第410話「結婚記念日」(改訂版1) 放映日:1984年5月30日 脚本:てつまにあ

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☆十一たちの寝室
 信子とさおりが壁際の布団、隣りの布団に夏代が寝ている。隣りの十一の布団は空いている
 階下で物音がして、夏代目を覚ます。階段を上がってくる足音がして、十一部屋に入って来る
 枕元にバッグを放り、そのままゴロンと布団に横になる
  夏代「ちょっと、そのまま寝ちゃだめじゃないのよ」
  十一「あ〜水くれ」
  夏代「毎晩毎晩午前様、いい加減にしてよ(水差しの水をコップ入れて渡す)」
  十一「(飲んで)男には色々付き合いってもんがあるんだよ」
  夏代「ただ飲んでるだけじゃないの」
  十一「そんな冷たいこと言うなって(夏代を抱き寄せようとする)」
  夏代「(手をピシャと叩き)やめて」
  十一「チェッ(不貞腐れたように横になる)」
  夏代「明日は大事な日だっていうのに・・」
  十一「明日?誰かの誕生日か?・・あ!君の誕生日だっけ?」
  夏代「バカ、違うわよ」
  十一「じゃあ何なんだよ」
  夏代「ねえ、本当に覚えてないの?」
  十一「もったいつけずに教えろよ」
  夏代「十年前の6月30日。これを聞いてもわからない?」
  十一「十年前?・・十年前っていうと・・君と結婚して・・あ、そうか!ハハ、結婚記念日か」
  夏代「酒付けで記憶力まで無くしたみたいね」
  十一「いや、悪い。コロッと忘れてた、ハハ」
  夏代「お祝いしようと思ってたけど、馬鹿馬鹿しくなっちゃったわ」
  十一「そう言うなって。ちょっと忘れてただけなんだからさ」
  夏代「じゃあ、明日は早く帰ってきてくれる?」
  十一「もちろんだよ。皆でパーッとお祝いしよう、な?」
  夏代「ホントよ?」
  十一「まかせとけって」
  夏代「おいしい料理たくさん作って待ってるわ」
  十一「機嫌直してくれた?」
  夏代「うん」
  十一「じゃあ、二人だけで前祝いしようか」
  夏代「前祝い?」
  十一「ああ」
 十一、夏代を抱き寄せると、枕元のスタンドを消す 

☆朝、リビング
  信「そうか。今日は十一君と夏代の結婚記念日か」
  十一「早いもんですねえ、十年なんて」
  冬子「すぐ喧嘩別れするかと思ってたけど、よくもったわよね」
  秋枝「ホント、奇跡だよ」
  十一「まあ、これも僕の人徳のなせるわざでしょうなあ、ハハハ」
  夏代「どうかしらね」
  十一「なに?」
  信「まあまあ、とにかく二人にとっては大事な日だ。みんなでお祝いしてあげようじゃないか」
  十一「すいませんねえ、我々の為に」
  信「なあに、こういう事なら大歓迎さ。みんな今日は早く帰ってきてくれよ」
  あまり「じゃあ、コンパ断らなくっちゃ」
  秋枝「うちの店から美味いもん持ってくるか」
  冬子「私は夏姉ちゃんの料理手伝うわ」
  夏代「みんなありがとう」

☆稲葉スタジオ
 十一、モデル撮影をしている
  神谷「いやあ、先生。本当に助かります。仕事を引き受けて頂いて」
  十一「君には昔世話になったからねえ。僕は元来義理を重んじるタチでね、ハハハ」
  神谷「そうでしょう、そうでしょう。それがあるからこそ、今の先生がおありになるんでしょうなあ」
  十一「判ってるじゃないか、君は。ハハハ」
  神谷「それで先生、お礼と言ってはなんですが、今夜一席設けたいと思うんですが」
  十一「そんな、気使わなくていいんだよ」
  神谷「そう仰らずに。綺麗どころをズラーッと揃えますので」
  十一「綺麗どころ?まあ、折角の好意を断るのもなんだから、ひとつ行ってみるか」

