第40話「飛び込んできた台風」 放映日:1974年8月14日(水) 脚本:てつまにあ
※番宣資料 村瀬健三(夏八木勲):十一の写真専門学校時代の同級生で、未だによきライバルかつ親友。中東などの危険地帯を飛び回るルポ専門カメラマン

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☆居間(十一と夏代の部屋)
 十一と夏代、テーブルに向かい合って座りポーカーをしている
  夏代「さあどうするの?降りる?」
  十一「バカ言え!10足して20だ!(チップ代わりのマッチを出す)」
  夏代「じゃ私はそれに20足して40(マッチ出す)降りたほうがいいんじゃない?」
  十一「バカヤロウ!40でコールだ!」
  夏代「(カードを見せて)フルハウスよ」
  十一「(カードを伏せたままテーブルに叩きつける)」
  夏代「(十一のカードをめくる、11のスリーカード)私の勝ちね」
  十一「クソッ」
  夏代「約束通り、明日はフランス料理ごちそうしてよ?」
  十一「ああ、フランス料理でもインド料理でも好きにしやがれ」
  夏代「何着て行こうかなあ、フフ」
  十一「もう〜お前が悪いんだ!(トランプを壁に投げつける)」
 壁に張り付くJとK、Jは力なく下に落ちKだけが残る
―オープニング―

☆朝・リビング
 食事をしている面々
  夏代「今日のお味噌汁はね、あなたの好きなナスにしたのよ。美味しい?」
  十一「うん」
  夏代「あ、白菜の一夜漬けも食べてみて」
  十一「うん」
  秋枝「また始まりやがった」
  冬子「放っときなさいよ」
  信「いいじゃないか、仲がいいに越した事はないんだから」
  秋枝「そりゃそうだけどね」
  夏代「あ、そうだ。秋ちゃん、今日お休みでしょ?夕飯の支度頼めるかしら?」
  秋枝「どうして?」
  夏代「うん?今夜ね、二人で食事に行くのよ。フランス料理、フフ」
  信「そうか。たまには二人でゆっくりしておいで」
  夏代「ええ」
  秋枝「随分景気がいいじゃねえか。馬券でも当ったのかい?」
  十一「良い訳ねえだろ。ポーカーにも負けたっていうのに」
  夏代「(つねる)」
  十一「イテッ」
  信「十一君、ありがとう」
  十一「は、どうもこちらこそ」

☆居間
 十一、本棚から「シェークスピア全集」を取り出し、パラパラとページをめくる
 ページの間に2万円挟まっている
  十一「(札を取り)お前とは縁がねえな」
 夏代、両手に服を持って入って来る
  夏代「十一さん」
  十一「(慌てて札をポケットに仕舞う)」
  夏代「何してるの、そんな本読んで」
  十一「いや、今度ハムレットを題材にした写真を撮ろうと思って、ハハ。何か用か?」
  夏代「ねえ、どっちの服がいいと思う?」
  十一「君が好きなやつにしろよ」
  夏代「そんな事言わないで選んでよ。どっちがいい?」
  十一「(見ないで)じゃあ左」
  夏代「やっぱりエンジのワンピースがいい?」
  十一「ああ、よく似合うよ(出て行く)」
  夏代「(後について出て行く)」

☆玄関ホール
 十一と夏代、2階から降りてくる
  十一「(靴を履き)じゃ行って来る」
  夏代「5時ごろスタジオに行けばいい?」
  十一「ああ」
  夏代「じゃいってらっしゃい」
  十一「うん(出て行く)」
 嬉しそうに服を抱えていた夏代、小走りに奥へ行く

☆秋枝の部屋
 秋枝、ベットに腹ばいになって帳簿に目を通している。夏代、入って来る
  夏代「秋ちゃん、どっちの服がいいと思う?」
  秋枝「え?そんなの自分で決めりゃいいだろ」
  夏代「そんな事言わないでさ。ね、どっちがいいと思う?」
  秋枝「(帳簿を見たまま)右」
  夏代「秋ちゃんもそう思う?彼もこっちの服が似合うって行ってくれたの、フフフ。
     ♪日に焼けた〜あなたの胸にぃ〜目を閉じてもたれて、み〜た〜い(出て行く)」
  秋枝「まるで女学生だね、ありゃ」
  
☆スタジオ居間
 十一、写真をチェックしている
  ゲン「へえ〜フランス料理ですかあ」
  十一「全くとんでもねえ事になっちまったよ」
  ゲン「釣った魚にも、たまには餌をやらないと」
  十一「釣ったこともねえくせに」
  ゲン「どうしてですかねえ。先輩だってお頭付きの鯛が釣れたっていうのに」
  十一「投網でも投げてみるんだな。めざしの一匹ぐらい引っ掛かるかもしれねえ」
  ゲン「ひでえなあ」
 電話鳴る
  十一「(電話に)稲葉勇作スタジオです・・大場は僕ですが・・え?村瀬?村瀬ってあの村瀬か!
     いきなり電話してきやがって、ハハハ。ぃやあ村瀬、懐かしいなあ。なあ村瀬、村瀬よ!」

