第37話 「夏代の誕生日」 放映日:1974年7月24日(水) 脚本:いれぶん

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★栗山邸内(7月23日・朝) 
 十一、あくびをしながらリビングに入ってくる。
 とっ!、いきなり、目の前にクッションが飛んでくる。
 春子「あなたが悪いのよ!」
 誉  「何を言ってんですか、春子さん、あなたから先に…」
 リビングにある物を相手に投げ合う二人。
 十一「おいおい、どうなってるんだ!」おどおどしている。
 灰皿が春子の眼鏡にあたり、眼鏡落ちる。
 十一「やめなさい。」蟹股で、手を伸ばして、二人の方に寄ろうとする。
 春子「あっ!、あなたどこ行ったの…。」
 春子薄目でじっと見る。
 春子「あっ、いたわね〜。」
 春子灰皿を投げる。
 一同起きてくる
 信「朝っぱらから、何事かね。」
 信、十一を見る
 信「あっ、十一君!」
 十一、頭に灰皿が乗っかって、顔面灰だらけになっている。
 十一「もういや〜!。」顔面UP
−オープニング「そよ風のように」−
−タイトル「十一の浮気?」−
 夏代「なんなの、姉さん達、そのぐらいのことでケンカして。」
 春子「だって…。」

★キッチン
 十一が顔を洗い終わって、手ぬぐいで顔を歪めながらぬぐっている。 
 十一「全く!朝っぱらからこんな目にあうなんて、今日は一日ロクなことねえぞ。」
 夏代入ってくる。
 夏代「あなた、ごめんなさいね。せっかく姉さん達を止めさせようとしてくれたのに。」
 十一「全くだ。…しかし兄さんも以前は気弱だったのに、だんだんお姉さんに慣れてきたみたいだな。はっ、は」苦笑いをしている。
 夏代「姉さん達反省してるから許してあげてね。」
 春子入ってくる。
 春子「まぁ〜、ごめんなさいね。…怪我は無かった?。」
 春子十一に近づき、おでこを触る。
 十一「いいです!」後退りする。
 十一「おっと、時間ない、出かけなきゃ!」時計を見ながら言う。
 十一出て行く。

★リビング
 秋枝と冬子が後片付けをしている。 冬子、踊る様に叩きでパタパタする。
 夏代入ってくる。
 夏代「あなたたち、もういいわ、遅れるから…。 チャパティ作ってあるから食べて支度して。あとは私がやるから。」
 秋枝「またか、兄いが作ってから、朝食は毎朝チャパティだよ。」
 冬子「私はすきよ。」
 夏代「フー子とマリーには受けてるのに…秋ちゃんも、そのうち慣れるわよ。」
 秋枝「我慢するか。カレーを包めば何とか食えるし。…あ、私は今日休みなんだ。
 フー子頼むぜ。」
 冬子「負かしといて。」
 夏代「フー子も、秋ちゃんの休日にシャングリラに入る事になってから3回目ね。」
 冬子「うん、孝夫さんが親切だから、もう慣れてきたわ。」
 夏代「そう、頑張りなさい。」微笑む。

★玄関
 十一「じゃー行ってくるよ。」
 夏代「ええ、今日は遅いの?」
 十一「ああー、今日はスタジオ出て撮るから、遅くなるね。」
 夏代「そう、じゃー夕食作っとかないほうがいいかしら。」
 十一「そうだね、自分でチャパティでも作って食べるさ。」 
 夏代「そう、じゃ 行ってらしゃい。」
 十一「ああ」微笑む。
 十一玄関を出る。 

★稲葉フォートスタジオ
 十一入り、階段を下りる。
 机の上にメモ(書き置き)が置かれている。
 十一「ん!」メモを見る。
 メモ=「十一よ、チェバェスカと二人でまた山に行く。しばらく帰らない。」
 十一「先生。…今度は山の名も書いてねえな。この間は連れ戻したから無理もねえか。」
 十一タバコを取り出して吸う。
 入り口を叩く音
 十一「来たか。」
 十一階段を上り、ドアを開ける。 玄とモデルがいる。
 玄 「あ、先輩」
 十一「おう」
 階段を下りる3人。
 玄 「あれ、稲葉先生は?」
 十一…玄にメモを見せる。
 玄 「また山へ…。」
 十一「と言う事で、しばらく俺が撮る。 支度しろ。」
 玄 「かなわねえな。 偉そうに。」
 十一「ん、不満か。」
 玄 「いえいえ、そんなことは…」両手を前で振り、苦笑いしながらのけぞる。
 支度が済む。
 玄 「あれ、先輩、今日は中央公園行って撮るんじゃ…。」
 十一「いや、ここで済ませる。午後から急用が出来たんでな。」
 玄 「すぐに気が変わるんだからな。」
 十一「つべこべ言ってないで、早くしろ。」
 モデル「そうしよ。はよ、はよー」玄を引っ張る。
 十一「あれ、君、国は関西?」
 モデル「そうや。」
 十一「もしかして、京都?」
 モデル「いや、ちゃう、大阪ですがな。」
 十一「あ、そうでっか。 すんません。」

