第41話「ビキニとたんこぶ」 放映日:1974年8月21日(水) 脚本:てつまにあ

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☆朝・リビング
 夏代、秋枝、冬子、あまり、信、食事している
 十一、タオルで顔を拭きながら入って来る
  夏代「二日酔いは治ったの?」
  十一「(座って)さっき便所で全部吐いた」
  冬子「やあね、もう」
  秋枝「食事中だろ」
  十一「仕方ねえだろ、ウップ」
  夏代「こう度々じゃ、面倒見切れないわよ」
  十一「そう言うなよ。その分今晩サービスするからさ」
  冬子「んん(咳払い)」
  秋枝「露骨な発言は慎むように」
  十一「じゃ、内緒で話す(夏代の耳元に囁く)」
  夏代「やめて」
  十一「へへへ」
  秋枝「私からもサービスしてやろうか?」
  十一「結構です(食べ始める)」
  あまり「ねえ、お父さん。いいでしょ?」
  信「そう言ってもなあ」
  夏代「マリー、どうしたの?」
  信「いやね、海に連れて行けって言うんだよ」
  冬子「海?」
  あまり「夏休みに海に行ってないの私だけなんだもん。みきちゃんもゆみちゃんも行ってるのに・・」
  秋枝「他所は他所、ウチはウチ」
  あまり「だって(涙ぐむ)」
  夏代「今度プールに連れて行ってあげる。だから我慢して」
  あまり「イヤ!(出て行く)」
  信「困ったなあ・・仕事を休む訳にもいかんし」
  秋枝「放っておきなよ。すぐ収まるさ」
  冬子「家族で海に行ったのいつだっけ?」
  夏代「そうね・・マリーが幼稚園の頃だったかしら」
  十一「それじゃ、マリーが拗ねるのも無理ねえな」
  秋枝「しょうがないだろ、ウチは人数が多いんだから。先立つものが無くちゃな」
  冬子「そうねえ・・大黒柱は虫食いだらけだし(十一を横目で見る)」
  十一「海か・・ハハハ(夏代を見て)水着姿もいいだろうなあ・・何かゾクゾクしてきた」
―オープニング―

☆スタジオ居間
 十一、スタジオから出てきて煙草に火を点ける
 机の上の雑誌を手に取り、ページをめくる
 ビキニ姿でポーズを取っているモデル(アップ)
  十一「あいつ、どんな水着だろ・・ビキニかな、それとも背中が開いてるワンピース。へへへ」
 チャイムが鳴り、ゲン入って来る
  ゲン「こんにちわ。いやあ、暑いですねえ」
  十一「周りの男はビックリするだろうな、へへへ」
  ゲン「先輩、先輩」
  十一「ボートで沖へ出て・・ヒヒヒ」
  ゲン「先輩!」
  十一「あ?何だ、お前いたのか」
  ゲン「暑さでボケたんですか?(雑誌に気づき)夏代さんがいるのに、そんな写真にヨダレ出して」
  十一「バカヤロウ!そうじゃねえよ」
  ゲン「じゃあ、何ですか?」
  十一「今度海にでも行こうかと思ってさ」
  ゲン「海?」
  十一「ああ、あいつのビキニ姿を拝めるだろ、ヒヒヒ」
  ゲン「今さら水着姿見たって、どうって事ないでしょ?夫婦なんだから」
  十一「バカだな、お前は。少し隠れてた方が色っぽいんだよ」
  ゲン「じゃ、裸の時は色っぽくないんですか?」
  十一「そりゃ、そっちも良いけどさ。昨夜だってな・・」
  ゲン「(じっと見る)」
  十一「そんな事いいんだよ!」
  ゲン「鼻の下伸ばしちゃって、まあ」
  十一「それより、お前何しに来たんだ?」
  ゲン「近くまで来たんで、ちょっとご挨拶に」
  十一「質屋にでも行ってきたのか」
  ゲン「とんでもない。これですよ(ポケットから宝くじを出す)」
  十一「こんなもんに頼るようじゃ、池プロも長くねえな」
  ゲン「まあ、ホンの運試しですけどね。先輩もどうですか?」
  十一「そんなもんを当てにする気はねえよ。俺は実力で勝負する」
  ゲン「散々馬に頼ってきたくせに」
  十一「何か言ったか?」
  ゲン「いえ別に」
  十一「で、当ればいくらだ?」
  ゲン「1千万です」
  十一「1千万!」
  ゲン「ひょうたんから駒って事もありますからね。あ、先輩にも1枚あげますよ」
  十一「いいよ」
  ゲン「そう言わずに(渡す)」
  十一「お前が買ったもんじゃ、当りそうもねえけどな」

