第33話「永遠の誓い」 放映日:1974年6月5日(水) 脚本:てつまにあ

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☆朝・リビング
 秋枝、冬子、信、あまり食事している
  冬子「どうしたのよ、秋姉ちゃん」
  秋枝「朝からベタついたもんを見せられると思うと、食欲も無くなるよ」
  冬子「ホントね。昨夜も、ソファーのところでイチャイチャしちゃってさ」
  信「仕方ないよ。籍を入れて三日しか経ってないんだから」
  秋枝「甘いムードも結構だけどね、もう少し周りの事も考えてもらいたいよ」
  冬子「そうよ。これじゃノイローゼになっちゃうわ」
  十一「(声)なんだってんだよ、うるせえな」
  夏代「(声)私は当たり前の事言ってるだけじゃない」
 秋枝、冬子、顔を見合わせる
  十一「(入って来て)それが余計なお世話だって言うんだよ」
  夏代「(入って来て)あんたみたいなへそ曲がりにはね、こうでも言わなきゃ判んないのよ」
  十一「バカヤロウ、女のくせに生意気言うな!」
  夏代「バカとは何よ!フーテン!デバガメ!いそぎんちゃく頭!トウヘンボクのスカンピン!」
  十一「何だと!」
  信「(間に入って)ど、どうしたんだよ、朝から」
  夏代「フン!このゴキブリ男に聞いてちょうだい!(座って食べ始める)」
  十一「テメエ、この野郎」
  信「じゅ、十一君、落ち着いて。何があったんだい?」
  十一「(憮然と)何でもありませんよ(座って食べ始める)」
  秋枝「(小声で)やっと落ち着いてメシが食えるよ」
  冬子「(小声で)やっぱり喧嘩してる方がお似合いね」
  信「(オロオロと)十一君、夏代、どうしたんだい?」
 十一、夏代、同時に白菜のお新香に手を伸ばし「フン!」と顔をそむける
―オープニング―

☆玄関ホール
 十一、不機嫌な顔で2階から降りて来て、靴を履く
 夏代、洗濯物を持って信の部屋から出てくる
  十一「行ってくる」
  夏代「・・・」
  十一「行ってくる!」
  夏代「うるさいわね、さっさと行きなさいよ」
  十一「ケッ、あ〜あ、女房がいるのに、ボタンのブラブラしたシャツ着なきゃなんないなんてなあ。
     俺はなんて不幸な男なんだろ(出て行く)」
  夏代「(舌をベーッと出す)」

☆大学学食
 冬子、秀子、カレーライスを食べている
  秀子「へえ、朝から喧嘩か。でもさ、よく聞くじゃない。結婚して些細な事で幻滅しちゃうって話」
  冬子「それならいいけど」
  秀子「違うの?」
  冬子「そうなの。何でもね、夏姉ちゃんが新しいシャツ買ってきたらしいのよ。それを着る着ないでもめたんだって」
  秀子「何だ、痴話喧嘩」
  冬子「そう。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。お父さんなんてオロオロしちゃってさ、可哀想よ」
  秀子「ねえ、今日遊びに行っていい?」
  冬子「なんで?」
  秀子「どうやって仲直りするか、興味あるもん」
  冬子「デコも悪趣味ね」

☆スタジオ居間
 十一、イライラと煙草を吸っている
  ゲン「(お茶を入れて)そんなに怒ることないでしょ」
  十一「うるせえ!あの野郎、生意気なこと言いやがって」
  ゲン「そんなのはね、言う通りにすりゃいいんですよ」
  十一「何で女房の言う通りにしなきゃなんないんだよ!」
  ゲン「ほら、女の子って着せ替え人形が好きでしょ?だから愛する旦那様にも、自分の気に入った物を着せたがるもんなんですよ」
  十一「結婚もしてねえくせに、判ったようなこと言うな!」
  ゲン「そんな細かい事に一々目くじらたてずに、デーンと構えて肝心な所をギュッと握ってりゃいいんですよ」
  十一「肝心なところ?」
  ゲン「ええ、その方が大物に見えますよ」
  十一「大物ねえ・・肝心な所をギュッとか・・ベッドの中じゃギュッと握ってるからな、ハハハ、昨夜もへへへへ、そばに居てねだなんて言いやがって、あの野郎、ヒヒヒヒ、待ってろよー!」
  ゲン「またおかしくなっちゃった」

☆居間(昔の十一の部屋)
 夏代、机で詩を書いている
 机の上の写真たてには、二人の写真が入っている
  夏代「(原稿用紙をクシャクシャに丸めて)あ〜あ(写真を見る)人の気も知らないで。トンチキ」