★シャングリラ
 夏代、秋枝、阿万里が客として来ている。
 冬子「おまたせ。」注文の品を運んでくる。
 夏代「なかなか、素早いじゃない、覚えが早いわね。」
 冬子「うふふ、そうとも、秋ねえなんか、一週間ぐらい飲み物落としちゃったりしてなかなか慣れなかったもんね。」
 秋枝「うるせい!。もうとっくに過ぎた話さ。」苦笑いをしている。
 阿万里「私もウェイトレスやりたいな。」
 夏代「マリーは、まだ早いわよ。」
 阿万里「うん、分かってる。冗談よ。」パフェを食べる。
 冬子「みんな、私の働きぶり見に来てくれて嬉しいわ。」
 阿万里「だって、姉妹ですもの。」
 秋枝「そ、 そうだよね。」秋枝、驚いたように阿万里を見る。
 夏代「そうよね、私達小さい時から、遊んだりケンカしたりして育ってきた仲だもの。」
 夏代、阿万里はもう安心だと感じ、涙を浮かべそうになる。
 秋枝「このパフェとか休憩中よく食ってっけど、こうして客として食うと、仕事中食うより何故か美味や。」
 夏代「そーう。」
 秋枝「もしかして、コーちゃん、店員には手え抜いてんじゃねえだろうな。」
 孝夫「何をおっしゃいます。そんなことする訳ないじゃないですか。」
 秋枝「そうかい。」
 一同笑う。 
 夏代「もう、秋ちゃんたら。 ごめんなさいね、孝夫さん。」
 孝夫「いえ。」

★銀座(夕方) 
 夏代、秋枝、阿万里がタクシーに乗っている。
 秋枝「久しぶりだね、銀座に買い物に来るなんて。」
 夏代「そうね。」
 夏代窓から歩道を見る。
 夏代「あれ!。」
 秋枝「どうしたんだい、姉御。」
 夏代「あれ、十一さんじゃない?」
 秋枝「え、何処?。」
 歩道を十一と、同年代と思われる品のいい女性が歩いている。
 秋枝「姉御…。」唖然とする。
 夏代「運転手さん、止めてください。」形相が激しくなっている。
 タクシー道路脇で止まり、3人降りる。
 しかし入れ違いに十一と女性は別のタクシーに乗って行ってしまう。
 歩道を走っていたが、あきらめる夏代達。
 秋枝「あんにゃろー!」
 夏代「許せないわ、あいつ!。」
 阿万里「誰かしら、あの人。」
 夏代「帰りましょ。」
 阿万里「お買い物行かないの?。」
 夏代「また今度にしましょ。」

★栗山邸キッチン
 夏代夕食の支度をしている。
 夏代刻んでいたジャガイモのいくつかを持ち突然床に叩きつける。
 夏代「許せない。」
 秋枝入ってくる。
 秋枝「姉御。」夏代の様子に驚く。
 秋枝「あいつ帰ってきたら、日本刀で切り刻んでやる。」
 夏代「いいわ、秋ちゃん、ちょっとお料理まかせるわ。私、出掛けてくる。」
 秋枝「え、ちょっと姉御」
 夏代出掛ける。

★稲葉フォートスタジオ
 十一、仕上がった写真を見ている。ややご機嫌である。
 入り口を叩く音
 十一「誰だ?。」ドアへ向かい開ける。
 夏代が物凄い形相で立っている。
 十一「あ、なんだ夏代か。…どうしてここへ。」
 夏代「十一さん、あなた今朝、今日は撮影が遅くまでかかるって言ってたわよね。」
 十一「ああ、さっきようやく終わった所さ。」
 夏代「嘘言わないでよ、玄也さんに電話したら、用があるからとかで、お昼までにしたって。」
 十一「あっあっ、そうだった、はは、ちょっとね…。」苦笑いになる。
 夏代「ねえ、見たわよ夕方、美人の女の人と二人でタクシーに乗る所。」
 十一「人違いだろ、きっと。」
 夏代「いいえ、あれはあなたよ。 こんな珍しい顔って二人といないもの。」
 十一「おい、それは言い過ぎだろ。」
 夏代「誰なの、言いなさい。」
 十一「知らねえよ。」
 夏代「もう!…帰ってこなくていいわ。」
 夏代机にある灰皿を十一の頭に叩きつけ、出て行く。
 十一「ま・た・か!」顔面灰だらけになっている。