☆夜・栗山邸外

☆寝室
 十一、パジャマ姿で酒を飲んでいる
 夏代、洗濯物を持って入ってくる
  夏代「(タンスに仕舞いながら)また飲んでるの。今朝あんなにヒーヒー言ってたのに」
  十一「迎え酒だよ」
  夏代「明日どうなっても知らないわよ」
  十一「なあ、お前どんな水着だ?」
  夏代「何よ、急に」
  十一「だってさ、海に行くかもしれないんだろ?」
  夏代「判らないわよ、まだ」
  十一「いいから見せろよ」
  夏代「どこに仕舞ったか忘れちゃった」
  十一「じゃ、俺が探してやる(引き出しの中をかき回す)」
  夏代「やめてったら」
  十一「じゃ、見せろよ」
  夏代「しょうがないわね(別の引き出しから、紺のワンピース水着を出し)これよ」
  十一「(広げて見て)何だ、これ。ババアの水着じゃねえか。ダメだよ、こんなの」
  夏代「どうして?」
  十一「面白くねえもん」
  夏代「別に水着見せにいく訳じゃないでしょ」
  十一「判ってねえな、もう。お前の色っぽい身体を、こんな野暮ったい水着で隠しちゃ勿体無いだろ?」
  夏代「またヘンな事考えてる」
  十一「そうじゃねえよ。判んねえかなあ、俺の気持ち」
  夏代「判んないわよ。いやらしい」
  十一「お前だって、こんなババ臭いやつじゃなくて、格好イイ水着着たいだろ?」
  夏代「そりゃ、そうだけど」
  十一「じゃ明日買って来いよ。金やるから」
  夏代「どんなの?」
  十一「だからさ、紐みたいなビキニとかケツが見えそうなワンピースとか」
  夏代「ほら、やっぱりヘンな事考えてる。そんなの絶対にイヤ!(出て行く)」
  十一「チェッ、こんなババア水着じゃ、多摩川だって行く気になれねえや」

☆朝・リビング
 十一、ボーっとした顔で入って来る
  十一「(座って)あ〜、気持ちわりい、ウップ(口を押さえる)」
  冬子「やめてよ、もう」
  秋枝「ったく、いい加減にしてくれよな」
  十一「昨夜飲みすぎちゃって」
  秋枝「毎晩だろ」
  冬子「夏姉ちゃんと上手くいってないんじゃないの?」
  秋枝「それでヤケ酒か」
  十一「冗談じゃない、ウップ。そっちの方はバッチリだよ。昨夜だって、へへへ」
  夏代「朝からヘンな事言わないで」
  十一「照れちゃって可愛いなあ。昨夜も可愛かったけど」
  秋枝「腹ん中のもん、全部出してやろうか?(指をポキポキ鳴らす)」
  十一「いえ、遠慮しときます」
  冬子「オツムがアルコール漬けになったんじゃない?夏姉ちゃん、気をつけた方がいいわよ」
  十一「余計なお世話だよ。俺たちの事に口出すな」
  冬子「あ、そう」
  十一「ところで、フーちゃんの水着どんなの?」
  冬子「ええ?何よ、いきなり」
  十一「ちょっと参考までに」
  冬子「私のはね、黄色いワンピースで白いフリルがついてるやつ」
  十一「へえ〜、白いフリルかあ、へへへ」
  秋枝「スケベったらしい笑いしやがって」
  冬子「夏姉ちゃん、もっとサービスしてあげたら?欲求不満みたいよ」
  十一「失礼だな。そっちはゲップが出るほど」
  夏代「(つねる)」
  十一「イテッ」
  秋枝「おい、私には聞かないのかい?」
  十一「どうせ、ババくせえやつだろ。それとも、サラシか何かか」
  秋枝「テメエ、すっ飛ばされたいのか」
  十一「じゃ、何だ?」
  秋枝「ビキニだよ」
  十一「え!冗談だろ?」
  秋枝「なんだよ、私がビキニ着ちゃいけないのかい?」
  十一「そうじゃないけど・・」
  秋枝「なんなら今夜見せてやろうか?」
  十一「結構です。目が腐る」
  秋枝「なに?」
  十一「いえいえ(夏代を横目で見て)チャンバラの姉ちゃんだってビキニ着るっていうのに」

☆寝室
 夏代、洗濯カゴを持って入って来る
 十一が脱ぎ散らかしたパジャマをカゴに入れ、部屋を少し片付ける
 テーブルの下に放り出されている紺の水着
  夏代「(手に取り)水着一つで大騒ぎして・・よーし、見てらっしゃい」