☆東和毛織・販売部
 信、デスクで書類を見ている。電話が入る
  信「(取って)ああ、私だ・・面会?」

☆ティールーム
 信、入って来て見回す
  声「栗山」
 信、声の方を見る。大場鉄也が座っている
  信「(前に座り)いやあ、驚いたよ。帰国したのは新聞で読んだが、忙しいと思ってな」
  鉄也「俺も早く連絡しようと思ってたんだが、晩餐会だの何だのとあってな」
  信「でも良かった。で、例の話、承知してくれるだろ?」
  鉄也「結婚式か?」
  信「ああ、出席してくれるだろ?」
  鉄也「俺が顔を出すと、十一が嫌がるんじゃないか?」
  信「そんな事はないさ。口には出さんが、心の中ではお前の事を気にしてるんだ」
  鉄也「そうかな」
  信「そうとも。それに、夏代をお前と奥さんに会わせたいし」
  鉄也「大事な娘を、十一なんかにくれてやっていいのか?」
  信「いやあ、十一君は良い青年だよ」
  鉄也「お前も年だな、そんなお世辞言うなんて。ハハハ」
  信「いや、本当にそう思ってるよ」
  鉄也「それで、うまくいってるのか?」
  信「ああ、仲良くやってるよ」
  鉄也「そうか・・十一がな・・(遠くを見る)」
  信「大場・・」
  鉄也「俺も年かな、こんな事くらいで」
  信「いや、父親なら当然だよ」

☆リビング
 夏代、頬杖をついて雑誌を見ている。心ここにあらずという感じ

☆冬子の部屋
 秀子、ドアの隙間からリビングを覗いている
  冬子「よしなさいよ」
  秀子「いいじゃない。早く帰って来ないかな」
  冬子「今日は遅いんじゃない」
  十一「(声)ただいま」
  秀子「帰ってきた」
  冬子「ほんと?(ドアに駆け寄り覗く)」

☆リビング
 十一、入って来る。夏代、気づかないように雑誌を見ている
  十一「んん(咳払い)」
  夏代「あら、いたの」
  十一「ただいまって言ったろ」
  夏代「ぜんぜん聞こえなかったわ」
  十一「チェッ・・あのさ、シャツのボタン取れた」
  夏代「あ、そう」
  十一「何だよ、付けてくんねえのか?」
  夏代「余計なことするなって言ったでしょ」
  十一「クソッ、いいよ、自分で付けるから!(出て行く)」

☆冬子の部屋
  冬子「道のりは遠そうね」
  秀子「まだ判らないわよ」

☆リビング
 夏代、落ち着かないようにメチャクチャにページを捲る
 ふと手を止めて、慌てて出て行く
 秀子、出てきて玄関の方へ
  冬子「(出てきて)ちょっと、どこ行くのよ」
  秀子「いいから」

☆玄関ホール
 夏代、階段を上がり2階へ
 秀子と冬子、出てきて足音を忍ばせて階段へ

☆寝室
 十一、上半身裸、不器用な手つきでボタンをつけている
  十一「イテッ、チクショウ、やってられるか!(シャツを放り投げベッドに寝転ぶ)」

☆2階廊下
 夏代、寝室に入る
 秀子と冬子、足音を忍ばせドアの前に近寄り、中の様子を窺う

☆寝室
 十一、寝転んだまま顔だけ向ける
 夏代、放り出されたシャツを拾う
  夏代「あら、もう終ったの」
  十一「それ捨てちまえ」
  夏代「もったいないじゃない」
  十一「おい、着替え出せ」
  夏代「着替えって?」
  十一「ほら、今朝見せたヤツ、アレだよ」
  夏代「ああ、アレね。いらないって言うから返してきちゃった」
  十一「何だよ、勝手な事しやがって。じゃいいよ、明日この格好で出かけてやるから」
  夏代「ブッ(吹きだす)」
  十一「笑い事じゃねえだろ」
  夏代「(タンスからシャツを出し)これの事かしら」
  十一「なんだ、あるんじゃねえか(ひったくって着る)」
  夏代「本当に素直じゃないわね(ベッドに腰かける)」
  十一「フン!」
  夏代「フフフ、子供みたい」
  十一「うるせえな」
  夏代「(エリを直して)大きさもピッタリ」
  十一「ど、どうだ?」
  夏代「マネキン人形よりはマシかもね」
  十一「どういう意味だよ」
  夏代「うん?似合うわよ」
  十一「惚れ直したか?」
  夏代「ばーか」
  十一「この野郎(くすぐる)」
  夏代「やめて、ハハハ」

