と!」
夏代「あら、そうなの?じゃ、あれ、玄也さんの抱えてるお荷物なにかしら?ゴザと一升瓶も撮影の小道具?」
ゲン「ハハハ・・・」
十一「分ったよ。行けばいいんだろ?全く結婚前から、人使い粗いんだから・・・」
(ゲン、夏代の耳元で)
ゲン「先輩、あれで本当は嬉しいんですよ。昨日なんて、世の中の女なんて、夏代さんに比べたらみんな豆カスみたいだなんて・・・」
夏代「え、そうなの?ふ〜ん」
(嬉しそうな顔して戻っていく)
(夏代たちに合流する十一たち)
信「いや〜十一くん。仕事は終わったかね?いや、却ってご迷惑かと思ったんだけどね、夏代がせっかくこしらえた料理もまだたくさん残っているもんだからね」
ゲン「いや〜すみませんね〜。わたしたちまでお邪魔しちゃって。これ全部夏代さんの手料理ですかぁ?いやぁ、羨ましいなぁ先輩が。そうそうわたしも料理持ってきたんですよ。どうぞ遠慮なく」
(ゲン持参の安っぽい重箱開く)
十一「な、なんだゲン。この料理は?タクアンにダイコンに、まるで長屋の花見そのものじゃねぇか?」
ゲン「分ってるんだったら、卵焼きにカマボコって言ってくださいよ。いやだな〜!先輩だったら、こういう趣向のほうが喜ぶかと思って、苦労して準備したんですから!でも、ほら、酒だけは本物!さ、夏代さんのお父さんもいきましょう」
十一「けっ、ただ予算がないだけだろが・・・」
・
・(時間経過を表すロングの画で、みんなの記念写真を写す十一)
・
信「いや、今日は楽しかった。十一くんたちもありがとう。無理矢理に誘って悪かったね。どうだい、これから家に戻って、呑み直すってのは?」
十一「こちらこそ、楽しかったですよ、おじさん。ありがとうございます。でも、これからスタジオに戻って現像しないと、明日が〆切なんですよ。すみません」
信「そうかね、それは残念だけど、仕事なら仕方ないね。じゃぁ、後で夏代にスタジオへ何か届けさせるよ」
☆栗山邸リビング
(電話が鳴る)
秋枝「はい、シャングリラ、、じゃなくて栗山です。な〜んだ、フーテンの兄貴か?なんだ今頃?アイツ出してくれって?アイツじゃわかんね〜よ。ただでさえ、うちは家族多いんだからさ。名前で言ってもらわないと。えっ?小さい声じゃわからねぇよ。えっ?夏代さん?最初からそう言えばいいのに、こいつ照れやがって!」
秋枝「お〜い姐御〜!ダンナから電話だよ!」
夏代「もう、この忙しいのに」
夏代「な〜に、今頃どうしたの?え、露出計?知らないわよ、そんなもの」
十一「それは弱ったなぁ、今現像終わって、機材の片付けしてたら、露出計が見当たらないんだよ。今、スタジオで使える露出計はあれひとつだけだし、明日も撮影入っているし、やっぱり花見のときかな?置き忘れたの?みんなの記念写真撮るまでは、あったからな・・・これから探しに行ってみるよ・・」
(受話器を置く)
夏代「あたしが、記念写真撮ってって頼んだのがいけなかったかしら・・・ちょっと秋ちゃん、出掛けてくるから、後片付けお願いね」
秋枝「おっ、これから、スタジオでデートかい?焼けるね〜」
☆夜の轟渓谷、桜がライトアップされている
(茂みで探し物をする十一)
十一「確か、この辺だったはずだけどなぁ・・・まいったなぁ・・」
(十一を見つけ、背後から近付く夏代)
夏代「どう、見つかった?」
十一「び、びっっくりさせるなよ〜!なんだ、君も来てくれたのか?」
夏代「あら、迷惑だったかしら?記念写真頼んだ手前、あとで弁償させられるのも困るからね、だから探しにきたの」
十一「まったく、こんなときにまで憎まれ口たたくんだな、君は!」
夏代「あら、あの枝先にぶら下がってるの、何かしら?」
十一「え、どこ?」
夏代「ほら、あそこの!」
十一「そ、そうだよ!これだよ!あ〜助かった!また神谷編集長に借金する口実考えないで済んだよ、これで〜!」
夏代「よかったじゃない。あなたかなり酔っぱらって、踊ったりしてたから、そのときね、きっと」
十一「いや〜こんなに肝が冷えたのは、君に結婚話キャンセルされたとき以来だよ」
夏代「へ〜、あのとき、そんなにショックだったの?」
十一「当たり前さ、いちばん好きなおんなに結婚キャンセルされたら、誰だって」
夏代「好きなおんなか、、、最近聞いてなかったわね、その言葉。で、今はどう?」
十一「え?・・・」
(桜のライトアップの電気が急に落ちる)
夏代「あらっ?」
十一「ちょうど時間なんだよ」
(遠くの水銀灯をバックに、ひとつになる二人のシルエット)
夏代「さっきの質問に、ちゃんと答えて」
十一「これが答えだよ・・・」
―おわり―