☆スタジオ
 十一、モデル撮影
 青バックの前で、ビキニ姿のモデルがサマーマットに寝ている
  十一「おい、センターにもっとライト当てろ」
  ゲン「(必死の形相で新聞を読んでいる)」
  十一「ゲン!」
  ゲン「(新聞を凝視)」
  十一「ゲン!真面目にやれ、張ったおすぞテメエ!」
  ゲン「せ、先輩、た、たいへん、たいへん」
  十一「何が大変だよ、仕事中に新聞なんか読みやがって」
  ゲン「(新聞を見せて)これ、これ」
  十一「(読んで)下着泥棒現る・・お前、とうとうやっちまったのか?」
  ゲン「違いますよ。こっち、こっち」
  十一「ええ?何だ、宝くじの当選番号か」
  ゲン「あた、あた、あた」
  十一「何だよ、ハッキリ言え」
  ゲン「当った、当った」
  十一「ホントか!(新聞を見る)1千万か?」
  ゲン「じゅ、10万」
  十一「何だ、10万か。で、当り券はどれだ?」
  ゲン「先輩、先輩(指さす)」
  十一「ええ?」
  ゲン「先輩にあげたやつ」
  十一「何!(ポケットから宝くじを出し、新聞と見比べる)」
  ゲン「1、3、5、7、9、2!ね?」
  十一「ホントだ、ハハハ。ヤッター!」

☆リビング
 十一たち、食後のお茶を飲んでいる
  信「十一君は、運がいいんだね」
  十一「ついてる人間には、ちゃ〜んと幸運が回ってくるんですねえ」
  秋枝「その割には、金は回ってこないじゃねえか」
  十一「それは、俺の前を素通りしちまうけどさ」
  冬子「でも凄いじゃない、10万だもんね」
  十一「それでですね、この金で海に行くってのはどうですか?」
  あまり「ホント?」
  十一「ああ、ホントさ」
  信「それは有りがたいが、貯金でもしたまえよ。これから色々必要になるし」
  十一「いいんですよ、お父さん。宝くじの金なんて、みんなでパッと使っちゃいましょ」
  冬子「そうよ。こんな事は二度とないわよ」
  信「そうだな・・」
  秋枝「アブク銭は身に付かないって言うしな」
  夏代「家族揃っての旅行なんて、いつ行けるか判らないものね」
  十一「そう!土、日にかけてなら、お父さんも行けるでしょ?」
  信「じゃあ、そうするか」
  あまり「やったー!」
  夏代「で、どこ行くの?」
  十一「場所は任せるよ。行くのは俺と君と、こいつらと」
  秋枝「なに?」
  十一「いえ、この人たちと、荷物運びが一人」
  冬子「デコもいいでしょ?」
  十一「まあ、しょうがねえ。連れてってやらあ」
  あまり「嬉しいなあ。お兄ちゃん、ありがとう」
  十一「どういたしまして」

☆寝室
 夏代、十一のシャツにアイロンをかけている
  十一「(入って来て)おい、これ(5千円札を出す)」
  夏代「なあに?」
  十一「明日水着買って来い」
  夏代「そんなにビキニ着せたいの?」
  十一「あんなババア水着じゃ、海行ったって恥かしいだろ」
  夏代「フフ、実はね、今日買って来ちゃったの」
  十一「え?ホントか?」
  夏代「だって、あなたがワイワイ言うんですもん」
  十一「で、どんなのだ?」
  夏代「それは海に行ってのお楽しみ」
  十一「もったいぶらずに、見せろよ」
  夏代「だ〜め」
  十一「チェッ、出し惜しみしやがって」
  夏代「今夜眠れなくなると困るでしょ」
  十一「隠されたら余計眠れねえよ!」

☆朝・栗山邸外

☆リビング
 十一、ボーっとした顔で食べている
  秋枝「また二日酔いか」
  夏代「そうじゃないの。寝不足」
  秋枝「昨夜はそんなに張り切ったのかい?(意味深な笑い)」
  夏代「違うわよ。やあね」
  秋枝「じゃ、何だい?」
  夏代「水着」
  冬子「水着?」
  十一「(ボーっとしている)」

☆玄関ホール
 十一、ボーっとした顔で2階から降りて来る
  夏代「(出てきて)ちょっと、大丈夫?」
  十一「え?何か言ったか?」
  夏代「しっかりしなさいよ。車にぶつかるわよ」
  十一「お前がいけねえんだぞ。つまんねえ事隠すから」
  夏代「ハハハ」
  十一「笑い事じゃねえよ」
  夏代「頑張って働いてきてね」
  十一「うん・・じゃ、まあ(ボーっと出て行く)」
  夏代「バカみたい、ハハハ」