☆新聞社
 雑然とした室内の片隅、黒いTシャツにアーミー色のズボン姿の村瀬が、机の前に座っている
  村瀬「相変らず騒々しいヤツだな・・ああ、三日前に帰って来た。すぐ連絡しようと思ってたんだが時間が無くてな
     それでどうだ、今夜久しぶりに」

☆スタジオ居間
  十一「もちろんオッケーだよ。土産話も聞きたいしな、ハハハ。それでどこにする?うん?ああ「おたふく」な
     わかった。遅れんなよ、じゃあな(切る)」
  ゲン「村瀬って誰ですか?」
  十一「写真学校時代からのダチ公でな。ベトナムだの中東だの、危ねえとこが好きだって変りもんなんだ」
  ゲン「類は友を呼ぶってやつですね」
  十一「なに?」
  ゲン「いえ別に」
  十一「あのヤロウ、元気で帰ってきやがって、ハハハ。よーし、今夜はパーッと行くぞ!」
  ゲン「今夜?夏代さんの方はどうするんですか?」
  十一「え?あ、しまった!」
  ゲン「夏代さん楽しみにしてるんでしょ?今さらダメだなんて言ったら可哀想ですよ」
  十一「村瀬は命からがら帰ってきたんだぞ。そいつに会いたいって言われて断れるか!」
  ゲン「しかしですね」
  十一「うるせえ!お前と違って、あいつは俺の気持ちをわかってくれる。そういう女なんだ」

☆リビング
 電話鳴る。夏代、鼻歌を歌いながら入って来る
  夏代「もしもし・・あ、十一さん。そろそろ出かけようと思ってたの・・え?何ですって?ダメになった?」

☆スタジオ居間
  十一「友達から電話がかかってきてさ。そいつ、中東から命懸けで帰って来たんだけど、今度向こうに行ったら
     無事に戻って来れるかわんねえんだ。だから、どうしても会いたいんだ。俺の気持ち判ってくれるだろ?」

☆リビング
  夏代「わかりました。私より友達の方が大事ってことね」

☆スタジオ居間
  十一「そうじゃねえよ、わかんねえかなあ」

☆リビング
  夏代「どうぞごゆっくり!(ガチャンと電話を切る)」

☆スタジオ居間
  十一「(顔をしかめ)なんだあいつ」
  ゲン「だから言わんこっちゃない。夏代さんとフランス料理に行った方がいいですよ」
  十一「う〜ん、行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ」
  ゲン「行った方がいいですよ」
  十一「黙れ!男にはな、女房よりも友情の方が大事だって事があるんだ!」

☆リビング
 夏代、おたふくみたいなふくれっ面をしている。秋枝入って来る
  秋枝「おや、まだ居たのかい?さて、晩飯は何にするかな(台所の方へ)」
  夏代「私が作るわ」
  秋枝「出かけるんだろ?」
  夏代「うるさいわね!(台所へ行く)」
  秋枝「雲行きが怪しくなってきたな。あいつ、またヘマやらかしやがったか」

☆台所
 プリプリしながら炒め物をしている夏代
  秋枝「手伝おうか?」
  夏代「向こう行って」
  冬子「(入って来て)ただいま。あら、夏姉ちゃんどうしたの?出かけなかったの?」
  秋枝「(冬子をリビングの方へ引っ張って行く)」

☆リビング
  冬子「どうしたのよ?いったい」
  秋枝「(耳元で囁く)」
  冬子「ええ!キャンセル?どうして?」
  秋枝「友達に会うとかなんとか言ってたらしいけどね」
  冬子「あんなに楽しみにしてたのに。夏姉ちゃん可哀想」
  秋枝「あのヤロウ、帰ってきたら一発かましてやんなくちゃ」

☆小料理屋「おたふく」
 十一と村瀬、カウンターに座って飲んでいる
  十一「元気そうで安心したよ。取材中のカメラマンが死んだって聞く度に、お前のこと思い出してな」
  村瀬「俺は悪運が強いからな、ちっとやそっとじゃくたばりゃしねえよ、ハハハ」
  十一「変ってねえな、お前」
  村瀬「今さら変りようもねえよ。で、お前の方は?」
  十一「まあ、ボチボチやってるよ」
  村瀬「ふ〜ん、シコウのヤツは相変らずゾウリムシの写真撮ってるのか?」
  十一「ミジンコだよ」
  村瀬「ミジンコもゾウリムシも似た様なもんじゃねえか」
  十一「そりゃそうだけど・・お前、また中東に行くのか?」
  村瀬「今度はパレスチナだ。赤軍派の残党がいるしな」
  十一「そいつらに会うのか?」
  村瀬「オット、ここから先は、いくらお前でも話せねえ、ハハハ」
  十一「水くせえな」
  村瀬「そう言うなって。ま、3年ぶりに会ったんだ。今夜は思い切り飲もうぜ」
  十一「そうだな。パーッと行くか、ハハハ」