☆成城商店街
 夏代、冬子、買った食材を持って歩いている。夏代、洋菓子店の前で立ち止まる
  夏代「フー子、悪いけど先に帰ってくれる?」
  冬子「あら、まだ何か買うの?だったら付き合うわよ」
  夏代「そうじゃないの、ちょっと用事思い出したの」
  冬子「そう、じゃ先帰るわ。あまり遅くならないでよ。一人じゃ料理作れないから」
 夏代、冬子が立ち去ると洋菓子店に入る

☆台所
 夏代と冬子が料理をしていると、秋枝が入って来る
  秋枝「店からカニぶん取って来た」
  冬子「すご〜い。さすがねえ」
  秋枝「手伝おうか?」
  夏代「じゃあ、スープ作って」
  秋枝「オッケー」
  冬子「ねえ、結婚記念日のプレゼント、何か貰った?」
  夏代「無いわよ、何も」
  秋枝「そういうところが抜けてんだよなあ、あんちくしょうは」
  冬子「パーティーの時に渡すつもりかもね、顔に似合わずロマンチストだから」
  夏代「さあ、どうかしら、フフフ」

☆料亭の座敷
 十一、神谷に連れられて入って来る
  神谷「ささ、先生」
  十一「(座り)随分はりこんだねえ」
  神谷「何を仰いますか。このくらい当たり前でございますよ(ポン、ポンと手を打つ)」
  芸者「は〜い」
 4〜5人の芸者入って来る
  神谷「どうです、先生?」
  十一「いいねえ、君。さあパーッといこう、パーッと。ギャハハハハ」

☆リビング
 テーブルの上には所狭しと料理が並んでいる
  信「どうしたのかなあ、十一君」
  冬子「仕事じゃないの?」
  夏代「スタジオに電話したら、もうとっくに出たって」
  冬子「じゃあ、プレゼントでも買ってるんじゃない?」
  秋枝「すっぽかしやがったら、味噌汁の具にしてやるから」
 玄関の開く音がして、みんなドアの方を見る
  あまり「(入って来て)ただいま」
  秋枝「なんだ、お前か」
  あまり「あら、パーティーまだなの?」
  秋枝「主役がいないんだよ」
  あまり「どうしたのかな」
  信子「お母さん、おなかすいた」
  夏代「うん?そうね。食べなさい・・みんなも食べて、冷めちゃうから」
  冬子「でも、主役がいないのにねえ」
  夏代「いいわよ、あんな人の事なんて」
  秋枝「そうだよ。放っとけばいいだよ、あんなヤツ」
  信「仕方がない。そうするか・・」
 黙々と食べる信や秋枝たち。夏代、腹立たしげにカニの足を折る

☆キャバレー「ぼったくり」店内
 ケバケバしいライトの中、十一と神谷ボックス席に座っている
  神谷「いいかみんな、大場先生はな、女を撮らせたら日本一なんだぞ」
  ホステスA「あらあ、じゃあ私のも撮って〜」
  十一「僕はヌードが専門だからねえ」
  ホステスB「先生ならぜ〜んぶ見せてもいいわよ〜」
  十一「またまた上手い事言って」
  ホスA「私なら、夜明けのコーヒー一緒に飲んでもいいわん」
  十一「そんな事言うと本気にしちゃうよ〜ギャハハハ」

☆居間(十一と夏代の部屋)
 暗い室内、テーブルの前にボンヤリ座っている夏代
 テーブルの上には、「10、アニバーサリー(英語)」と書かれたケーキとシャンパン
 壁には、十一が撮影した新婚旅行の8ミリが映し出されている
 屈託無く笑う夏代、おどけた顔をする夏代、次々と映し出される映像
 夏代、ケーキを手に取ると、フィルムの中の自分の顔を目掛けて投げつける
 壁にクリームの跡を残し、無残な形で床に落ちるケーキ