☆公園通り
 十一、ボーっと歩いてくる
 ブティックのショーウィンドウに飾られているビキニの水着
 十一、ボーっと近づき、ウィンドウにオデコをぶつける

☆スタジオ居間
 十一、オデコにバンソウ膏を貼っている
  ゲン「(入って来て)先輩!金取って来ましたよ!」
  十一「お前、ちょろまかしてねえだろうな」
  ゲン「ひでえなあ、そんな事する訳ないでしょ(封筒を渡す)」
  十一「(札を数え)一応あるみたいだな」
  ゲン「当たり前でしょ。それより、オデコどうしたんですか?」
  十一「何でもねえよ」
  ゲン「夏代さんに引っ掻かれたとか?」
  十一「バカヤロウ!そんな事ある訳ねえだろ!」
  ゲン「ならいいんですけどね、先輩の事だから、また何かやったのかと思って」
  十一「そんな事言っていいのか?連れてってやんねえぞ」
  ゲン「どこへですか?」
  十一「海だよ」
  ゲン「海?」
  十一「そうだよ。青い海と白い波、そして水着の女。どうだ、行くか?」
  ゲン「もちろんですよ。いやあ、ハハハ。楽しみだなあ」
  十一「よし、じゃあ、お前も連れてってやろう。荷物持ちで」
  ゲン「はあ?」

☆夜・リビング
 夕食を食べている面々
  信「旅館は取れたのかね?」
  夏代「ええ、千葉の民宿なんだけど」
  信「ホテルより、そういう家庭的な所の方が落ち着くよ」
  あまり「嬉しいなあ、みんなで行けるなんて」
  信「十一君に感謝しなくちゃなあ」
  十一「水臭い事言わないで下さいよ」
  秋枝「そう、自分の金出す訳じゃないし」
  冬子「たまたまですもんねえ」
  十一「いいじゃねえか、何だって」
  信「まあまあ、折角の家族旅行なんだから」
  夏代「そうね。本当に久しぶり。ありがとう」
  十一「いやあ、お前にそんな風に言われるとさ、へへへ」
  夏代「楽しい旅行になるといいわね」
  十一「なるに決ってるだろ」
  夏代「そうね、フフ」
  十一「へへへ」
  秋枝「まあ、何でもいいや。ただで行けるんだから」
  冬子「思いっきり羽伸ばしちゃおう」

☆寝室
 夏代、旅行の支度をしている
 十一、風呂上りで入って来る。手には缶ビール
  夏代「飲みすぎないでよ、明日出かけるのに」
  十一「(座って)判ってるって」
  夏代「オデコどうしたのよ?」
  十一「え?な、なんでもねえよ」
  夏代「ボーっとしてショーウィンドウにでもぶつけたんでしょ」
  十一「何で判るんだよ」
  夏代「あなたのやりそうな事なんて、何でも判っちゃうの」
  十一「へえ〜、そんなに俺の事判ってるのか?」
  夏代「当たり前でしょ」
  十一「どうして?」
  夏代「カンよ。第六感」
  十一「そうじゃねえだろ?」
  夏代「じゃあ、何だと思うの?」
  十一「そりゃお前、俺の事が死ぬほど好きだからに決ってるじゃねえか。だから、俺の事が全部判っちゃうんだろ?」
  夏代「さあね」
  十一「女心を狂わせる色男、へへへ」
  夏代「女心を狂わせる人が、こんな所にバンソウ膏貼ってるもんですか(剥がす)」
  十一「イテッ!」
  夏代「バカみたいな事言ってないで、早く寝てちょうだい。明日早いんだから(ベッドに入る)」
  十一「このやろう、本当の事言われたもんだから照れやがって、へへへ」
  夏代「お休みなさい」
  十一「あ、待てよ、すぐ行くから」
  夏代「電気消して」
 十一、電気を消す。真っ暗闇で何も見えない
  十一「(声だけ)こっち向けよ」
  夏代「(声だけ)くすぐったい」
  十一「(声だけ)何してんだよ」
  夏代「(声だけ)だって狭いんだもん」
  十一「(声だけ)だから、もっとこっちで・・」
 ドサッという音が響く
  十一「(声だけ)ウギャ!」
  夏代「(枕元のスタンドを点ける)」
  十一「(ベッドから転がり落ち、オデコを床にぶつけている)いてえ〜」
  夏代「色男ねえ」
  
☆海岸沿いの道路
 カリーナとカローラが走って来る

☆カリーナ車中
 運転しているゲン、助手席で寝ている信
 後部座席に座っている冬子、秀子、あまり
  冬子「(キャンディーの袋を開け)デコ、マリー」
 秀子、あまり、それぞれキャンディーを取る
  秀子「社長さん、キャンディー食べる?」
  ゲン「ええ、頂きます」
  秀子「(包み紙から出して食べさせる)」
  ゲン「どうも。いやあ、楽しいですねえ、へへへ」