☆2階廊下
 冬子、秀子、足音を忍ばせて、ドアの前から離れる  

☆玄関ロビー
 冬子、秀子、階段の上に出てくる
  秀子「何だか、アッケないわね」
  冬子「こんなもんよ」
  秀子「愛し合ってるんだもんねえ」
  冬子「あ〜あ、また見せ付けられるんだわ」
  秀子「そうねえ」

☆リビング
 仲良く食事している十一と夏代、横目でみている冬子、あまり、信はニコニコしながら見ている
  夏代「ねえ、この野菜炒め、少し味が薄かったかしら?」
  十一「そんな事ねえよ(食べて)うん、俺はこれくらいのが好きだな」
  夏代「良かった・・ごめんね、朝ヘンな事言って」
  十一「俺だって色々言っちゃってさ・・悪かったよ」
  夏代「いいのよ」
  十一「じゃあ、おあいこだな、ハハハ」
  夏代「うん」
  冬子「(小声で)ああ、何か身震いしてきちゃった」
  秋枝「(入って来て)ただいま」
  夏代「お帰りなさい」
  十一「お茶」
  夏代「あ、はい(急須で注ぐ)」
  秋枝「(座って)なんだ、もう戻っちまったのか」
  冬子「(小声で)前よりひどくなったみたいなの」
  秋枝「やってらんねえな(食べて)なんだ、この野菜炒め、味が薄すぎるよ(コショウを振る)」
  夏代「クシュン、ごめんなさい」
  十一「おい、コショウの瓶振り回すなよ!クシャミしてるじゃねえか」
  秋枝「それはどうも、気が付かなくって(振る)」
  十一「へ、へ、ヘックション!」
  冬子「やだ、ツバ飛ばさないでよ」
  夏代「しょうがないでしょ、クシャミなんだから(十一の顔を拭き)大丈夫?」
  十一「ああ(ワザとらしく)お前は地獄に咲いたユリみたいだなあ」
  夏代「え?やだもう」
  十一「ホントさ。こっち見てると食欲が無くなるから、お前の顔見ながら食べよう(横向きに座る)」
  夏代「そんなに見てたら食べられないじゃない」
  十一「へへへ」
  秋枝「チェッ、明日から2階で食ってくれよ」
  冬子「ほんとよ。おちおち食事も出来ないなんてさ」
  信「まあ、いいじゃないか。こうして皆で食事するのが一番だよ」
  秋枝「そう思ってるのは親父だけだよ」
  あまり「私も一緒の方がいいな。だって面白いもん」
  秋枝「チビは黙ってな」
  十一「(シャツの上にご飯をこぼし)いけね(急いで拭く)」
  夏代「洗濯すれば大丈夫よ」
  十一「だって、折角お前が買ってくれたのにさ」
  夏代「気に入った?」
  十一「当たり前だろ、へへへ」
  秋枝「(小声で)夜中に木刀で叩きのめしてやる」

☆居間(昔の十一の部屋)
 十一、テーブルの前で酒を飲んでいる
  夏代「(入って来て)もう飲んでるの?」
  十一「うん、何か暑くてさ」
  夏代「ね、お風呂入っちゃって」
  十一「え?ああ」

☆風呂場
 十一、頭に手ぬぐいをのせ湯船に入っている
  十一「もう少し広けりゃ一緒に入れるのになあ・・この壁ぶっ壊してデカイ風呂バーンと入れるかそうすりゃ、へへへ」
  夏代「(扉を開けて)着替え出しといたわ」
  十一「うん。背中流してくれないのか?」
  夏代「ええ?またヘンな事考えてるんでしょ。やあよ(閉める)」
  十一「なんでえ、毎晩ヘンな事させてるくせに」

☆リビング
 秋枝、木刀で素振りをしている
 十一、風呂上り姿で入って来る
  十一「何してんだよ、こんな時間に」
  秋枝「見りゃわかるだろ」
  十一「そんなこと庭でやれよ」
  秋枝「今、気が立ってるんだよ。ヘンな事言いやがると首が飛ぶよ」
  十一「ケッ、欲求不満のヒステリー」
  秋枝「(素振りをやめて)何だって?(木刀の剣先を十一の鼻先に向ける)」
  十一「よせよ、よせったら(後ずさる)」
 夏代、着替えを持って入って来る
  夏代「どうしたの?」
  秋枝「未亡人になりたくなきゃ、口にチャックしとけって教えとくんだね(素振りを始める)」
  夏代「何か言ったの?」
  十一「別に(出て行く)」
  夏代「秋ちゃん、彼が何か言ったの?口は悪いけど、悪気は無いのよ。だから許してあげて。ね?」
  秋枝「ああ、わかったよ」
  夏代「良かった(風呂場へ)」
  秋枝「姐御もすっかり骨抜きにされちまったな」

