第39話「ネギとカモ」 放映日:1974年8月7日(水) 脚本:てつまにあ

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☆夜・リビング
 食事をしている面々
  夏代「フー子、あんた昨夜何時に帰ってきたの?」
  冬子「12時ちょっと前よ」
  信「最近、やけに帰りが遅いじゃないか」
  冬子「昨日はたまたまよ」
  夏代「バイトでもしてるの?」
  秋枝「夜遊びでしてんじゃねえか」
  冬子「一々私のことに干渉しないでよ。もう子供しゃないんだから。ごちそうさま(出て行く)」
  秋枝「姐御、気がついた?あいつが口紅変えたの」
  あまり「新しい洋服着てたみたいよ」
  信「(不安げに)何かあったのかね」
  夏代「(安心させるように)大した事じゃないわ。(十一に)ね?」
  十一「(黙々と食事している)」
  夏代「ちょっと!」
  十一「はん?あ、ああ、このたくあん美味しいですねえ」
  秋枝「ズレてんの」
  夏代「頼りにならない感じ」
  十一「あら?僕、またドジっちゃたみたいね、ハハハ」
―オープニング―

☆十一と夏代の寝室
 子供達は既に寝ている。十一が寝転がって雑誌を見ている横で、夏代は洗濯物を畳んでいる
  夏代「ねえ、フー子のこと、どう思う?」
  十一「どうって?」
  夏代「秋ちゃんの言うとおり、最近お化粧も派手になってきたし、見たことない服を来てたりするのよ」
  十一「ふ〜ん」
  夏代「それに帰りも遅いし。何か変なのよ。そう思わない?」
  十一「別に何も感じねえけどなあ」
  夏代「鈍感ね。もっと真面目に考えてよ」
  十一「考えてるよ。うーん、化粧が派手になって帰りが遅くなる、答えは一つだな」
  夏代「何?」
  十一「男が出来たんだよ」
  夏代「ええ?ほんと?」
  十一「ああ、まず間違いねえな」
  夏代「どうしたらいいかしら」
  十一「そんなの本人任せるしかねえだろ」
  夏代「だって相手はどんな人か判んないのよ。もしもの事があったら(考え込む)」
  十一「また心配性が始まりやがった」

☆朝・玄関ホール
 十一が靴を履いていると、紙袋を持って夏代出てくる
  夏代「はい(手渡す)」
  十一「何だよ、これ?」
  夏代「お弁当よ」
  十一「弁当?」
  夏代「外食はお金が掛るし、栄養だって偏るわ。だから」
  十一「うん・・」
  夏代「嫌なの?」
  十一「いや、そうじゃねえよ」
  夏代「そう。じゃ、いってらっしゃい」
  十一「ああ・・とうとう昼飯まで管理下に置かれちまったか(出て行く)」
 冬子、2階から降りてくる。何も言わずに靴を履く
  夏代「(さり気なく)今日はゆっくりなのね」
  冬子「・・・」
  夏代「今日は帰り早いの?」
  冬子「(無言で出て行く)」
 夏代、不安げな顔で考え込む
  