☆カローラ車中
 不機嫌な顔で運転している十一
 後部座席に座っている夏代、秋枝
  十一「なんで、お前がここにいるんだよ」
  秋枝「しょうがないだろ。向こうの車は満員なんだから」
  十一「だからって、何も・・」
  秋枝「ブーブー言ってないで、前向いて運転しな」
  夏代「(キャンディーの袋を開け)秋ちゃん」
  秋枝「あ、サンキュー(食べる)」
  夏代「(紙包みから出して)はい(十一に食べさせる)」
  十一「(小声で)なんで、そいつの隣りにいるんだよ。次の信号でこっち来いよ」
  夏代「子供みたいな事言わないの」
  十一「チェッ、面白くねえ」

☆民宿「たおれ荘」
 名前とはウラハラに小奇麗な建物
 カリーナ、カローラ、駐車場に停まっている
  冬子「(トランクから荷物を出し)これとこれと(ゲンに渡す)」
  ゲン「(山のような荷物を抱え)まだ、あるんですか」
  秀子「あ、これもね(一番上にのせる)」
  ゲン「人使いが荒いんだから(ヨロヨロと中に入る)」
  十一「(秋枝に)自分の荷物は自分で持ってけよ」
  秋枝「判ってるよ(中に入る)」
  十一「お邪魔虫」
  夏代「何ブツブツ言ってるのよ」
  十一「なんでもねえよ」
 十一、夏代、中に入る

☆部屋
 八畳間の二部屋部屋続き、隅に荷物が置いてある
  民宿のおばさん「よくいらっしゃいました」
  信「お世話になります」
  おばさん「ごゆっくり(出て行く)」
  あまり「ねえ、早く行きましょうよ」
  十一「少し休ませてくれよ(寝転がる)」
  信「そんなに慌てなくたって大丈夫だよ」
  あまり「ねえってば」
  信「しょうがないな、ハハ」
  冬子「折角海に来たんだもん、早く行きましょうよ」
  信「そうだな、行くか」
 信、あまり、冬子、秀子、ゲン、荷物を持って出て行く
  夏代「ねえ、行かないの?」
  十一「何か疲れちゃってさ」
  夏代「そう、私の水着姿見れなくてもいいのね」
  十一「(ガバッと起きて)そうだ!それがあったんだ、へへへ」
  夏代「じゃ、早くして」
  十一「判ってるって」
 十一、夏代、荷物を持って出て行く

☆砂浜
 海水浴客で賑わっている
 十一、黒いトランクス形の水着、肩にVANの白いTシャツ、クーラーボックスと敷物を持っている
 ゲン、ブルーの海水パンツにバスタオル、ビーチパラソルを担いでフラフラ歩いている
  十一「よーし、この辺でいいだろ(荷物を置き)パラソル立てろ」
  ゲン「はいはい(砂浜に突き刺す)」
 夏代、秋枝、冬子、秀子、あまり、信、傍に来る
 夏代はバスタオルを羽織って水着は見えない。秋枝、ジーンズ地のビキニ、冬子と秀子は色違いのフリル付き水着
 あまりはスクール水着、信は紺の海水パンツ
  あまり「お父さん、浮き袋膨らませて」
  信「判った、判った(膨らませる)」
  十一「(クーラーボックスから缶ビールを取り出す)」
  ゲン「もう飲むんですか?」
  十一「あたりめえだ(飲む)」
  信「マリー(浮き輪を渡す)」
  あまり「行っていい?」
  夏代「準備体操してから」
  あまり「はーい」
 夏代、羽織っていたバスタオルを取る。鮮やかなオレンジ色のビキニ、胸の谷間がよく見える
  ゲン「せ、先輩!」
  十一「あん?(夏代を見て)ブッハー(ビールを吹き出す)なんだ、それ!」
  夏代「何って、水着じゃない。こういうのが良かったんでしょ?」
  十一「バカヤロウ!そんなの着ろって誰が言ったよ!」
  夏代「そんなにへん?」
  冬子「似合うわよ、夏姉ちゃん」
  秀子「ホント、すごくセクシー」
  夏代「良かった。さ、行きましょう」
 夏代たち、海の方へ駆け出す
  ゲン「いやあ、夏代さん、プロポーション抜群ですねえ、ヒヒヒ」
  十一「(頭を叩き)いやらしい目つきで見るな!」
  ゲン「あ!先輩(指さす)」
  十一「え?(見る)」
 波打ち際で、夏代が男に声を掛けられている
  十一「あの野郎!」
 十一、波打ち際に向かって駆け出す
  男「お一人ですか?」
  夏代「いえ、家族と一緒です」
  男「どちらにお泊りですか?」
  夏代「ええ、あの・・」
  十一「(傍に来て)来いよ(夏代の手を取る)」
  男「何するんだ、君は」
  十一「うるせえな、お前には関係ねえだろ。早く来いってば」
  男「よしたまえ。彼女が嫌がってるじゃないか」
  十一「なんだよ、やろうってのか」
  男「君!チカンみたいなマネはよしたまえ」
  十一「どっちがチカンだよ、人の女房に色目使いやがって」
  男「出鱈目言うな」
  夏代「本当なんです。この人、私の夫です」
  男「ええ?」
  十一「なんだよ」
  男「いえ、どうも、失礼しました(首を傾げながら立ち去る)」
  十一「バカヤロウが」
  夏代「何よ、いきなり」
  十一「あんな男に声かけられやがって。こんなの着てるからだぞ!」
  夏代「自分で言ったじゃない。ビキニがいいって」
  十一「そりゃまあ・・」
  夏代「勝手な事言わないで(海の方へ駆け出す)」
  十一「おい、待っててば(追い駆ける)」