☆居間(昔の十一の部屋)
 十一、テーブルの前で酒を飲んでいる
  十一「チクショウ、ちょっと腕力が強いからって」
 夏代、髪にタオルを巻き、パジャマ姿で入って来る
  夏代「まだ飲んでるの?」
  十一「え?ああ、もうちょっと」
  夏代「二日酔いになっても知らないわよ(出て行く)」

☆寝室
 夏代、入って来る
 ドレッサーの前に座り、顔の手入れ

☆居間
  十一「(寝室の方を窺いながら)あいつらがいなくなったら、風呂場の壁ぶっ壊してデカイ風呂入れてやるそして二人で・・へへへへ」
  夏代「(声)十一さん、何してるの?」
  十一「ああ、今行く。さあ、お勤めを果たさなくっちゃ(いそいそと出て行く)」

☆朝の街

☆リビング
 食事している面々
  信「いよいよ明日結婚式だな」
  夏代「ええ」
  信「ウェディングドレスは、今日取りに行くのかね?」
  夏代「あとで二人で行ってくるわ」
  信「そうか、うんうん」
  あまり「帰ってきたら、着てみて」
  秋枝「(うんざりした顔で)明日になりゃ見られるだろ」
  あまり「いいじゃないさ」
  十一「じゃあ、マリーにだけ特別に見せてやるよ」
  あまり「ホント?綺麗だろうなあ」
  十一「綺麗だなんて、そんな」
  秋枝「あんたが照れることないだろ」
  冬子「そうよ。鼻の下50センチも伸ばしちゃってさ」
  十一「ついでに俺の凛々しいタキシード姿も拝ませてやる」
  冬子「遠慮しとくわ」
  秋枝「二人でやってくれよ」
  十一「チェッ、冷たい妹達だな。でも、その方がいいか。あんまり凛々しくて惚れられても困るしな」
  冬子「冗談じゃないわよ、誰が」
  秋枝「姐御みたいな物好きが他にいるかよ」
  十一「そうだ、写真撮ろうか?」
  夏代「写真?」
  十一「ああ、明日は俺が撮影するわけにいかねえからな。ゲンの野郎じゃ、どんなピンぼけになるとも限らねえし。だからさ、な?」
  夏代「うん、そうね」
  十一「俺の腕で女優みてえに綺麗に撮ってやる、ハハハ」
  夏代「お願いね」
  十一「判ってるって(ウィンク)」
  秋枝「(小声で)胸くそ悪くなって来た」
  冬子「(小声で)先が思いやられるわ」
 電話、鳴る
  夏代「(取って)もしもし・・そうです・・稲葉先生?・・もしもし、先生?・・ええ、有難うございます。はい、います(十一に)先生からよ」
  十一「(取って)もしもし・・どこにいるんですか?」

☆パキスタン・病院
 稲葉、電話ボックスの中にいる
  稲葉「どこって、パキスタンだよ」
  十一「(声)まだ、そんなとこにいるんですか!明日なんですよ、結婚式は!」
  稲葉「判ってるよ。実はさ、赤ん坊が熱出しちまってよ」
  十一「(声)ええ?」
  稲葉「ちょっと、行けそうもないんだ」

☆リビング
  十一「今さら、そんな事言ったって・・」
  夏代「先生来れないの?」
  十一「赤ん坊が病気なんだって」
  夏代「そう・・」
  稲葉「(声)悪いな。近いうちに必ず行くからよ」
  十一「しかしですね・・」
  夏代「(受話器を取って)先生、奥さんのそばに居てあげて下さい」
  稲葉「(声)ごめんよ」
  夏代「私達の事は気にしないで」
  稲葉「(声)君の花嫁姿が見れなくて、残念だけど」
  夏代「写真送ります」
  稲葉「(声)ありがとう。夏代さん、トイチの事頼むよ。口じゃ偉そうな事言ってるけど、やってる事は俺と大差ないからね、ハハハ」
  夏代「ホント、フフ(十一を見る)」
  十一「(キョトン)」
  稲葉「(声)幸せにね」
  夏代「はい・・先生、ありがとう」
  稲葉「(声)じゃ、トイチによろしくな」
  夏代「さよなら(切る)」
  十一「何がホントなんだよ?先生何だって?」
  夏代「うん?あなたによろしくって」
  十一「それだけか?自分勝手なんだから、全く」
  夏代「この弟子に、この師匠ありって事ね、フフフ」
  十一「チェッ」