☆スタジオ居間
 十一とゲン、スタジオから出てくる
  ゲン「いやあ先輩、最近絶好調ですねえ」
  十一「お前もそう思うか?俺もな、自分の才能が恐ろしくなるくらいだよ。やっぱ天才かな、ハハハ」
  ゲン「ちょっとお伊達ると、これなんだから」
  十一「何か言ったか?」
  ゲン「いえ別に・・あ、先輩、昼飯どうしますか?ラーメンでも取りましょうか?」
  十一「うん?いや、俺はいいんだ」
  ゲン「昼飯食わないんですか?」
  十一「(紙袋からアルミ箔の包みを出し開く)」
  ゲン「?」
 アルミの包みの中にはサンドイッチが入っている
  ゲン「あ〜なるほど。そうですか、へへへ」
  十一「気持ち悪い笑い方すんな」
  ゲン「いいなあ、夏代さんの愛がこもったサンドイッチかあ、へへへ」
  十一「くだらねえ事言ってる暇があったら、コーヒーでも入れろ!」
  ゲン「はいはい、俺も早く嫁さんみつけよう」
 ピンポーンとチャイムが鳴り、デコ入って来る
  デコ「こんにちわ、デコで〜す」
  十一「また君か、何の用だ?」
  デコ「あ、ジャックさんじゃないの。社長さんに用があるのよ」
  ゲン「僕に?」
  デコ「そうなの。この前表参道に行った時、すっごくイカした服見つけてさ。思い切って買っちゃったのよ。
     あら、美味しそうなサンドイッチ(一つ取る)」
  十一「おい、何すんだよ!」
  デコ「美味しい、ねえどこで買ったの?」
  ゲン「バカだな、これはね愛のサンドイッチなの。先輩は今、夏代さんの愛を感じながらひと口ひと口味わって
     たんじゃないか」
  十一「(ゲンの頭を叩く)余計なこと言うな」
  デコ「ゴメンねジャックさん」
  十一「うるへい!」
  ゲン「ところで君の用って何なの?」
  デコ「あ、そうだ。だからね学費を洋服代に回しちゃったのよ。それでいいバイトないかと思って」
  ゲン「またか。あのね、このオイルショックの時代に、簡単にバイトの口なんかありませんよ」
  デコ「ねえ〜、お願い」
  ゲン「ダメなものはダメ」
  デコ「ケチ」
  十一「そんなことより、フーちゃん何かあったのか?ウチの女どもが心配してるけど」
  デコ「フー子?何かって・・ああ、あれかもね」
  十一「おい、何があったんだ」
  デコ「親友の秘密を話すわけにはいかないわ。こう見えても口は堅いんだから」
  十一「じゃ取り引きしよう。君がフーちゃんの事を教えてくれたら、ゲンがバイトを紹介する。これでどうだ?」
  ゲン「そんな勝手な」
  十一「(頭を叩き)フーちゃんの一大事かもしんねえんだぞ」
  デコ「う〜ん、弱いなあ・・」
  十一「君に聞いたなんて絶対言わねえからさ、な?」
  デコ「しょうがない、話すわ。実はね・・」

☆台所
  夏代「(振り返る)ええ?本当?」
  十一「ああ、ディスコで声掛けられたらしい」
  夏代「どんな人かしら」
  十一「デコの話だとなかなかいい男らしいな。ま、あいつの言うことだから、あんまり信用出来ねえけどな」
  夏代「大丈夫かしら」
  十一「フーちゃんだって、そんなに軽はずみな事はしないさ」
  夏代「そうだといいけど・・あ、お弁当どうだった?」
  十一「うん?うん、うん」
  夏代「うんじゃ判んないわよ。美味しかった?」
  十一「うん、うん」
  夏代「明日も持っていってよ、いい?」
  十一「(ゲンナリした顔で)わかりました」

(※36話ー3に行く前に、重大なミスがありました。十一と夏代の部屋のシーンで、子供が寝ているというのは間違いです。30年スペシャルと混同してしまいましたが、36話の時点では二人に子供はいませんでしたね。お詫びして訂正します)

☆リビング
 夏代、お膳の前に座っている。十一、風呂場から出てくる
  十一「何してんだよ」
  夏代「うん(時計を見る、11時)」
  十一「フーちゃん待ってるのか」
  夏代「ええ、直接聞いてみようと思って」
  十一「よしたほうがいいな」
  夏代「どうして?」
  十一「何言ったって聞きやしねえよ、今は」
  夏代「だからって放って置けないわ!」
  十一「デカイ声出すなって」
 玄関の開く音がして、冬子入って来る
  夏代「フー子、ちょっと話があるの」
  十一「よせって」
  夏代「あんた、付き合ってる人がいるんだって?」
  冬子「ええ?」
  夏代「ディスコで声掛けられたんだって?どんな人?」
  冬子「夏姉ちゃんが心配するような人じゃないわ」
  夏代「じゃ話して」
  冬子「変に勘繰られるのも嫌だし、話すわ。彼、白鳥夏彦っていうんだけど、お父さんは大きな会社の
     社長さんで彼は専務なの。優しくってハンサムで理想のタイプにピッタリ。私真剣なのよ。だから邪魔しないで(出て行く)」
  夏代「フー子!」
  十一「火に油注いだみたいだな」

