第36話 「それはあまりに突然に」 放映日:1974年7月10日 (水) 脚本: いれぶん(前編)てつまにあ(後編)
(前編)
★シャングリラ
−阿万里と友達二人(それぞれミラーマンとスペクトルマンのお面を頭につけている。)が、客としてフルーツポンチ等を食べている。−
秋枝「コーちゃん、一度おごるから、くせになって何度も来るよ。」
阿万里「秋姉ちゃん、今日は私自分で払うから…。あなた達の分もおごりよ。」
友達 「本当!。」
阿万里「うん。」
秋枝 「マリー、小遣いなくなっても知らねえぞ、家はそんなお金持ちじゃないんだから。」
阿万里「だって、この子達も、私に時々おごってくれるのよ。私達いつでも助け合ってるの。」
秋枝 「なんだ、そうかい。 いい友達だな。 仕方ないな、今日は私がおごって
やるか。但し、今日だけだゾ。」
阿万里と友達「わあ〜い!。」
阿万里「さっすが、秋枝おねえさま。」
秋枝 「けっ、調子いいんだから。 こういう時だけ。」
−店の扉が開き客が入ってくる。 その客は阿万里の実の父、小寺。
阿万里と目が合い立ち止まる。−
阿万里「あっ!秋ねえちゃん。」(顔が強張っている。)
秋枝 「どうした、チビ。」
阿万里「あっ!あの人、いつかの誘拐犯よ。」
秋枝 なんだって。」
−小寺、慌てて引返そうとする−
秋枝 「待て、てめー!。」
−秋枝、小寺の腕を掴んで、引きとめ、そのまま座席へ座らせる。−
小寺 「お、おい、待ってくれ。」
秋枝 「てめー、誘拐犯だろ。以前、そこの阿万里ねらったろ。」
小寺 「ま、間違いだ。私は君達の父親と一緒に働いていた者だ。」
秋枝 「うそつけ!じゃー父の名前言ってみろ。」
小寺 「栗山信さんだ。」
秋枝 「てめー、よくもそこまで調べやがったな。本当かどうか確かめてやる。」
−秋枝、コーちゃんと阿万里の友達二人(お面を顔へ回している)に小寺を任せ、電話をかける。−
★栗山家リビング
−電話が鳴る、歯磨き中だった十一が口の周り歯磨き粉だらけのまま掛け寄ってきて出る。−
十一 「はい、もしもし栗山ですが。…あー、秋ちゃんかどうしたの?…あ、お父さんいま夏代と買い物に出てるよ。 たまの休みの時ぐらい夏代を貸してあげようと思ってね。」
★シャングリラ
秋枝 「おい、姉御は物じゃねえんだ。」
★栗山家リビング
十一 「ははっ、わかったわかった。 わかったけど、義理の兄貴に向かって“おい”はないだろ。 お兄さんと呼びなさい。」
★シャングリラ
秋枝 「呼べるかてめー!。」
★栗山家リビング
十一 「でなんだい、お父さんに用件てのは。」
★シャングリラ
秋枝 「そんなのあんたに言ったってしょうがねえよ。」
★栗山家リビング
十一 「ほらまたお兄さんに向かって…。 生意気な態度をとるんじゃないよ秋。」
★シャングリラ
秋枝 「おい、ぶっ殺されたいのか。 今晩帰ったら、日本刀の練習台にしてやっからな、待ってろ!」
−秋枝、電話を切る。−
★栗山家リビング
十一 「全く、怖い妹を持ったものだ…。」(顔にしわを寄せている。口の周りが白いのとで、すごい絵になっている。)
★シャングリラ
秋枝 「親父いねえよ、確かめられねえな。 仕方ねえ、やっぱり警察呼ぶか。」
小寺 「ま、待て。」
−秋枝、電話を掛けようとする。−
小寺 「まった。本当の事を言う、実は…」
−秋枝、電話を待って降りかえる。−
秋枝 「えっ。」
小寺 「私は、阿万里の本当の父親なんだ!!。」
−一瞬、阿万里と秋枝の画像が反転したストップ画像に変わる−
(つづく)
(後編)
☆リビング
タオルで顔を拭きながら入って来た十一、電話が鳴り取る
十一「もしもし・・・なんだ、また君か!この忙しいのに、くだらねえ電話何度もすんなよ」
秋枝「(声)うるせえな!」
十一「(声の大きさに顔をしかめ)だいだいな、それがお兄さまに対する口の聞き方かよ。え?