☆パキスタン・病院
 稲葉、診察室前廊下に立っている
 チェバスカ、赤ん坊を抱いて出てくる
  稲葉「ベビー、OK?」
  チェバスカ「ネツ、スグ、ダウンスル。ドクター、モウシテタ」
  稲葉「そうか、良かった」
  チェバスカ「トイチ、マリッジ、ダイジョウブ?」
  稲葉「今、電話したよ。さ、ホームに帰ろう」
  チェバスカ「ハイ」
 稲葉達、出口の方へ歩いて行く
 
☆多摩川河原・土手上の道
 十一と夏代、手に貸衣装の箱を持って歩いてくる
  夏代「あ、可愛い」
  十一「うん?」
 河原によちよち歩きの赤ん坊が、母親と共に遊んでいる
  夏代「ねえ、いつ出来るかしら?」
  十一「何が?」
  夏代「私たちの赤ちゃん」
  十一「そればっかりは、神様に聞いてみなくちゃな」
  夏代「そうねえ」
  十一「今すぐ欲しいか?」
  夏代「もう少し二人でいたい気もするけど・・先生の話聞いてたら、欲しくなっちゃった」
  十一「じゃあ、もっと頑張らなくちゃな」
  夏代「そういう意味じゃないの」
  十一「どう言ったって、意味は同じだろ」
  夏代「違うわよ」
  十一「どう違うんだよ?」
  夏代「あなたみたいに、いやらしくないもん」
  十一「こいつ、人を色ボケみたいに言いやがって」
  夏代「(ぺロッと舌を出して、駆け出す)」
  十一「この野郎、待てよー(追い駆ける)」

☆リビング
 秋枝、冬子、あまり、貸衣装のウェディングドレスを見ている
  あまり「きれい」
  冬子「私も早く着たくなっちゃう」
  秋枝「ちょっと合わせてみなよ」
  夏代「(立ち上がってドレスを合わせ)どう?」
  冬子「素敵」
  あまり「ホント」
  秋枝「あいつ、失神するんじゃねえか」
  夏代「そお?ちょっと見せてくる(出て行く)」
  秋枝「姐御、幸せそうだな」
  冬子「やけてきちゃう」

☆居間(昔の十一の部屋)
 十一、撮影の準備をしている
  夏代「(入って来て)どう?(ドレスを合わせる)」
  十一「(ジーッと見入る)」
  夏代「ねえ、どうなの?」
  十一「ん?あ、ああ、き、綺麗だよ」
  夏代「ホント?」
  十一「もちろんさ。デッカく引き伸ばして玄関に飾りたいくらい、ハハハ」
  夏代「オーバーねえ」
  十一「ちょっと着てみろよ。撮影するから」
  夏代「うん、ちょっと待ってて(出て行く)」
  十一「あいつ・・ホントにいい女だな、へへへ」

☆庭
 夏代、ウェディングドレス姿で立っている。秋枝、冬子、あまり、外階段のところから見ている
 十一、三脚にのせたカメラを覗いている
  十一「もうちょい右、そうそう(近づき)この裾をもう少し広げて、手は前で組み合わせて」
  冬子「仕事より熱心なんじゃない?」
  秋枝「仕事もこれくらいやりゃいいのに」
  十一「俺におはようって言う時の顔で(カメラの方に戻り)目線この辺。いいか、撮るぞ。はい(カシャ)もう一枚、はい(カシャ)オッケー!」
  夏代「どんな感じかな?」
  十一「バッチリに決ってるだろ。一流のカメラマンが、最上級の女を撮影したんだから、ハハハ」
  秋枝「アホくさ(家の中へ)」
  冬子「やってらんないわ。マリーもいらっしゃい」
 冬子、マリー、家の中へ
  十一「邪魔者は去ったか」
  夏代「ねえ、どう?」
  十一「綺麗だよ」
  夏代「ホント?」
  十一「ああ、このままベッドに連れて行きたいくらいさ」
  夏代「嬉しい」