☆リビング
 食事している夏代たち
  信「中東から帰って来たって、戦争の取材かね?」
  夏代「・・・」
  信「危険な仕事なんだろうね。十一君がどうしても会いたいと思うのも判る気ががするなあ」
  秋枝「だからって、女房との約束は破っていいって事にはならねえだろ」
  信「そりゃそうだが」
  冬子「夏姉ちゃんの気持ち考えたら、友達の方を断るべきよ」
  信「しかし、男同士の友情ってもんはだね」
  秋枝「アナクロだよ」
  信「わからんかなあ」
  夏代「(不機嫌な顔で食べる)」

☆新宿ゴールデン街
 十一と村瀬、千鳥足で歩いている
  十一「村瀬、大丈夫か?」
  村瀬「バカヤロウ!俺を誰だと思ってるんだ。こんな酒ぐらい屁でもねえ(よろめく)」
  十一「おいおい(支えて)、口ばっかじゃねえか。そろそろ帰ろう。送って行くよ」
  村瀬「何言ってんだ、今夜はパーッとやるんじゃねえのか!さ、もう一軒行こう」
  十一「そんな金ねえよ!」
  村瀬「相変らずシケタ野郎だな。よし!お前の家に行こう」
  十一「え?俺んち?」
  村瀬「お前の家なら金いらねえだろ。よし、そうしよう。おい、タクシー!」
  十一「おい、村瀬!」

☆リビング
 夏代、お膳で枝豆のへたを毟っている。秋枝、冬子、お茶を飲みながら夏代を窺っている
 玄関が開く音がして、十一の声が聞こえる
  秋枝「帰ってきやがったな」
 夏代、キッとした表情で出て行く
  冬子「台風警報発令ってとこね」

☆玄関ホール
 夏代が出てくると、十一と村瀬がスリッパを履いている
  村瀬「相変らずバカでけえな、お前んちは」
  十一「それほどでもねえよ(夏代に気づいて)あ、ただいま」
  村瀬「妹か?」
  十一「違うよ」
  村瀬「じゃなんだい?」
  十一「だから、俺のナニだよ」
  村瀬「ナニって何だよ。ハッキリ言え!」
  十一「女房だよ!」
  村瀬「お前結婚したのか?こいつは驚いた。こんな美人、どうやってモノにしたんだ?」
  十一「いいから、2階に行け」
  村瀬「学生時代とはえれえ違いだな。年中フラれてたのによ」
  十一「黙れって!」
  村瀬「世の中には奇跡ってあるもんだ」
  十一「さっさと行け!(夏代に)あのさ、酒の肴なんかあるかな?」
  夏代「あるわけないでしょ!」
  村瀬「なにイチャイチャしてんだよ?」
  十一「そうじゃねえよ、ほら行って行って」
 十一、村瀬2階に行く。入れ替わりに秋枝と冬子出てくる
  秋枝「なんだい、ありゃ?」
  冬子「下品な感じねえ」
  夏代「あの人にはピッタリよ(台所に行く)」

☆台所
 夏代、冷蔵庫からミリン干し、塩辛を出して器に盛ると、コンビーフとジャガイモを炒め始める
 秋枝と冬子、ドアの外から覗いている。
  冬子「あんな事してやんなくてもいいのに」
  秋枝「嫌い嫌いも好きのうちってね」
 2階から「ひとり娘と寝る時は〜」という村瀬の歌声が聞こえてくる
  冬子「やあねえ、もう」
  秋枝「近所迷惑もいいとこだな」

☆居間(十一と夏代の部屋)
 十一と村瀬、テーブルに向かい合って座っている。十一、サイドボードからウィスキーを出しグラスに注ぐ
  村瀬「しっかし驚いたな。3年前会った時は、女のおの字も無かったのによ」
  十一「まあ色々とな」
  村瀬「いきなり押し倒したのか」
  十一「バカ、そんな事するか!お前じゃあるまいし」
  村瀬「なんだ、相変らず女には弱えのか。その分じゃ尻に敷かれてんだろ」
  十一「そんな事ねえよ」
  村瀬「ムキになるなって。でもよ、洋子ちゃんの時もその前のみゆきちゃんの時も、わがまま言われっ放しだった
     じゃねえか。情けねえなあ。黙って付いて来い。男はこれだよ」
  十一「女もいねえくせに、でかい口きくな」
  村瀬「俺の魅力が判る利口な女がいねえんだよ」
  十一「ケッ、どっちが情けねえんだか」
 夏代、氷や酒の肴を載せたお盆を持って入って来て、テーブルに置く
  村瀬「(正座して)初めまして、村瀬です。突然お邪魔しちゃって」
  夏代「いいえ、遠慮しないで下さい」
  村瀬「は、どうも。あの、お名前は?」
  夏代「夏代です」
  村瀬「名前もお綺麗なんですね」
  夏代「あら、そんな」
  村瀬「何でこんなヤツと結婚したんですか?」
  十一「おい!」
  夏代「自分でも不思議に思う事がよくありますの、ホホホ」
  村瀬「そうでしょう?そうですよ(繁々と見て)いやあ、でも似てるなあ」
  夏代「え?」
  村瀬「洋子ちゃんも長い髪で目がパッチリしてたよな?」
  十一「よせって」
  夏代「洋子さんて?」
  村瀬「こいつの学生時代の彼女ですよ、ハハハ。こいつ見かけに寄らず純情でね、洋子ちゃんの誕生日にバラの
     花束持って会いに行ったんですよ。男が花束なんて何考えてんだお前は、ハハハ」
  十一「やめろって!」
  村瀬「あ、花束持ってったのはみゆきちゃんの時だったか?」
  十一「黙れってんだよ!」
  村瀬「怒ることねえだろ、本当の事なんだからよ」
  夏代「じゃ、ごゆっくり(十一をキッと睨みドアの方へ行く)」
  十一「(立ち上がり)あとでちゃんと話すからさ」
  夏代「けっこう(ドアをバタンと閉めて出て行く)」
  十一「えれえ事になっちまった」