☆朝・玄関ホール
 十一が靴を履いていると、夏代が台所から出てくる
  夏代「忘れ物よ(紙袋を差し出す)」
  十一「あ、そうか。なんか忘れ物したなあーと思ってたんだ」
  夏代「残しちゃだめよ」
  十一「ガキみたいなこと言うな」
 冬子、2階から降りてくる
  十一「一緒に行こうか?」
  冬子「一人で行きたいの(出て行く)」
  十一「あらま」
  夏代「昨夜の事がいけなかったのかしら(沈痛な表情)」
  十一「心配すんな。俺に任せとけって(出て行く)」

☆大学正門前
 正門近くに中古車が一台。中にはサングラス姿の怪しげな十一とゲン
  ゲン「こんな事して、どうすんですか」
  十一「俺のカンでは、相手の男は間違いなく怪しい」
  ゲン「鈍感ってこともありますしねえ」
  十一「ぐちゃぐちゃ言ってねえで見張れ!」
  ゲン「あ、冬子さんですよ」
 正門前で道路の方を見ていた冬子、手を振る。ゲン、手を振る
  十一「バカ!お前に振ってんじゃねえ」
 白いポルシェが止まり、冬子が乗るとすぐに走り出す
  十一「よし、つけろ!」
  ゲン「わかりましたよ(車を出す)」

☆道路
 走るポルシェ。後を追う中古のカローラ

☆フランス料理店
 冬子と白鳥、談笑しながら料理を食べている。十一とゲンは入口の植木の陰から見ている
  ゲン「美味そうですね。いくらぐらいですかね?」
  十一「知るか!」
  ゲン「こんな高い店に入るなんて、本当に金持ちかもしれませんよ」
  十一「これが奴らの手なんだよ」
  ゲン「そうですかね」
 冬子と白鳥、店を出てくる。十一とゲン、慌ててアベックのように抱き合う
 気づかずに通り過ぎる冬子達
  十一「おい、行くぞ!」
  ゲン「クセになりそう」

☆海・砂浜
 冬子と白鳥、砂浜を歩いている。十一とゲン、海の家の陰からみている
  ゲン「ねえ、もうやめましょうよ」
  十一「バカヤロウ、これからが危ねえんだ」
  ゲン「どうしてですか?」
  十一「フランス料理に海と来たら、次はホテルに決ってるじゃねえか」
  ゲン「先輩もそうやって口説いたんですか?」
  十一「いや、俺の場合はだな・・そんな事どうでもいいんだよ!」
  ゲン「考え過ぎだと思いますけどねえ」
 冬子達戻って来る。十一とゲン、よしづの陰に隠れ、二人が通り過ぎると後をつける

☆道路
 走るポルシェと、後を付けているカローラ。遠くにモーテルのネオン
  十一「ほれみろ」
  ゲン「冬子さんの貞操の危機ですね」
  十一「いいか、ホテルに車を乗り入れたら踏み込むぞ」
  ゲン「まるで刑事ですね」
 ポルシェ、モーテルの前を通り過ぎる
  ゲン「あれ?入りませんね」
  十一「ははん、近場で済まそうってことだな」

☆栗山家前の道路
 ポルシェ止まる。離れた所にカローラ
  ゲン「こんなとこにホテルありましたっけ?」
  十一「バカ!うちの前だ」
  ゲン「やっぱり考え過ぎだったんですよ。自分が変な事考えてるから、変な想像しちゃうんですよ」
  十一「(頭を叩く)」
 冬子が降りると、ポルシェ走り去る
  十一「おい、後をつけろ!」
  ゲン「まだやるんですか?」
  十一「いいから出せ!」
 カローラ、ポルシェの後を追って走り去る