少しは敬意ってもんを払えってんだよ」
夏代、信帰って来る
十一「なにを!生意気だぞ!俺様を誰だと・・・」
夏代「(横から受話器を取る)」
十一「思ってやが・・あら?」
夏代「もしもし・・あ、秋ちゃん。どうしたの?」
☆シャングリラ
小寺、沈痛な表情で座っている。離れた席にキョトンとした顔のあまり
秋枝「(小寺を窺いながら小声で)あいつが来てんだよ・・・だから例の誘拐犯だよマリーの父親がどうのこうのって」
☆リビング
夏代「え!・・うん・・・うん」
十一「(リビングから出て行く)」
夏代「わかった。すぐ行くわ(電話を切り思案する)」
信「誰だい?」
夏代「え?あ、秋ちゃんよ」
信「何かあったのか?」
夏代「え?ううん。何でもないの。あ、秋ちゃんにね、安いベット見つけといてって頼んでたのよ(さり気なさを装いリビングを出る)」
☆十一の部屋
十一、外出の支度をしている。夏代、慌しく入って来る
夏代「ね、一緒に来て」
十一「どこへ?」
夏代「シャングリラ。あの人が来てるんだって」
十一「あの人?」
夏代「小寺さんよ、マリーの」
十一「ええ?何しに?」
夏代「(不安げな表情で)わかんないのよ、だから」
十一「よし、俺が話しつけてやる」
夏代「ね、お父さんに言った方がいいかしら?」
十一「いや、まだ言わない方がいいな。相手が何をしに来たかわかんねえし」
夏代「わかった。じゃ、私支度してくるわ」
☆玄関ホール
十一、靴を履いて待っている
十一「(二階に向かって)早くしろよ」
信「(リビングから出て来て)一緒に出かけるのかい?」
十一「え・・ええ。安い茶箪笥があるっていうんで・・」
信「ベットじゃないのか?」
十一「え?ええ。そ、そうなんです。ベットつきの茶箪笥を・・ハハハ、ハハ、ハ」
信「?」
夏代「(階段下りてきて来て)じゃ、お父さんちょっと行ってきます」
信「ゆっくりしておいで」
十一、夏代、慌しく出て行く
信、微笑みながら見送るが、ふと懸念の表情を見せる
☆シャングリラ
気まずい雰囲気の中、十一と夏代入って来る
秋枝「あねご!何がどうなってんだい?」
夏代「うん・・・小寺さん、あなた・・・」
十一「おい(夏代をさえぎり)マリーに聞かせる話じゃねえ」
秋枝「(察して)コーちゃん、済まないけどマリーと買い物行って来てくれるかい
?」
孝夫「え?あ、ああ。わかりました。マリーちゃん」
あまり「うん・・・」
あまり、不思議そうな顔つきで孝夫と出て行く
十一、夏代、小寺の前に座る
十一「マリーを引き取りにでも来たのかい?」
小寺「いえ、そんな・・」
十一「じゃあ、何しに来た?」
小寺「わたしは・・・」
秋枝「ねえ、どうなってんだい、いったい?」
夏代「マリーはね、小寺さんとお母さんの(涙ぐむ)」
秋枝「え?」
十一「マリーは、この小寺さんと君たちのお母さんの間に生まれた子供なのさ」
秋枝「ええ!じゃあ、なんで親父が引き取ったんだよ?」
十一「奥さんを愛してたからさ」
秋枝「だって、マリーを生んだ為に母さんは死んでるんだぜ?女房を死なせたヤツの子供をバカ正直に育てなくったていいじゃないか!」
十一「それが君たちの親父さんなのさ。生まれてきた子供に罪は無いからな」
秋枝「それにしたって・・・」
十一「今まで、お父さんがマリーを区別した事があるかい?自分の子供と同じ様に愛し育ててきたから、君だってマリーが本当の姉妹かどうかなんて考えなかったんだろ?今まで続けて来た事を、これからも続けていけばいいのさ。そうだろ?」
秋枝「(涙ぐみうつむく)」
十一「小寺さん、マリーをどうしようっていうんですか?」
小寺「どうするつもりもありません」
秋枝「じゃあ、なんで来やがったんだ!」
小寺「実は・・・田舎に帰ろうと思いまして・・・それで、最後にひと目だけと思って・・・」
夏代「田舎に・・ですか?」
小寺「ええ・・」
十一「今生の別れってわけか・・・」
小寺「そんな、たいそうな事を言える立場じゃないってことは、わかってます。でも・・・」
信「(声)小寺くん・・」
一同、驚いて振り向く
☆シャングリラ
夏代「お父さん!」
信「十一くんの様子が気になったもんだからね・・・」
秋枝「バカヤロ!(十一を小突く)」