☆リビング
 十一、秋枝、冬子、あまり、信、お膳の前に座っている
 夏代、冷蔵庫から出した紙袋を持って、入って来る
  夏代「(座って袋からアイスのカップを出す)」
  十一「これは、俺からのおごり、遠慮しないでどうぞ」
  秋枝「何がおごりだよ。50円のアイスじゃねえか」
  十一「50円だろうが1万だろうが、おごりはおごりだろ」
  冬子「もっとマシな物でもおごって欲しいわ」
  十一「イヤなら食うなよ」
  秋枝「誰も食わないとは言ってないだろ」
  十一「だったら、ブーたれずに食え」
  あまり「(食べて)つめたーい」
  信「うん、美味しいよ」
  十一「そりゃどうも(食べる)」
  夏代「今日暑かったから、丁度良かったわね(食べる)」
  秋枝「熱いのは今日だけじゃないだろ」
  冬子「毎日おごってもらわなきゃ、割りにあわないわよ」
  十一「(夏代のカップを見て)お前のストロベリーか」
  夏代「食べる?」
  十一「じゃ、ひと口(口を開ける)」
  夏代「(ひと匙すくって)はい」
  十一「(食べて)うまい。俺のも食べるか?バニラ味だけど」
  夏代「うん」
  十一「(ひと匙すくって)あ〜ん」
  夏代「(食べて)美味しい」
  十一「へへ(食べて)この匙、お前の味がする」
  夏代「やあね、もう」
  十一「へへへ」
  冬子「余計暑くなっちゃった」
  秋枝「今度氷漬けにしてやる」

☆寝室
 十一、ベッドに寝てくわえ煙草で考えている
 夏代、ドレッサーの前で髪をとかしている
  夏代「あなたが、何考えてるか当ててみましょうか?」
  十一「え?」
  夏代「結婚式なんて面倒くさい、そう思ってるんでしょ?」
  十一「何で判るんだよ?」
  夏代「あなたの考えてる事なんてお見通しよ」
  十一「チェッ」
  夏代「やめたくなっちゃった?」
  十一「うん、まあ・・でも、親父さんには君の花嫁姿、見せてやりてえしな」
  夏代「へえ、あなたでもそんな事考えるの?」
  十一「バカヤロウ、俺だってそれぐらいの事」
  夏代「そうよね。そういうとこが大好き」
  十一「だったら、いつまでも髪の毛とかしてんなよ」
  夏代「判ってるわよ」
 夏代、電気を消してベッドに入る
  十一「ま、明日は親孝行だと思って、我慢するさ(煙草を消す)」
  夏代「その前に、女房孝行もしてよ」
  十一「慌てんなよ」
 十一、枕元のスタンドを消す  

☆朝の街

☆玄関ホール
 秋枝、冬子、あまり、おめかしして立っている
 十一と夏代、正装して2階から降りてくる
  夏代「お父さんは?」
  秋枝「部屋だよ」

☆信の部屋
 信、正装して落ちつかなげに座っている
 夏代、入って来て座る
  夏代「お父さん、今まで長い間お世話になりました」
  信「うん?な、なんかヘンだな(涙ぐみ)これからだって一緒に住むのに、ハハ」
  夏代「色々ありがとうございました」
  信「(泣きながら)おかしいよ、ハハ、なんかへんだよ」
  夏代「(泣きながら)お父さん」
  信「(立ち上がって背を向け)夏代、幸せになるんだよ」
  夏代「はい」

☆玄関ホール
 十一、秋枝、冬子、しんみりした顔で立っている
  ゲン「(慌しく入って来て)いやあ、お待たせしました」
  十一「おせえな。何モタモタしてんだよ」
  ゲン「日曜日は道路が込んでるんですよ。それにしても、先輩」
  十一「何だよ?」
  ゲン「あの、いらっしゃいませって、言ってくれます?」
  十一「なんで?」
  ゲン「いいから、ちょっと」
  十一「いらっしゃいませ」
  ゲン「はあ、やっぱりキャバレーの呼び込みですねえ」
  十一「(頭を叩き)くだらねえことさせるな!」
 夏代、信の部屋から出てくる
  十一「ちゃんと挨拶したか?」
  夏代「うん(ハンカチで涙を拭く)」
  ゲン「ヒョ―」
  十一「なんだよ、ヘンな声だしやがって」
  ゲン「いや、目がクラクラッとして」
  十一「お前のきたねえ目でジロジロ見るなよ」
  ゲン「はあ、素晴らしい・・」
  十一「そんな事してるヒマねえだろ。時間がねえんだよ」
  ゲン「あ?そうでした」
  十一「(夏代の手を取り)おい、裾引きずらねえように持て」
  ゲン「はいはい(裾を持つ)」
 十一、夏代、靴を履く
  秋枝「じゃあ、私たちは後から行くから」
  十一「ああ、親父さん、頼むぞ」
  秋枝「任しときなって」
 十一、夏代、ゲン、出て行く