☆海の中
 水深1Mぐらいの場所、イモを洗うように混みあっている
 夏代、泳いでいる。手が横の男に当る
  夏代「ごめんなさい」
  男「いや、いいんですよ。あの、お一人ですか?」
  夏代「いえ、あの・・」
 十一、水中から顔を出す
  十一「人の女房に何の用だよ」
  男「いえ、別に(泳いでいく)」
  十一「スケベ野郎が(見回して)あいつ、どこ行きやがった」
  夏代「(後ろからソッと近づき、十一の頭を抑え海に沈める)」
  十一「ワッ!ゴボゴボ(顔を出し)誰だ!」
  夏代「フフフ、あ、た、し」
  十一「何すんだよ」
  夏代「勝手な事ばっかり言うんだもん」
  十一「だってさ・・」
  夏代「ねえ、この水着そんなに気に入らない?」
  十一「(困ったような顔)」
  夏代「似合わない?」
  十一「似合うけどさ・・」
  夏代「じゃあ、もっと楽しそうな顔してよ。あなたの為に買ったんだから」
  十一「俺の為に?」
  夏代「決ってるじゃない。ねえ、よく見て」
  十一「うん(見て)いいか、俺以外の奴には見せるなよ」
  夏代「そんなの無理よ。海なんですもん」
  十一「じゃ、来いよ」

☆砂浜
 信、あまり、冬子、秀子、おにぎりを食べている。秋枝、ゲン、ビールを飲んでいる
 十一、夏代戻って来る
  十一「(Tシャツを取り)これ着ろ」
  夏代「(着る)」
 太ももの所まですっぽり覆われる
  夏代「これじゃ、海に来た意味が無いじゃない」
  秀子「勿体無いわよ。セクシーなポロポーション隠しちゃって」
  冬子「そうよ。夏姉ちゃん、素敵だったのに」
  十一「外野は黙れ!」
  秋枝「他の男に見られたくないんだろ」
  ゲン「夏代さんは男性の目を引きますからねえ」
  秋枝「大変だねえ、美人を女房にすると」
  十一「うるせえ!(座ってビールをガブ飲みする)」
  夏代「本当に勝手なんだから(隣りに座っておにぎりを食べ始める)」
  あまり「お父さん、トンネル作って」
  信「ああ、いいとも」
 信、あまり、波打ち際の方へ
  秀子「ね、焼きそば屋の人、結構いかしてたわよ」
  冬子「カキ氷屋の方がいいわよ」
  秀子「そう?見に行こうか?」
  冬子「うん」
 冬子、秀子、海の家の方へ
  秋枝「(ゲンに)おい」
  ゲン「は?」
  秋枝「ボートにでも乗ろうか」
  ゲン「秋枝さんと二人でですか?」
  秋枝「少しは気を利かせなよ(十一と夏代に目をやる)」
  ゲン「ああ、そういう事ですか」
 秋枝、ゲン、ボート小屋の方へ
  十一「(2本目のビールを飲む)」
  夏代「海に来てまで飲まなくてもいいでしょ」
  十一「海に来たから飲むんだよ」
  夏代「(タッパーから唐揚げを取り)少しは食べなきゃダメよ」
  十一「(食べる)」
  夏代「お尻が見えそうな水着着ろって、言ってたくせに」
  十一「ハエみたいにスケベ面した男が集まってきやがるからさあ」
  夏代「そんなに心配?」
  十一「あたりまえだろ」
  夏代「結構高かったのよ、これ」
  十一「ちょっと見せろよ」
  夏代「(Tシャツをめくり)どう?」
  十一「紐みたいなパンツじゃねえかよ。胸の谷間も見えるし(ジーッと見る)」
  夏代「(隠して)何考えてるの?」
  十一「別に」
  夏代「ヘンな事でしょ?」
  十一「そうじゃねえけどさ・・今度、二人っきりの時に着てくれよ」
  夏代「いやらしいわね、もう(肩で小突く)」
  十一「だって、俺に見せる為に買って着たんだろ?」
  夏代「さあ」
  十一「とぼけやがって(耳元で囁く)」
  夏代「やめて」
 十一と夏代、身体を寄せ合って楽しげに笑う
 冬子、秀子、少し離れた所から見ている
  冬子「よく飽きないわね」
  秀子「完全に二人の世界に入っちゃってるわね、あれは」
      ×       ×
 パラソルの下で寝ている十一と信、ビーチボールで遊んでいる夏代達
 秋枝達は水着、夏代は十一の白いTシャツ姿