☆二階廊下
  夏代「あのトンチキ、あとでたっぷり思い知らせてやる」

☆居間
  村瀬「何ムクレてんだよ、飲もう飲もう」
  十一「お前のおかげで、俺はとんでもねえ状況に追い込まれてんだぞ!」
  村瀬「何の話だ?それより、お前今なに撮ってんだ?」
  十一「週刊ドリームの表紙だよ」
  村瀬「週刊ドリーム?」
  十一「稲葉先生から引き継いだんだ」
  村瀬「稲葉勇作はカラコラム行ってんだろ?何でお前がそんなシケタ仕事しなきゃなんねえんだ。断っちまえよ
     そんな仕事」
  十一「そうはいかねえよ、編集長にも迷惑かけてるし」
  村瀬「だからお前はダメなんだよ!」
  十一「なに!」
  村瀬「ちったあ、テメエの事考えろ!お前みたいなお人よしに、いい写真が撮れるかってんだ!」
  十一「もう一度言ってみろ!(胸倉を掴む)」
  村瀬「何度でも言ってやるよ。テメエの才能をドブに捨てるようなヤツは、ちり紙と交換してもらえ!」
  十一「テメエ!(殴りかかる)」
 十一と村瀬、殴り合いの喧嘩を始める

☆リビング
 ボンヤリ座っている夏代。秋枝と冬子、心配そうに見ている
 2階からドッタンバッタンという物音と、怒鳴り声が聞こえてくる
  秋枝「今度は喧嘩か、にぎやかなこった」
 夏代、慌てて出て行く
  
☆居間
 夏代が慌てて駆け込むと、村瀬が十一を羽交い絞めにしている
  夏代「どうしたんですか!」
  村瀬「なあに、ちょっとした友情交換ですよ(手を離す)」
  十一「バカヤロウ、友情交換で首締めるヤツがあるかよ、ゲホゲホ」
  夏代「(そばに行き)大丈夫?」
  十一「ああ」
  村瀬「じゃ、俺そろそろ帰るわ」
  十一「どうして?今日は夜明かしで飲むはずだろ?」
  村瀬「奥さん、ご馳走さまでした(出て行く)」
  十一「おい、待てよ(出て行く)」

☆玄関ホール
  十一「泊っていけばいいじゃねえかよ」
  村瀬「お前が女房と乳繰り合ってるのを見ても面白くねえよ。俺にも待ってる女がいねえわけじゃねえし」
  十一「そうか・・また会えるか?」
  村瀬「ああ、そのうちな。(ドアを開け)カミさん大事にしろよ、じゃあな(出て行く)」
  十一「あの野郎、強がりやがって」

☆居間
 夏代、テーブルの上を片付けている。十一戻って来る
  十一「(座って)あいつ昔から、ああいうヤツでさ。俺もまいってんだ、ハハハ」
  夏代「(よそよそしく)随分お親しいようですわね」
  十一「写真学校で知り合ったんだけど、何か妙にウマが合っちまってさ。バカな事も色々やったな、ハハハ」
  夏代「その時洋子さんとお知り合いになられたんですの」
  十一「え?それはさ・・つまり・・同じクラスにいて・・それで」
  夏代「どういうご関係でしたの?」
  十一「どういうって・・友達だよ」
  夏代「どういうお友達?」
  十一「だからさ・・映画見に行ったり、メシ食ったり、部屋掃除してくれたり」
  夏代「あら、お部屋に連れ込んでらしたの?」
  十一「連れ込むなんて、そんな」
  夏代「じゃあホテルをご利用なさってたの?」
  十一「うん、たまに」
  夏代「やっぱり連れ込んでたんじゃないさ!その女のこと何で隠してたのよ!(クッションを投げる)」
  十一「別に隠してたわけじゃねえよ。そんな昔のこと、今の俺達には関係ねえじゃねだろ」
  夏代「結婚した時、隠し事しないって約束したじゃない!黙ってたのはやましいからよ!」
  十一「そうじゃねえって」
  夏代「嘘つき!スケコマシ!」
  十一「機嫌直せよ。俺が愛してるのはお前だけさ」
  夏代「あの女にもそう言ったんでしょ!」
 夏代、テーブルの上のミリン干しや氷を投げつける。十一、クッションで防御する
  十一「よせ、やめろ」
  夏代「何で約束すっぽかしたの!どうして女のこと隠してたの!バカ!アホ!マヌケ!嘘つき!」
 十一、一目散に部屋から逃げる
  夏代「逃げるなんて卑怯よ!悔しくって悔しくって、涙も出やしないわよ(涙が頬を伝う)」