☆栗山邸外
 カローラが停まっている
  十一「こんな小せえ車借りてきたのか」
  ゲン「予算の都合がありまして」
  十一「ケッ(夏代に)頭ぶつけんなよ」
  夏代「(乗る)」
  十一「(乗って)おい、出せ」
  ゲン「はいはい、これじゃお抱え運転手だよ(乗る)」
 カローラ、走り出す

☆玄関ホール
  信「(出て来て)夏代たちは、行ったのか」
  冬子「今行ったとこ」
  信「そうか」
  秋枝「じゃあ、私たちも行くか」
 秋枝、冬子、あまり、靴を履く
  秋枝「親父、早くしなよ」
  信「ああ(靴を履く)」
 信、秋枝、冬子、あまり、出て行く    

☆教会・中
 十一と夏代、神父の前に立っている
 左右の席に信、春子夫婦、秋枝、冬子、秀子、あまり、ゲン、神谷立っている
  神父「コホン(咳払い)あの、まだですかね?」
  信「え?もうちょっと、待って下さい」
  神父「こっちにも予定があるんですがね」
  信「もう少しですから(ドアの方を振り返る)」
  十一「(小声で)どうしたんだよ?」
  夏代「(小声で)判んないわよ」
 表にタクシーの停まる音
  信「あ、来た」
 ドアが開き、鉄也と邦子入って来る
  十一「(驚いて呆然とする)」
  信「(二人に近づき)遅かったなあ」
  鉄也「東京の交通渋滞は酷いもんだな」
  信「奥さん、よく来て下さいました」
  邦子「こちらこそ。結婚式に出席出来るなんて、思ってもいませんでした」
  信「さ、こっちへ」
 信に導かれ、鉄也と邦子は十一と夏代の前に
  鉄也「それにしても綺麗だ。十一には勿体無いな、ハハハ」
  信「いやあ、十一君なら大丈夫さ。さすがにお前の息子だよ」
  鉄也「それはこっちの台詞だ。お前の娘なら安心だ、ハハハ(夏代に)夏代さん、こんな息子だがよろしく頼みますよ。腑抜けた事を言ったら、遠慮なく言ってやって下さい」
  夏代「はい」
  邦子「夏代さん、十一はこんな風ですけど、寂しがりやで甘えん坊なんです。だから、しっかり支えてやって下さいね。よろしくお願いします」
  夏代「(目を潤ませて)はい」
  邦子「十一、夏代さんを守ってあげるのよ。いい?」
  十一「ああ」
  鉄也「お前もこれで一人前だ。夏代さんを泣かすんじゃないぞ」
  十一「(肯く)」
  鉄也「(手を差し出す)」
  十一「(照れ臭そうに手を握る)」
  鉄也「頑張れよ」
  十一「(肯く)」
  信「(神父に)それじゃ、そろそろお願いします」
  神父「え?ああ、わかりました」
      ×       ×
 厳かな賛美歌が流れている
  神父「大場十一、汝は栗山夏代を妻として定め、病める時も健やかなる時も愛し慈しむ事を誓うか」
  十一「はい、誓います」
  神父「栗山夏代、汝は大場十一を夫として定め、病める時も健やかなる時も愛し慈しむ事を誓うか」
  夏代「はい、誓います」
 笑顔で見守っている面々
  神父「指輪の交換を」
 十一は夏代に指輪を嵌め、夏代は十一に指輪を嵌める
  神父「では、神の前で愛のくちづけを」
 十一、夏代の目を見つめキス。夏代の目から涙がこぼれる
 拍手と「おめでとう」という言葉が、二人に浴びせられる
 しっかりと抱き合う二人