☆民宿・部屋
 お膳が二つ繋げられ、料理が並べられている
 十一はVANの白いTシャツに短パン、ゲンは半袖シャツにスラックス、信は浴衣
 夏代は赤いノースリーブにGパン、秋枝は黒いTシャツとGパン、冬子は半袖ブラウスにミニスカート、
 秀子はTシャツにミニスカート、あまりはムームー
  信「ここは温泉もあるんですね」
  おばさん「ええ、露天風呂は混浴になっとります」
  十一「混浴!」
  秋枝「何だよ、目の色変えて」
  十一「いや、べ、別に、ハハハ」
  冬子「考えてる事は決ってるわよ」
  秀子「ああ、なるほどね」
  夏代「私はお断わりよ」
  十一「どうして?」
  夏代「温泉はゆっくり入りたいもん」
  十一「だから二人でゆっくりさ」
  秋枝「ゆっくりの意味が違うだろ」
  十一「妙な事言うなよ、俺はね」
  夏代「とにかく、混浴はお断わり」
  ゲン「まあまあ、いいじゃないですか(ビールを注ぐ)」
  十一「チェッ(飲む)」
  冬子「デコ、一日で随分焼けたわね」
  秀子「フー子だって。夏は小麦色の肌よね、やっぱり」
  夏代「私は誰かさんのお蔭で、真っ白」
  十一「んん(咳払い)」

☆民宿・温泉
 十一、ゲン、湯船につかっている
  ゲン「いやあ、いいですねえ。温泉にも入れて」
  十一「よかねえよ!」
  ゲン「何をムクレてるんですか?」
  十一「どうしてお前と二人で温泉に入らなきゃいけねえんだよ!」
  ゲン「しょうがないでしょ。夏代さんとは、次の機会に思う存分入って下さい」
  十一「ケッ!(出る)」
  ゲン「あれ?もう出るんですか?」
  十一「お前となんて入ってられるか!」

☆温泉前の廊下
 十一、不機嫌な顔で出てくる
  夏代「(後ろから)ワッ!」
  十一「ヒャッ!」
  夏代「なあに、絞め殺された鶏みたいな声出して」
  十一「おどかすなよ」
  夏代「ね、散歩しない?」
  十一「俺は散歩より混浴の方が・・」
  夏代「いいから早く(十一の手を引く)」
  十一「おいおい」

☆部屋
 信、秋枝、冬子、秀子、あまり、スイカを食べている
  信「夏代は?」
  冬子「さあ」
  ゲン「(入って来て)やあ、いいお湯でした(座る)」
  信「十一君は?」
  ゲン「夏代さんと、どっか行きました」
  秋枝「ははん、夜のデートか」
  冬子「どこ行ったのかな?」
  秀子「たぶん砂浜ね。波の音が聞こえて、空には星が光ってて・・ロマンチックだわ」
  冬子「二人のイメージと違う気もするけど」
  秀子「間違いないって」
  ゲン「羨ましいな、先輩が(スイカを食べる)」
  秋枝「あんたも頑張りな」
  ゲン「どうも」
  秋枝「マリー、あんまり食べるなよ。寝小便するから」
  あまり「失礼ね」

☆裏山・神社
 十一、夏代、境内の階段に座っている
  十一「(蚊を追い払っている)ああ、イライラすんな」
  夏代「どうしたのよ?」
  十一「人の耳元でブンブン飛びやがって」
  夏代「八つ当たりしてるみたい」
  十一「なんで?」
  夏代「私が混浴やだって言ったからでしょ?」
  十一「そうじゃねえよ」
  夏代「ホント?」
  十一「あ、あたりめえだ。風呂なんて、その気になりゃいつだって一緒に入れるだろ」
  夏代「でも、今日ずーっと機嫌悪かったもん」
  十一「そんな事ねえよ」
  夏代「車に乗ってる時も、海に行った時も、ずーっと」
  十一「そんな事ねえったら」
  夏代「あんな水着買わない方が良かったかな・・」
  十一「どうして?」
  夏代「だって・・」
  十一「いや、あのさ、あれ、すごく似合ってた」
  夏代「本当?」
  十一「すごくイカシてたしさ、俺の女房で良かったなあ、なんて思ったりして、へへへ」
  夏代「じゃあ、何で怒ったの?」
  十一「他の男が見ると思うと、何かこの辺がさ(胸を押さえる)」
  夏代「ばかね(腕にすがり)私はあなたのものじゃない」
  十一「全部?」
  夏代「うん」
  十一「(顔を近づける)」
  夏代「(目を瞑る)」
 重なる二人のシルエット