☆リビング
 秋枝、竹刀で素振りをしている
  秋枝「今度は夫婦喧嘩か、やかましい晩だな」
 十一、クッションを持って逃げ込んでくる
  十一「ああ、びっくりした」
  秋枝「おい、姐御にちゃんと謝ったのかい?」
  十一「謝るヒマなんかねえよ」
  秋枝「とにかく今夜の事はあんたが悪い。友達だか何だか知らねえが、姐御との約束破ったんたんだからな」
  十一「わかってるよ。でもな」
  秋枝「でもなんだい?」
  十一「あいつは俺なんかと違って、一歩間違えるとお陀仏ってところに行ってるんだ。今日会わなかったら
     もう会えないかもしれねえ。そう思ったから俺は」
  秋枝「ふ〜ん、あんたの気持ちも判らなくはねえがな」
  十一「だろ?あいつだって判ってくれる、そう思ってたのに」
  秋枝「話せば姐御だって判ってくれれるよ」
  十一「それだけじゃすまねえんだよ」
  秋枝「まだ何かあんのかい?」
  十一「それがさ」
  秋枝「(竹刀の剣先を十一に突きつけ)言ってみな。聞いてやるから」
  十一「村瀬のヤツが変な事言いやがってさ」
  秋枝「なんだい?」
  十一「写真学校の時の彼女がどうのこうのって」
  秋枝「へえ〜あんたにそんな女いたの?」
  十一「もう6年も前の話なんだよ。それをあいつ、隠してたっていきなり怒りやがってさ」
  秋枝「昔の女にヤキモチ焼いたってわけだ」
  十一「昔のことでヤキモチ焼かれたって、どうしようもねえだろ」
  秋枝「ま、諦めて謝るんだね」
  十一「どうしてだよ」
  秋枝「その方が丸く治まるってもんさ。それとも、私が一発かましてやろうか?」
  十一「いえ、けっこうです」
  秋枝「じゃあ、さっさと謝っといで。グズグズしてやがると、喉に竹刀の跡がつくよ」
  十一「わかりました(スゴスゴと出て行く)」

☆居間
 十一、ドアの陰から中を覗く。夏代、テーブルの後片付けをしている
  十一「(オズオズ入って来て)手伝おうか」
  夏代「向こう行ってて」
  十一「今夜のことは俺が悪かった。謝る(頭を下げる)村瀬はベトナムとか中東とか、ずっと戦場で写真を撮って
     来たんだ。戦場では何人もカメラマンが死んでるし、村瀬だっていつそうなるか判らない。今日会わなかっ
     たらもう会えないかもしれない。そう思ったから会ったんだ。君なら俺の気持ち判ってくれると思ったし」
  夏代「(怒った事を少し後悔する)」
  十一「君をないがしろにしたわけじゃないんだ」
  夏代「じゃあ、洋子って人のことは?」
  十一「そ、それはさ、俺だって村瀬に言われるまで忘れてたんだよ。何しろ6年も前の事なんだから」
  夏代「私はその人に似てるんだって?」
  十一「ち、違うよ。ぜんぜん似てねえよ。君のがずっと上さ」
  夏代「どうかしらね」
  十一「結果的には隠してたと同じだからな。それで君が傷ついたなら謝るよ。ごめんな」
  夏代「私はその人の身代わりじゃないの」
  十一「そんな事ねえって」
  夏代「(お盆を持って立ち上がる)」
  十一「あ、俺が持ってくよ、な」
  夏代「いいわよ」
  十一「遠慮すんなって」
  夏代「そう、じゃお願い(お盆を渡しドアを開ける)」
  十一「(オデコにドアが当る)イテッ」
  夏代「あら失礼(出て行く)」
  十一「全くもう(出て行く)」

☆台所
 夏代、洗い物をしている。そばに手持ち無沙汰な顔つきで立っている十一
  夏代「そんなとこにいるなら、戸棚に仕舞って(ふきんを投げる)」
  十一「あ、そうね。戸棚にね(ふきんで拭いて器を仕舞う)」

☆朝・リビング
 十一、茶碗を並べている。オデコにバンドエイドを貼っている
  信「(入って来て)おや、十一君早いね」
  十一「おはようございます」
  信「珍しいね、手伝いとは」
  十一「たまには、こういう事も致しませんと」
  秋枝「(入って来て)昨夜だいぶ、とっちめられたみたいだな」
  十一「おかげさまで」
  冬子「(入って来て)当然よ。当分サービスするのね」
  秋枝「そんなにいじめんなよ。で、和平交渉は上手くいったのかい?」
  十一「まだ道半ばってとこでしょうか」
 夏代、味噌汁の鍋を持って入って来る
  秋枝「まずは腹ごしらえだ(茶碗を出す)」
  十一「そうですね(茶碗を出す)」
  夏代「(秋枝の茶碗を取り、ご飯をよそう)」
  秋枝「サイゴンは遠そうだね」