★栗山邸内(夜)
 信さん帰宅し部屋に入ろうとした時、リビングでソファーにいる夏代を見つける。
 信 「どうしたい、夏代…そういえば十一君まだ帰ってきてないのかな?」
 夏代「どうして分かるの?。」
 信 「私が帰ってきた時、靴がなかったからな。」
 夏代「さすがね、お父さん。」
 信 「ああ、遅く帰った時は、皆帰ってるか気になっていつも靴を見るのさ。」
 夏代「十一さん今日は仕事が長引いて、スタジオに止まり込みですって。心配いりませんわ。」
 信 「そうかい、それならいいんだがな。」
 秋枝の部屋の扉が開き秋枝が出てくる。
 秋枝「違うよ!親父。」
 夏代「秋ちゃん。」
 秋枝「あいつ、浮気したんだよ。」
 信 「何!」
 秋枝「今頃は、女の家に泊まってるよ。」
 信 「本当か、それ。」唖然とする。
 信 「夏代!…」
 夏代「ええ、スタジオ行って、もう帰って来ないでって言ってきたわ。」 
 信 ・・・・・・

★鉄道(7月24日・朝)
 電車が走る

★栗山邸庭
 信、庭に出ている。
 繁みの一部が揺れ動いている。
 信 「ん!」繁みに近づく。
 繁みの動きが止まる。
 信 「猫か?」

★栗山邸内・洗濯機前
 夏代と秋枝がいる。
 秋枝「姉御、このままでいいのかい。 探偵雇って調べさせるか。」
 夏代「もう少し待って見るわ。帰ってきて謝るかも知れないし。」
 秋枝「あいつ、そんな奴じゃねえぜ。」
 夏代「今日一日待って見て、帰ってこなかったら、そうするわ。」
 秋枝「そうかい、じゃー店行ってくるわ。何かあったら電話しなよ。」
 夏代「分かったわ。」
 秋枝廊下へ出て行く。

★玄関
 出掛ける信を見送る夏代。
 信 「じゃー、行ってくるよ。」
 夏代「ええ。」
 信 「十一君の事は、私に任せなさい。今夜仕事を終えたら会ってくるよ、多分ス
タジオにでも、おると思うからな。」
 夏代「そうですか。」
 信 「ああ、夏代、それまで何も心配せんで待っとるんだ。」
 夏代「はい。」元気のない返事。
 信 「今日も帰宅が何時になるか分からんから、私の夕食は作らんでいいよ。」
 夏代「わかったわ、行ってらっしゃい。」
 信、出掛ける。
 夏代「あれ、お父さん、あの事忘れちゃってるのかしら?。」呟くように言う。

★リビング
 夏代、来る。
 夏代、ソファに腰掛け電話を見つめる。

★リビング(昼)
 夏代、電話の前にいる。
 電話が鳴る。
 夏代「もしかして…。」受話器をとる。
 夏代「はい、栗山ですけど…、えっ、…違いますけど。」
 夏代、受話器を置く。
 夏代「何よ、紛らわしい、間違い電話だなんて。」

★リビング(一時間後)
 夏代、電話の前にいる。
 電話が鳴る。
 夏代、受話器をとる。
 夏代「はい、栗山ですけど…、あっ、フー子…えっ、デコさんと…外食するの…分かったわ。」
 夏代、受話器を置く。

★玄関
 阿万里、帰って来る。
 阿万里「ただいま。」
 夏代やってくる。
 夏代「マリー、お帰り、早いわね。」
 阿万里「うん、ねえ今から文彦君の所遊びに行って来るわね。」
 夏代「あっ、そーう、あんまり遅くならないようにね。」
 阿万里「うん、なんか夕食ごちそうしてくれるみたいだから、用意しなくていいわ。」
 夏代「えー、いいの?、悪いじゃないの。」
 阿万里「文彦君の両親ってとっても優しいのよ。」
 夏代「そーう、じゃー、ご迷惑にならない程度にね。」
 阿万里「うん。」
 阿万里、部屋へいく。

★玄関(5分後)
 着替えを済ませた阿万里が出掛ける。

★リビング
 電話が鳴る。 
 夏代、やってきて受話器をとる。
 夏代「はい、栗山ですけど…、あっ、秋ちゃん…えっ、孝夫さんと…外食…分かったわ。」 
 夏代、受話器を置く。
 また電話が鳴る。
 夏代「今度こそ、十一さんかしら。」
 夏代、受話器をとる。
 夏代「はい、栗山ですけど…、あっ、姉さん…えっ、お兄さんと…外食…分かりました。」
 夏代、受話器を置く。
 夏代「何だかおかしいわ、みんな外食だなんて、…偶然すぎるわ、…もしかして私には内緒にして、みんなで十一さんの事探ってるのかも知れないわ。」落ち着かない様子。