☆麻布
 走るポルシェ、追うカローラ
  十一「(外を見て)麻布か」
  ゲン「こんなとこに住んでるなら、やっぱり金持ちですよ」
  十一「ディスコに玉の輿の話が転がってるかよ、バカだなお前は」
 ポルシェ、高級マンションの駐車場に入る。少し離れたところにカローラも止まる
 白鳥、マンションの中に入る。十一とゲン、車から降りてマンションに向かう

☆マンション入口
 十一とゲンが入って来ると同時に、エレベータが昇り始める
  十一「おい、階段だ」

☆マンション3階
 白鳥、エレベーターから降りて、3番目のドアの中に入る
 階段の陰から見ていた十一とゲン、ドアの前に行き表札を見る
 「花井蘭子」の文字
  ゲン「お母さんですかね」
  十一「バカ!」
  ゲン「じゃあ何ですか?」
  十一「それを突き止めるんだよ」
  ゲン「まだやるんですかあ」
  十一「いいから、来い!」

☆リビング
  夏代「(電話鳴り取る)もしもし・・十一さん?どうしたのよ、こんなに遅くまで!・・え?フー子の?」

☆公衆電話
  十一「ああ、どんな女?それをこれから突き止めるんだよ・・心配すんなって・・じゃあな(切る)」

☆リビング
  秋枝「兄貴も夜遊びか?」
  夏代「そうじゃないわよ。秋ちゃんにも話しといた方がいいわね」
  秋枝「何の話だい?」
  
☆マンション前の道路
 カローラの中に十一とゲン
  ゲン「先輩、腹減りませんか?」
  十一「そういえば何も食ってなかったな」
  ゲン「何か買って来ましょうか?」
  十一「そうだな・・あ、そうだ(紙袋を取り出し)これこれ、ハハハ」
 中にはアルミ箔で包んだおにぎりが3個と、おかずの入ったタッパー
  十一「ほれ」
  ゲン「夏代さんお手製のお弁当ですね」
  十一「お前にも特別に食わせてやる。いいか、味わって食えよ」
  ゲン「わかってますよ」
 十一とゲン、美味しそうにおにぎりを食べる

☆リビング
  秋枝「なるほどねえ。それで徹夜の張り番ってわけか」
  夏代「そうなのよ」
  秋枝「確かにその男おかしいな」
  夏代「大丈夫かしら」
  秋枝「何が?」
  夏代「騙されたと知ったら、傷つくんじゃないかしら」
  秋枝「自分のバカさ加減を知るのもいい経験だよ」
  夏代「でも思い余って・・」
  秋枝「よしなって、変な想像すんの。あいつは立ち直りが早いからね、すぐにケロリとなるさ

  夏代「そうだといいけど」
  秋枝「心配すんなら。旦那の事でも心配してやんな。今ごろ何してるかな?」
  夏代「さあ」

☆マンション前道路
 カローラの中で、口を開けて眠りこけている十一とゲン

☆朝・リビング
 食事している面々
  信「十一君は?」
  夏代「え?昨夜はスタジオ泊まりだったのよ」
  信「若いからって無理すると、身体に毒だぞ」
  秋枝「大丈夫さ。あいつは殺したって死にやしないよ」
  夏代「随分じゃない、秋ちゃん」
  秋枝「そんなに尖がんなって」
  冬子「ごちそうさま(出て行く)」
  信「冬子はどうしたんだ?昨夜からロクに口もきかんで」
  夏代「疲れてるだけよ」
  信「ならいいがね」
 夏代と秋枝、顔を見合わせる

☆マンション前道路
 カローラの中で、三角パックの牛乳とアンパンを食べている十一とゲン
  ゲン「一体いつまでやるんですか?」
  十一「ここまで来たら、女の正体を見届けてやる」
  ゲン「あのね、僕には会社経営という大事な仕事があるんですよ」
  十一「経営ってほどの会社じゃねえじゃねえか」
  ゲン「何を言うんですか」
  十一「まあまあ、押さえて押さえて」
  ゲン「全くひでえ先輩持っちまったな」
  十一「何だって?」
  ゲン「いえ、独り言です」
  十一「そうか、ならいいんだ。しっかり見張れよ。俺は一眠りするから」
  ゲン「はあ〜、僕は何処から来て何処へ行くんだろう」
  十一「(頭を叩く)」