☆夜・栗山邸外
 賑やかな声が家の中から聞こえる

☆リビング
 お膳に料理が並び、十一と夏代を囲んでの酒宴
  秋枝「あー、やれやれだ」
  冬子「でも、いい結婚式だったわよね」
  秋枝「ああ」
  信「(溜息)」
  秋枝「親父、しっかりしなよ」
  信「ん?」
  冬子「そうよ。まだ3人残ってるんですからね」
  信「ああ、そうだったね。お前達が嫁に行くまでは、元気でいなくちゃな」
  秋枝「そうさ」
  冬子「頑張ってね、お父さん」
  信「もちろんだとも、ハハハ。十一君、夏代のこと頼むよ」
  十一「任しといて下さい、ヒック」
  信「孫の顔を早く見せてくれよ」
  十一「ええ、立派な子供を産んでみせます」
  秋枝「あんたが産むわけじゃないだろ」
  十一「あ、そうか、ハハハ。じゃ、毎晩夜も寝ずに」
  夏代「(つねって)ヘンな事言わないで」
  十一「うん」
  神谷「なんだ、もう尻に敷かれてるのか。いいか、女房なんてもんはな、最初が肝心なんだぞ」
  十一「編集長の二の舞にはなりゃしませんから、ご心配なく」
  ゲン「強がり言っちゃって」
  十一「なに?」
  ゲン「先輩も年貢の納め時ってことですよ」
  十一「バカヤロウ!何が年貢の納め時だ、悪代官みたいなツラしやがって、ヒック」
  ゲン「空威張りしたって駄目ですよ」
  十一「何にもしらねえくせに。いいか、夜二人っきりになると俺に・・」
  夏代「(十一の口を手でふさぐ)」
  十一「フガフガ」
  青木「しかし、十一君のお父さんは立派な方でしたね。いかにも外交官という感じで」
  春子「あのご両親から、こんなフーテン男が生まれるなんてねえ」
  十一「こういうのをトンビが鷹を産んだってんだな、ハハハ」
  春子「どうだろ、図々しい」
  秋枝「親父、大場さんの帰国に合わせて、結婚式の日取り決めたんだろ?」
  信「どうしても出席して貰いたかったんでな。お祝いにも来て欲しかったんだが・・」
  冬子「今日帰っちゃうなんてね」
  秋枝「ま、いいじゃないか。喜んでたみたいだし」
  信「うん?そうだな」
  神谷「そう!我々でパーッと行きましょう、ハハハ。なあ、大場君」
  十一「そうですね、ハハハ、じゃあ俺の十八番、裸踊りでも(立ち上がる)」
  冬子「やだ、もう」
  秋枝「見たかねえよ、そんなもん」
  夏代「(座らせて)いい加減にしなさいよ、もう」
  十一「いいじゃねえか。お祝いだんだからパーッといかなくちゃ、パーッと。ね、編集長」
  神谷「そうだ!」
  十一「ほれみろ(ズボンのファスナーに手をかける)」
  夏代「やめてったら(止める)そんな事したら嫌いになっちゃうから」
  十一「おいおい」
  夏代「私が好きならやめて」
  十一「うん・・じゃ、ゲン、お前やれ」
  ゲン「何で僕がやらなきゃいけないんですか」
  十一「いいからやれってんだよ!(ゲンの服を脱がそうとする)」
  ゲン「先輩!やめて下さいよ!」
  神谷「もっとやれ、もっとやれ」
  ゲン「やめて〜(立ち上がって逃げる)」
  十一「(立ち上がって追い駆ける)待ちやがれ!」
  冬子「バカみたい」
  秋枝「まるでガキだな。いいのかい、あんな男で」
  夏代「いいの、フフフ」
 酒を酌み交わしている信、青木、神谷
 黙々と料理を食べている春子とあまり
 追いかけっこをしている十一とゲン
 呆れてみている秋枝と冬子
 微笑ながら十一を見ている夏代

☆栗山邸外
 すっぽりと闇に包まれ、静寂が広がる

☆居間(昔の十一の部屋)
 布団が二組敷かれ、一つに神谷が寝ている
 
☆寝室
 酔い潰れた十一、ゲンに背負われて入って来る
  夏代「(入って来て)ごめんなさいね」
  ゲン「先輩の世話は慣れてますから(十一をベッドに寝かす)」
  夏代「こんなになるまで飲むなんて」
  ゲン「酔い潰れるなんて、滅多に無いんですけどね」
  夏代「今からこれじゃ、先が思いやられるわ」
  ゲン「よっぽど嬉しかったんでしょうね」
  夏代「(ちょっと微笑む)」
  ゲン「じゃ、僕はこれで」
  夏代「どうもありがとう。居間にお布団敷いてありますから」
  ゲン「お休みなさい(出て行く)」
 十一、ベッドに大の字で寝ている
 夏代、ベッドの脇に座る
  夏代「へえ〜、そんなに嬉しかったの」
  十一「フガ〜(いびき)」
  夏代「フフ、まるで陸に上がったトドみたい」
  十一「フガ〜(いびき)」
  夏代「この分じゃ、相当手がかかりそうね」
  十一「ムニャムニャ・・夏代・・」
  夏代「(鼻をつまむ)」
  十一「グガグガ」
  夏代「(手を離す)」
  十一「フガ〜(いびき)」
  夏代「(幸せそうに微笑みながら見つめる)」
―おわり―

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