★台所(夕方)
 夏代、鍋を用意する。 
 夏代「私一人だけなら、チャパティで済ませるか。」
 秋枝入ってくる。
 秋枝「姉御、待った。今から出掛けるよ。」
 夏代「何よいきなり、秋ちゃんあんた孝夫さんと外食するんじゃなかったの?。」
 秋枝「事情は変わった、詳しい事は、行ってから話すからさ、もうタクシー呼んであるからさ、早く支度して、ほら。」
 夏代「何なのよいったい、何たくらんでるの。」
 秋枝、夏代を引っ張っていく。

★栗山邸前道路
 タクシーが止まっている。 夏代と秋枝が出てきて乗る。

★タクシー内
 運転手「どちらまで?」
 秋枝「まずは、銀座方面までやってよ。」
 運転手「わかりました。」 
 タクシー動き出す。
 夏代「銀座って、どういう事よ秋ちゃん、何かあったの?。」
 秋枝「行って見れば分かるよ。」

★銀座大通り
 タクシー止まる。 夏代と秋枝降りる。 歩き出すふたり。
 少し歩いた所に十一と阿万里が立っている。
 夏代「なによ、あの人の顔なんか、見たくないわ。」
 夏代、後向きになる。
 十一「まあ、来なよ。」
 阿万里「夏姉ちゃん。」
 十一、夏代の手を引く。
 夏代「離してよ。」
 十一、そのまま、正面の建物の中へ連れて行く。
 夏代「ここって、レストランじゃないの。」
 十一「さあ、入って。」

★レストランの中
 夏代見る。 
 夏代「はっ!。」驚く。
 テーブルを囲んで、信、春子、誉、冬子がいる。
 テーブルには、ご馳走が並んでいて、真ん中には大きなケーキがあり、火の付いたローソクがたくさん並でいる。 
 その周りの壁は、綺麗に着飾われていて、そして垂幕に文字が、…「ハッピーバースデイ夏代!」と書かれている。
 夏代「・・・・・・」驚いている。
 前方に一人の女性が寄って来て、夏代達の前に立つ。
 女性「いらっしゃい。」
 夏代「あ、あなた。」
 前日、夏代達が銀座で見かけた、十一といっしょだった女性だった。
 十一「彼女は、信条恵子さん。 僕が通った高校の一年先輩だった人さ。」
 夏代「え、そうだったの。」
 十一「そうさ、このレストランは彼女の親父さんが経営している店なんだ。今日の君への誕生日の初プレゼントを考えてるうちに彼女のことを思い出して、ここを貸しきりにしてもらって、誕生パーティーをすることにしたのさ。」
 夏代「十一さん。」
 十一「君には内緒にして、驚かそうとしてたんだけど、昨日見られちゃったらしいな。…あれは、飾り付けのレイアウトを、プロの所に頼みに向かう所だったのさ。」
 夏代「私って…何てことを…。」
 十一「いや、内緒にしてた僕がいけないのさ、君は何にも気にしなくていいよ。」
 夏代「だけど…。」
 十一「さあ、行こう。」
 夏代達、テーブルへ着く。
 春子「夏ちゃん、誕生日おめでとう。」
 夏代「ありがとう。」
 誉、冬子、阿万里、秋枝も「おめでとう。」を言う。
 夏代、十一と並んで席に着く。 阿万里、秋枝も席に着く。
 信 「夏代、おめでとう、7月24日がおまえの誕生日だってのは、一度も忘れたこたーねえぞ。最初は、春子に合わせて、夏子にしようと思ってたんじゃが、おまえの生まれた日が7月24日だったからゴロを合わせて、夏代にしたんだ。」
 秋枝「親父、それ夏ねえの誕生日になると、毎年言ってるね。」
 信 「そうだったか。」
 夏代「お父さん、そうだったの、毎年私の誕生日の日には、朝おめでとうって言ってくれてたのに、今朝は道理で言ってくれないと思ってたわ。」
 信 「うん、今朝、庭に出てたら、繁みに中に十一君が隠れていてな、その時に始めてこの話を聞いて、それから私もこの計画に乗って、みんなに知らせたというわけだ。」
 夏代「みんな、私の為に、嬉しいわ。」
 信 「さあ、夏代、火を消しなさい。」
 夏代「ええ、せーの、ふーっ!」
 その後、パーティーは盛り上がっていった。
  −END−

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