☆マンション前道路
 夕焼けに染まっているカローラ
  ゲン「夕焼けか・・あの向こうには何があるんだろう」
  十一「さっきから何わかんねえ事言ってんだよ」
  ゲン「僕はね、悟りを開いたような心境なんですよ」
  十一「じゃいいじゃねえか。坊主になった気分で見張れ!」
  ゲン「はあ〜」
  十一「あ!出てきたぞ」
 白鳥とケバケバしい格好の女―花井蘭子出てくる
  十一「あれがおふくろか?」
  ゲン「違うみたいですね」
  十一「ぬかるなよ」
  ゲン「はいはい」
 白鳥たちが乗ったポルシェが駐車場から出てきて走り去る。後をつけるカローラ

☆中目黒
 古びたアパートの前でポルシェ停車。車から降りた白鳥、中の蘭子と話している
  十一「ゲン、お前降りろ」
  ゲン「ええ?」
  十一「あの男の事を近所で聞いて来い」
  ゲン「どうやって?」
  十一「保険のセールスでも何でもあるだろ。いいからいけ!」
  ゲン「人使いが荒いんだから(降りる)」
 ポルシェ、走り去る
  十一「手抜くなよ(車を発進させる)」
  ゲン「(車を見送って)何で僕はここにいるんだろう」

☆道路
 走るポルシェ、追うカローラ

☆銀座
 ポルシェ、地下駐車場に入る。カローラも後からついていく

☆地下駐車場
 ポルシェ停車し蘭子降りる。離れたところにカローラを止め十一も降りる
 歩いて行く蘭子。隠れながら尾行する十一

☆銀座並木通り
 歩いている蘭子、尾行する十一

☆裏通り
 歩いて来た蘭子、とあるビルの地下へ降りていく
 小走りにビルの前にやって来た十一、ピアノバー「蘭」の看板を見る
  十一「やっぱりそうか」

☆リビング
 電話している夏代
  夏代「ええ?ほんと?・・十一さんはまだなのよ・・ええ、弦也さんありがとう(切る)」
  秋枝「例の話かい?」
  夏代「うん、それがね」
 信、入って来る
  夏代「あとで話すわ」
  信「十一君は今日も泊りかい?」
  夏代「もうすぐ帰って来ると思うわ。先に食べましょう」
 夏代、信、秋枝、あまりが食事を始めたところに、十一帰って来る
  十一「ただいま」
  信「大変だね。泊り込みで仕事なんて」
  十一「仕事?」
  夏代「(手の甲をつねる)」
  十一「イテッ!・・あ、ああ、そうなんですよ。ハックション!」
  信「風邪かね?」
  十一「車の中寒かったもんで」
  信「車の中?」
  十一「え?ええ、裸の女の子に運転させるって写真でしてね、ハハハ」
  信「なんだね?そりゃあ」
  十一「あの、何でも無いんですよ、ハハハ。いやあ、素晴らしいなあ、何でもないって。ハハハ」
 怪訝な表情の信。夏代と秋枝、顔を見合わせる

☆フランス料理店
 ワインを飲んでいる冬子と白鳥
  白鳥「今度、僕の両親に会ってくれませんか?」
  冬子「え?」
  白鳥「あなたとは真面目に付き合いたいんです。将来の事も含めて」
  冬子「でも私なんか」
  白鳥「父と母もビックリするだろうな、あんまり美人なんで」
  冬子「そんな」
  白鳥「冬子さんに会えて、本当に良かった」
  冬子「ええ(うっとりする)」