☆スタジオ
 十一、モデル撮影している
  十一「バカヤロウ!お化け屋敷の写真撮ってんじゃねえんだぞ!ゲン!もっとマトモなモデル連れて来い!」
  ゲン「先輩!モデルはもっと優しく扱って下さいよ」
  十一「うるせえ!今日は中止!(居間の方へ)」
  ゲン「先輩!(後に続く)」

☆スタジオ居間
 十一、椅子に座るとイラついたように煙草をつける
  ゲン「先輩の気持ちもわかりますけどね」
  十一「何でお前に判るんだよ」
  ゲン「これですよ(オデコのバンソウ膏を指で弾く)」
  十一「イテッ!何すんだよ」
  ゲン「昨夜夏代さんにやられたんでしょ?」
  十一「バカヤロウ、そんなんじゃねえよ」
  ゲン「だからフランス料理に行けって言ったのに」
  十一「うるせえ!コーヒーでも入れろ!」
  ゲン「はいはい、あれ、お湯が無いや(ポットを持ち上げる)」
  十一「(オデコにポットが当る)イテッ!バカヤロウ、気をつけろ」
  ゲン「すいませんねえ。こりゃ、夏代さんのたたりかなあ」
  十一「怖い事言うな!」

―CMをどうぞ

☆新聞社
 村瀬がくわえ煙草で写真のチェックをしていると、国際部部長がやってくる
  部長「(隣りに座り)村瀬よ、帰って来たばっかりで悪いんだが、あさってからベトナム行ってくんねか」
  村瀬「来月からパレスチナ行くんすよ、俺」
  部長「それについちゃデスクと話がついてんだ。実はなベトナムにいる山本が盲腸になっちまってな。若いヤツを
     代わりに行かそうとも思ったんだが、お前なら現地の事もわかってるし、こっちも都合がいいんだがな」
  村瀬「わかりました。行きましょう」
  部長「そうか、悪いな、無理言って。詳しい事はデスクに聞いてくれ。じゃ頼んだぞ」
  村瀬「東京に腰落ち着けてらんねえな、俺は」

☆リビング
 夕食を食べている面々。玄関の開く音
  十一「(入って来て)ただいま(手に包みを持っている)」
  信「十一君、早いね」
  十一「ええ、まあ。あ、お土産にケーキ買ってきました」
  あまり「ケーキ!」
  冬子「珍しい事もあるもんね」
  秋枝「今度はからめ手できやがったな(夏代を見る)」
  あまり「どんなケーキ?」
  十一「うん?イチゴがたくさん入ったショートケーキさ」
  あまり「どんなの?見せて」
  十一「ご飯食べてからね。さ、楽しく食事しましょう、ハハハ(夏代を見る)」
  夏代「(ツンとすました顔で横を向く)」
  十一「ハハハ、ハ(力なく)食べましょう」

☆おでん屋
 村瀬と部長、飲んでいる
  部長「村瀬、ホントにすまん」
  村瀬「何言ってんですか。部長らしくねえな」
  部長「でもよ、お前が佐藤みたいになっちまったらと思うとよ」
  村瀬「佐藤は運が悪かったんですよ。地雷踏んじまうなんて(酒をあおる)」
  部長「村瀬、必ず戻って来いよ、なあ(泣く)」
  村瀬「いつから泣き上戸になっちまったんですか。俺はくたばりゃしませんよ。這いつくばっても生き延びてやる」
  部長「そう、そうだ」
  村瀬「さあ、景気よくいきましょう。おい、酒じゃんじゃん持って来い!」

☆リビング
 十一、ケーキの蓋を開ける
  十一「ジャーン。どう?美味そうでしょ?」
  秋枝「能書きはいいから、早く切りなよ」
  十一「そうね(6等分に切り)これは夏代、これは秋ちゃん、フーちゃんとマリーと、お父さんもどうぞ」
  冬子「(夏代のと見比べて)なんか大きさが違うんじゃない」
  あまり「夏姉ちゃんはイチゴが三つも乗ってるのに、私は一つしかない」
  秋枝「当たり前だろ、姐御の為に買ってきたんだから」
  冬子「私たちはついでってわけか」
  秋枝「そこまで気使って、ご苦労なこった」
  信「十一君も色々たいへんだなあ」
  十一「んん(咳払い)」
 ヤケクソのようにケーキを食べる十一、それを可笑しそうに見る夏代