☆民宿・部屋
 所狭しと布団が敷かれ、みんな雑魚寝
  冬子「(小声で)随分遅かったわね」
  秀子「(小声で)混浴に入ってたりして」
  冬子「(小声で)夏姉ちゃんだって、本当はさ、フフフ」
  秀子「(十一達の方を窺い)いいわねえ」
 十一、夏代、端の方に並んで寝ている
  十一「(周りを窺い、小声で)そっち行っていいか」
  夏代「ダメ」
  十一「いいだろ(手を伸ばす)」
  夏代「ダメだったら」
  秋枝「(枕を投げる)」
  十一「(頭に枕が当る)」
  秋枝「さっさと寝な」
  十一「チェッ(布団にくるまる)」

☆朝・民宿部屋
 お膳に朝食が載っている
  十一「(ボーっとした顔)」
  ゲン「どうしたんですか、幽霊みたいな顔して」
  十一「え?昨夜眠れなくてさ」
  秋枝「なんで?」
  十一「何かモヤモヤしちゃって」
  秀子「別に部屋取れば良かったですね、へへ」
  冬子「一晩くらいどうって事ないじゃない」
  秀子「新婚なんだもん、仕方ないわよ」
  十一「判った事言いやがって」
  夏代「ねえ、帰りの運転大丈夫?」
  秋枝「3人でお陀仏なんて御免だからね」
  十一「大丈夫だよ」
  信「よし、帰りは私が運転しよう」
  夏代「お父さんが?」

☆海岸沿い・道路
 カリーナ、カローラ、走って来る

☆カリーナ車中
 信が運転し、秋枝が助手席、冬子、秀子、あまりは後部座席

☆カローラ車中
 ゲンが運転、十一と夏代は後部座席
  ゲン「(バックミラーをチラチラ見る)」
  十一「おい、脇見しないでちゃんと運転しろ!」
  ゲン「判ってますよ」
  十一「あ〜、気持ちわりい」
  夏代「大丈夫?風邪ひいたんじゃないの?」
  十一「熱あるかも(夏代の手を取ってオデコのあてる)」
  夏代「全然無いじゃない」
  十一「お前にお熱なんだよ」
  夏代「ふざけないで」
  十一「昨夜寂しかったろ?」
  夏代「久しぶりにゆっくり眠れたわ」
  十一「また強がっちゃって。今夜は、俺の胸でそっとお休み」
  ゲン「(小声で)似合わない事言って」
  十一「なんか言ったか?」
  ゲン「別に」
  十一「頭いてえ」
  夏代「さっき頭痛薬飲んだでしょ」
  十一「お前が優しくしてくれなきゃ、このままお陀仏かもしんない」
  夏代「大げさな」
  十一「そうだ、今夜一緒に風呂入ったら、すぐに治るかも」
  夏代「ええ?いい加減にしてよ、もう」
  十一「チェッ(反対側の窓にオデコをつけて)う〜ん(苦しげな声)」
  夏代「わざとらしい」
  十一「あ〜、いてえ、う〜ん、う〜ん」
  夏代「(少し心配になり)ねえ、ふざけないでよ」
  十一「う〜ん、う〜ん」
  夏代「(心配して)ね、大丈夫?(顔を覗き込む)」
  十一「(ニッコリして)大丈夫」
  夏代「もう、バカ、本当に心配したんだから(何度も頭を叩く)」
  十一「よせ、やめろって、やめろよ。俺が悪かった、謝る、な」
  夏代「知らない」
  十一「そんな顔するなよ」
  夏代「いつも心配かけてばっかりなんだから」
  十一「ごめんな」
  夏代「本当に大丈夫?」
  十一「うん、少し眠くなってきた(夏代の胸に顔を埋める)」
  夏代「甘えないでよ」
  十一「ゴロニャン」
  夏代「しょうがないわね」
  ゲン「(小声で)これじゃ、秋枝さん達も大変だろうな」

☆カリーナ車中
 楽しげに話している信たち

☆カローラ車中
 ゲン、バックミラーを気にしながら運転している
 後部座席、夏代の膝枕で寝ている十一
  夏代「世話が焼けるったらありゃしない、フフフ」

☆高速道路
 疾走していくカリーナ、カローラ
―おわり―

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