☆居間(十一と夏代の部屋)
 テーブルを囲んで座っている十一、夏代、秋枝
  秋枝「バーの雇われママか」
  夏代「弦也さんの話だとね、その白鳥って人、仕事もせずにブラブラしてるくせに、高いステレオ買ったり
     オーダーメードの服着てるらしいわ」
  十一「つまり、あのケバケバしい女の囲われ者ってことだな」
  秋枝「つばめか」
  夏代「フー子に近づいて、何しようとしてるのかしら?」
  十一「決ってらあな。金と体よ」
  秋枝「こんなデカイ家に住んでるから、金持ちのお嬢さんと間違われてんじゃねえか」
  十一「たぶんな」
  夏代「フー子に本当の事話した方がいいかしら?」
  秋枝「ああ、スパッと言ってやんな」
  十一「マトモに言っても聞きやしねえよ」
  秋枝「じゃあ、どうすんだい?」
  十一「俺にいい手がある」
 十一、夏代、秋枝、顔を寄せ合って内緒話

☆翌朝・リビング
  冬子、自分の部屋から出てくる
  夏代「フー子、さっき白鳥さんから電話があったの。渡したい物があるから、10時に来て欲しいって
    (メモを渡し)場所はここよ」
  冬子「何かしら・・(洗面所に行く)」
 十一と秋枝、入って来る
  十一「うまくいったな」
  夏代「ねえ、大丈夫?」
  秋枝「任しときなって、おい」
 十一と秋枝、出て行く

☆マンション前道路
 停車しているカローラに十一と秋枝が乗っている。秋枝、弁当を食べている
  秋枝「ああ、食った食った」
  十一「あ!全部食いやがって」
  秋枝「よく見な、残してあるだろ」
  十一「たくあんの尻尾ときゅうりのきれっぱししかねえじゃねえか」
  秋枝「ブーブー言うんじゃないよ。家に帰れば姐御の手料理なんて、嫌ってほど食えるだろ」
  十一「ケッ!(たくあんの尻尾をしゃぶる)」
  秋枝「あ、フー子が来た」
 冬子、メモを見ながらマンションに入る。十一と秋枝、車から降りてマンションの方へ行く

☆マンション3階
 冬子、蘭子の部屋のブザーを押す。ガウン姿、頭にカーラーを巻いた蘭子出てくる
  蘭子「なあに、朝っぱらから」
  冬子「あの、白鳥さんいらっしゃいますか?」
  蘭子「夏彦に何のご用?」
  冬子「渡したい物があるって、電話貰ったんです」
  蘭子「そう(奥に向かって)夏彦、お客様よ」
  白鳥「何だよ(パジャマ姿で出てきて)あ!ちょっと(外へ出てドアを閉める)」
 壁際に隠れている十一と秋枝
  秋枝「あの男かい?」
  十一「ああ」
  秋枝「姐御もフー子も男の趣味が悪いな」
  十一「ほんとに・・おい!」
  秋枝「シー!」
 冬子、白鳥に詰め寄っている
  冬子「あの人誰なの?」
  白鳥「あ、あれは姉だよ」
  冬子「兄弟はお兄さん一人って言ったじゃない」
  白鳥「だから、ぎ、義理の姉でね」
  冬子「ガウン姿の義理のお姉さんとパジャマ姿で過ごしてるの?」
  白鳥「だから、これはね」
  蘭子「(出てきて)玄関の前で何ゴチャゴチャやってるのよ」
  冬子「失礼ですけど、あなたと白鳥さんは、どういうご関係ですか?」
  蘭子「私と夏彦の関係?そんなもの聞いてどうするの(白鳥に身体をピッタリつける)」
  白鳥「よせって」
  蘭子「いいじゃない(さらにベタッとする)」
  冬子「(白鳥をキッと睨み、頬を叩く)」
  蘭子「何しやがんだい、このスベタ!(冬子に掴みかかる)」
  白鳥「よせ、やめろ」
 揉み合う3人。十一と秋枝も駆けつけ、5人が揉み合う
  蘭子「何だって言うのさ!(十一の頬を叩く)」
  十一「イテ!何しやがんだ、色ババア!」
  蘭子「何さ!」
  白鳥「おい、やめろって」
  秋枝「(白鳥の胸倉を掴み)デヤー!(投げ飛ばす)」
 廊下にひっくり返る白鳥
  蘭子「(そばに行き)夏彦ー!大丈夫?あんた達ヤクザもんかい?」
  十一「うるせえ!つけまつ毛を外してから言え!」
  秋枝「フー子、わかったろ。こいつがどういう男か」
  冬子「(悲しげな表情で、走り去る)」
  秋枝「フー子!(後を追う)」
  十一「フーちゃん!(追う)」  