☆道路
 村瀬、一人でトボトボ歩いている。手にはウィスキーのポケット瓶

☆十一と夏代の寝室
 十一、くわえ煙草でベットに寝転んでいる。夏代はアイロンがけ
  十一「(わざとらしく)あ〜あ」
  夏代「さっさとお風呂入ってきてよ。後がつかえてるんだから」
  十一「うん・・一緒に入ろうか?」
  夏代「バカな事言ってないで、さっさと行って」
  十一「まだ怒ってんのか?何度も謝ったじゃねえか。これ以上俺にどうしろってんだよ?」
  夏代「・・・」
  十一「おい、いい加減にしろよな。今何かあるならともかく、6年も前の事であれこれ言われたって、どうしようも
     ねえだろ。俺にどうしろって言うんだ?」
  夏代「・・・」
  十一「そんなに俺が気にいらねえなら、勝手にしろ!(出ていく)」
  夏代「(声をかけようとして一瞬躊躇う)」

☆朝・リビング
 不機嫌な顔で食事している十一、泣きそうな顔をしている夏代
  信「この漬物は美味しいねえ、なあ十一君」
  十一「ええ」
  秋枝「きんぴらもいけるんじゃないか」
  冬子「お味噌汁もいい味よ」
  十一「ごちそうさま(出て行く)」
  夏代「(涙目)」
  信「何かあったのか?」
  夏代「(首を振り)何でもないのよ(台所へ)」
  信「大丈夫かなあ」
  秋枝「下手に口挟まない方がいいよ、こじれるだけさ」
  冬子「二人に任せるしかないわよ」
  信「しかし、離婚なんてことに・・」
  冬子「縁起でもないこと言わないで」
  秋枝「そんなバカじゃねえさ。それに、喧嘩するほど仲が良いっていうだろ」
  信「だといいが・・」

☆玄関ホール
 十一が2階から降りてきて靴を履いていると、夏代が台所から出てくる
 気まずい二人。互いに何か言いたいが言い出せない
  夏代「あの・・」
  十一「え?」
  夏代「行ってらっしゃい」
  十一「ああ、今日は遅くなる(出て行く)」
  夏代「(切ない顔)」

☆公園
 十一、ベンチにボーっと座り煙草を吸っている。ゲン、小走りにやってくる
  ゲン「先輩、どうしたんですか?急に呼び出したりして。今日は撮影無いはずでしょ?」
  十一「車は?」
  ゲン「借りてきましたけどね、それでどこへ?」
  十一「いいからキー貸せ」
  ゲン「ロケですか?」
  十一「うるせえ(立ち上がり、歩き出す)」
  ゲン「せんぱーい!(後を追う)」

☆リビング
 一人でボーっと座っている夏代、玄関のチャイムが鳴り出て行く

☆玄関ホール
 ドアを開けると村瀬が立っている
  村瀬「どうも(入って来て)あいつ居ますか?スタジオに電話したら留守だったから」
  夏代「いいえ、出かけましたけど」
  村瀬「そうですか・・何処行きやがったんだ、あの野郎」
  夏代「こんな所じゃなんですから、さ、どうぞ」
  村瀬「いや、ゆっくりもしてらんないんですよ。明日っから取材に行くもんで」
  夏代「どちらへ?」
  村瀬「ベトナムです」
  夏代「ベトナム・・期間はどのくらい?」
  村瀬「判りません。アメリカさんの出方でどうなるか・・奥さん、せいぜいあいつのケツ引っ叩いてやって下さい
     俺が言うと喧嘩になっちまうが、奥さんの言うことなら聞くでしょうから」
  夏代「そうでしょうか」
  村瀬「あの野郎、奥さんにベタ惚れみてえだから、ハハハ」
  夏代「そんな」
  村瀬「あいつはね、俺なんかより、よっぽど良い腕持ってるんですよ。なのに肝心な所でお人好しになりやがって
     いっつも損引っかぶってる大バカもんでね」
  夏代「ええ」
  村瀬「オット、とんだ長居をしちまった。じゃ奥さん、お元気で」
  夏代「また遊びに来て下さい」
  村瀬「ありがとう(ドアを開け)あいつの事たのんます、じゃ(出て行く)」
  夏代「(暖かい微笑が溢れる)」

☆晴海埠頭
 停車しているカローラ、ボンネットの上に座って海を見ている十一。そばでコーラを飲んでいるゲン
  ゲン「何でこんなとこ来たんですか?」
  十一「海を見たくなったんだよ」
  ゲン「なに石原裕次郎みたいなこと言ってんですか」
  十一「ばか、赤木圭一郎だ」
  ゲン「どっちでもいいですよ」
  十一「(遠くを見て)あの向こうには何があんのかなあ」
  ゲン「こっちの先は東京タワーですよ、ほら(指さす)」
  十一「バカ・・・海に比べりゃ、俺たちがやってる事なんて、大したことねえな」
  ゲン「何かあったんですか?」
  十一「(煙草に火をつけ、仰向けに寝転がり空を見上げる)」
  ゲン「先輩・・」