信「小寺くん・・・田舎へ帰るそうだね」
小寺「はい・・・本当に申し訳ありません(深々と頭を下げる)」
信「頭を上げたまえ。今さら蒸し返したところで仕方ないだろう。ただ以前にも言ったはずだあまりには会わないでくれと」
小寺「来ては行けない事は、わかっていたんです。でも・・・」
秋枝「でもなんだい!」
小寺「どうしても・・あの子の姿をひと目見たくって(涙ぐみ)それで、つい」
信「君の気持ちもわからんでもない。しかし分別はわきまえてもらわんとな・・・」
小寺「申し訳ありません(泣き崩れる)」
夏代「(小寺から視線を逸らし、入口の方を見る)マリー!」
あまり、入口に立っている
信「あまり・・」
あまり「お父さんは、お父さんじゃなかったの?」
夏代「そうじゃないのよ、マリー」
十一「そうだ、マリー、君の本当の父親は、この小寺さんだ」
夏代「何てこと言うのよ!」
十一「いいんだよ、これで」
秋枝「何がいいんだ、テメエ!」
十一「ここまで来て隠す事ねえだろ。マリーにだって知る権利はあるんだぜ」
夏代「だからって話す事ないでしょ!マリーはまだ子供なのよ!」
十一「何でも隠せば良いってもんでもねえだろ!」
あまり「(店を飛び出して行く)」
信「あまり!(後を追って飛び出す)」
十一、夏代、秋枝も後を追って飛び出す
☆道路
あまり、泣きながら走って行く
☆別の道路
信、十一、夏代、秋枝、それぞれ別の道を探し回る
☆シャングリラ前
信、不安げな表情で立っている
夏代「(戻ってくる)」
信「どうだった?」
夏代「いないわ。どうしよう」
秋枝「(走ってきて)どこにも居ないよ」
十一「(戻って来る)」
信「じゅ、十一くん」
十一「(首を振る)」
夏代「(十一に)あまりにもしもの事があったら、一生許さないから」
十一「そんな事があってたまるか!」
秋枝「警察に知らせた方がいいよ。何かあってからじゃ遅いんだから」
信「そ、そうだな」
十一「(考えて)ひょっとして・・・河原かもしれない」
信「河原?」
十一「ええ、マリーの遊び場です」
信「よし、行ってみよう」
一同、河原に向かって走り出す
☆土手の上
信、十一、夏代、秋枝走ってくる
秋枝「(見回して)どこにもいねえじゃねえかよ!」
十一「もっとしっかり探せ!」
夏代「マリー!マリー!」
秋枝「マリー!」
十一「マリー!」
信「(周囲を見回して)うん?(一点で視線を止める)あまり・・・」
十一、夏代、秋枝、信の見ている方向を見る
☆土手下
あまり、川の前に立っている
☆土手の上
信「あまり・・(土手下に下りていく)」
夏代「マリー(土手下に下りようとする)」
十一「(夏代の腕を取って引き止める)」
☆土手下
あまり「(川の見つめて泣いている)」
信「(近づいて)あまり・・・」
あまり「お父さんは、お父さんじゃなかったの?」
信「確かに・・お前が生まれた時は小寺くんが父親だった。しかし今は違う。あまりの父親は私だけだ」
あまり「(涙を拭う)」
信「(横に並び、川を見つめて)お前が生まれてすぐ、お母さんに死なれてね。赤ん坊の扱い方がなっとらんと春子によく叱られたもんだ・・三歳の頃だったかなあ、夏代と公園に行ってシーソーから落ちて、こんな大きなこぶをこさえて・・こぶを冷やしながら「ごめんね。ごめんね」って、夏代は一晩中看病しとった・・・」
あまり「(信の横顔を見る)」
信「お前が犬を恐がるからって、秋枝が隣りの家に怒鳴りこんだ事もあったなあ、フフ。冬子の友達が来ると、一人前の顔して一緒に遊んで・・・」
あまり「ワー(と泣きながら信に抱きつく)」
信「すまんな、あまり(泣いている)」
あまり「お父さんは、お父さんでしょ?」
信「ああ、そうだよ。そうだよ(力一杯抱きしめる)」
十一、夏代、秋枝そばに来る
十一「お父さん・・余計な事言って、すいませんでした」
信「いいんだよ。これでいいんだ。だって、何があろうとあまりは私の娘なんだから。
そうだろ?夏代、秋枝」
秋枝「(涙ぐみながら)そうさ」
夏代「(涙ぐみながら肯く)」
十一「お父さん・・・」
信「十一くん、いつまでも、あまりの良い兄貴でいてやってくれ」
十一「・・はい・・」
夕焼けの中、シルエットになる5人