☆公園
 冬子、ボンヤリと立っている。後ろにいる十一と秋枝
  冬子「どうしてわかったの」
  十一「最初に聞いた時にピーンときたよ」
  冬子「私、ちっとも気づかなかったわ」
  十一「ま、これも人生経験の差だな」
  秋枝「これに懲りて、甘い話には乗るんじゃないよ」
  冬子「うん・・秋ねえちゃん、心配かけてゴメンね」
  秋枝「礼なら、こっちの兄貴に言うんだね。徹夜で張り番までしたんだから」
  冬子「え?じゃ仕事って言ってたのは・・」
  十一「まあな」
  冬子「そうだったの・・ありがとう、十一さん」
  十一「遠慮すんなって、兄妹じゃねえか」
  冬子「うん、お兄さん(ニッコリ微笑む)」
 夕焼けの中、屈託無く笑い合う3人

☆リビング
 お膳にはすき焼きの鍋が置かれているが、中には何も入っていない
  あまり「ねえ、まだ?」
  信「あまりだけ先に食べさしたらどうだ?」
  夏代「秋ちゃんがお肉買ってきてくれるのよ。だからもうちょっと待って」
 玄関の開く音がして、「ただいま」という十一たち3人の声が聞こえる
  あまり「帰って来た」
 十一、秋枝、冬子入って来て座る
  信「一緒だったのかい?」
  十一「え?玄関の前で会いましてね、偶然に」
  夏代「ね、それでどうなったの?」
  十一「うん?安心しろ。全て解決したよ(冬子に)な?」
  冬子「うん、夏姉ちゃん、ゴメンね」
  夏代「いいのよ。良かった」
  信「何が良かったのかね?」
  十一「へ?ああ、僕の仕事がうまくいって良かったなあ、そういう話です」
  信「何だかよくわからんが・・」
  秋枝「姐御、肉買ってきたよ」
  夏代「まあ秋ちゃん、ずいぶん張り込んだじゃない」
  秋枝「頼りがいのある兄貴に、ちっとは栄養つけて貰おうと思ってさ」
  冬子「私も少し出したのよ、お兄様のためにね、フフ」
  秋枝「なかなかいいとこあるよ、この兄貴」
  夏代「当たり前でしょ。私が選んだ人ですもん」
  秋枝「オノロケはもうたくさん。さ、食べよう」
  十一「そうそう、すき焼き、すき焼き」
 十一と秋枝、先を争って肉を食べる
  秋枝「肉ばっか食ってんじゃねえよ」
  十一「お前だってそうだろ?あ!それ俺がリーチしてた肉じゃねえか」
  秋枝「早いもん勝ちだよ」
  冬子「マリーもお父さんも、ボーっとしてたら食べられないわよ」
  秋枝「ちょっとあんた、白菜とか春菊も食べなよ」
  十一「お前こそ豆腐や白滝食え」
  夏代「やめなさいよ」
  信「なあに、こうしてワイワイしてるのが、一番我が家らしいよ」
  十一「そうですとも、お父さん(と言いながら器に肉を山盛りにする)」
  夏代「もう、子供みたいなんだから」
  冬子「そこがいいとこよ、(秋枝に)ね?」
  秋枝「うん?まあね。(夏代に)な?」
  夏代「そういうこと(微笑む)」
 暖かい電灯の下、すき焼きの鍋を囲んでいる十一と家族たち。ほのぼのとした時間がゆったりと流れていく
    ―おわり―

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