☆リビング
 ぎこちない雰囲気の中、食事している面々
  十一「(入って来て)ただいま」
  夏代「お帰りなさい」
  冬子「きょ、今日はトンカツよ。うんと食べて頑張ってもらわなくちゃ、ね、秋姉ちゃん」
  秋枝「うん?あ、ああ、そうだな」
  信「十一君は、我が家の大黒柱だからね」
  十一「はあ」
  夏代「今日、村瀬さんが来たわ」
  十一「え?村瀬が?」
  夏代「明日からベトナムに行くんですって」
  十一「そうか・・」
  信「大変だな、ベトナムなんて」
  冬子「取材中の記者が何人も死んでるんでしょ?」
  秋枝「フー子!」
  十一「あいつが簡単にくたばってたまるか(トンカツにかぶりつく)」
  秋枝「ああいう男は悪運が強いからね」
  夏代「また元気な顔で遊びに来てくれるわ、きっと」
  冬子「そうね」
  十一「(黙々とトンカツを食べる)」



☆リビング
 秋枝、ソファーの背に腰かけて電話している
  秋枝「あいつも姐御も意地っ張りだからね・・え?私は昔の女にヤキモチ焼いたりしねえよ
     ま、コーちゃんにそういう女がいればだけどね、ハハハ」
 風呂場から出てきた十一、台所からビールとコップを持ってきて、ソファーに座って飲み始める
  秋枝「ハハ、何言ってんだい、じゃまた明日ね(切る)ヤケ酒かい?」
  十一「そんなんじゃねえよ」
  秋枝「一人で飲んでてもつまんねえだろ」
 秋枝、台所からコップと裂きイカの袋を持ってくる
  秋枝「(ビールを注いで)まだ揉めてんのか」
  十一「俺のせいじゃねえよ。だいたいな、あいつに会うまで一人の女も知らねえなんて、気持ち悪いだろ?」
  秋枝「まあね」
  十一「29年生きてりゃ色々あらあな。あいつだって、俺の前に付き合ってた男いるんだろうし」
  秋枝「いないよ」
  十一「ウソつけ」
  秋枝「ホントさ。ラブレターは中学時代からワンサカ貰ってたけど、そういう男と何かあったって話も聞かねえし
     高校時代、憧れてる先輩がいたけど、手も握ってないはずだよ」
  十一「詩の仲間だっているだろう」
  秋枝「仲間は仲間さ。それにそういう相手がいたら、あんあたに惚れるわけねえだろ」
  十一「そりゃそうだけど」
  秋枝「きっと、姐御が本気で惚れたのは、あんたが初めてだったんだよ。だからあんたの事が全部気になる
     昔の女にヤキモチ焼くなんて可愛いじゃねえか。そう思う度量も、男には必要なんじゃないかな」
  十一「(裂きイカを食べながら考える)」

☆寝室
 夏代、ベットの縁に座っている。ドアにノックの音
  秋枝「(入って来て)あいつ酔って寝ちまったよ。風邪ひくんじゃないかい?」
  夏代「いいのよ、風邪ひいたって」
  秋枝「そうか、姐御がいいならいいや。私には関係ないし。じゃお休み(出て行く)」
 夏代、髪を弄びながら落ち着かない

☆リビング
 十一、ソファーで眠っている。夏代、入って来て揺り起こすが起きない

☆寝室
 戻ってきた夏代、押入れから予備の毛布を出し、再び出て行く

☆リビング
 十一に毛布をかけた夏代、ふと思いついた様に自分も毛布の中に入り、十一に寄り添う

☆夜の街・静寂

☆リビング
 十一目を覚ます。隣りに夏代がいるのに気づく
  十一「おい(揺り起こすが起きない)しょうがねえな(抱き抱えようとする)」
  夏代「(十一の首に腕を回す)」
  十一「なんだ、起きてたのか。じゃあ自分で歩け」
  夏代「連れてって」
  十一「甘えんなよ」
  夏代「新婚旅行の時はしてくれたじゃない」
  十一「しょうがねえな(抱き抱えて立ち上がる)」
  夏代「(耳元で)ごめんね」
  十一「昔のことで一々言われたら、俺、身が持たねえからな」
  夏代「うん、もう言わない」
  十一「お前少し太ったんじゃねえか。筋肉痛で手が震えたらどうすんだよ」
  夏代「こら、そんなヤワな事言ってると、一流のカメラマンにはなれねえぞ」
  十一「うるせい」
 夏代を抱き抱えて、十一2階に行く
  秋枝「(部屋から顔を出し)夫婦喧嘩は犬も食わねえとは、よく言ったもんだ」

☆2階廊下
 夏代を抱き抱えた十一が部屋に入ると、ドアがゆっくり閉まる

☆空港、送迎デッキ
 飛び立つ飛行機、十一と夏代見送っている
  夏代「いつ戻って来るかしら」
  十一「さあな、あいつは遠くにいた方がいいんだ」
  夏代「どうして?」
  十一「ロクでもねえ昔話されたら堪んねえからな」
  夏代「まだ何か隠してるの?」
  十一「何にもねえよ」
  夏代「さあ、白状しなさい」
  十一「何にもねえって(逃げる)」
  夏代「待ちなさいよ(追いかける)」
 走って行く二人に、初夏の日差しが当っている
  ―おわり―

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