☆新宿靖国通り
 ホステスを引き連れて歩いている十一と神谷
  十一「編集長、今夜は実に楽しかったよ」
  神谷「そう言っていただけると思ってましたよ」
  十一「どうだね編集長、今度はゴルフでも」
  神谷「あ、それはダメなんですよ」
  十一「どうして?随分凝ってるって聞いてるよ」
  神谷「それがですね、結婚記念日に着物を買ってやると約束してたんですが、その金でゴルフコンペに行っちまったもんで、当分ゴルフは禁止なんですわ、お恥ずかしい」
  十一「何が結婚記念日だよ・・あれ?何かあったな・・あ!しまったー!」
  神谷「どうしたんですか?」
  十一「いや、あの、急用を思い出したんで、これで失礼するよ」
  神谷「先生!」

☆玄関ホール
 外にタクシーの止まる音。静まり返っている室内、そっと玄関が開いて十一入って来る
 足音を忍ばせて2階に上がる

☆二階廊下
 足音を忍ばせて、寝室のドアに手をかける十一。向かいの居間から物音が聞こえるのに気づきドアを開ける

☆居間
 十一入って来て、電気をつける。巻ききったリールが回り続けている8ミリ映写機
 床に落ちているケーキ、テーブルに倒れているシャンパンのボトル
 夏代、テーブルに突っ伏して寝ている。十一、映写機を止めケーキを拾ってテーブルに置く
  十一「大嵐ってとこだな・・」

☆居間(十一と夏代の部屋)
 目を覚ました夏代、タオルケットが掛けられているのに気づく
 隣りでは十一が8ミリを見ながらシャンペンを飲んでいる
  夏代「こんな時間まで何してたのよ!」
  十一「ごめん・・」
  夏代「料理作って皆で待ってたのよ!」
  十一「本当に悪かった。謝る(頭を下げる)」
  夏代「それで、何をなさっていらっしゃったんですか?大先生」
  十一「それは・・つまり・・あの・・」
  夏代「言えないような事でもして来たの!」
  十一「そうじゃねえよ」
  夏代「じゃ何して来たの!はっきり説明して」
  十一「俺は嫌だ嫌だって言うのに神谷さんが無理やり・・」
  夏代「それで?」
  十一「だからその・・芸者さんとやホステスさん達と日本の未来について色々と語り合って」
  夏代「それで遅くなったってわけ?何考えてんのよ、このトンチキ!(シャンペンを十一の顔にかける)」
 夏代、「フン!」という顔でさっさと布団に入る。十一、声を掛けようとするが諦めて、しょぼくれた顔でスゴスゴと布団にもぐる。布団から顔を出した夏代、「いい気味」という表情で十一の背を見る

☆リビング
 夏代たち食事している。十一、遠慮がちに入って来て座る
  秋枝「おい、昨夜何してたんだよ!」
  冬子「夏姉ちゃんの愛情込めた料理、全部無駄にしちゃって、どういうつもり?」
  十一「本当に、申し訳ございませんでした(頭を下げる)」
  信「まあまあ、十一君にだって色々事情があったんだろ」
  十一「(すがるような目で)お父さん」
  秋枝「そうやって甘やかすから調子に乗るのさ。こういう男は痛い目にあわなきゃ判んないだ(指をポキポキ鳴らす)」
  十一「おいおい」
  夏代「あ、あのね、昨夜恩のある人呼び出されて、どうしても抜けられなかったのよ。ね?」
  十一「え?あの・・そうなんだ」
  秋枝「だったら電話すりゃいいじゃねえか」
  十一「すいません(頭を下げる)」
  信子「お父さん、悪い事したの?」
  秋枝「ああ、そうさ。うんと叱ってやんな」
  信子「お父さん、悪い子(十一の頭を叩く)」
 そばにいた冬子の子供も十一の頭を叩き、それを見た信子と喧嘩になる
  秋枝「うるせえな!フー子自分の子供、どうにかしろよ」
  信「さあさあ、ご飯にしよう」
 食事を始める面々。十一、「すまない」という風に夏代を見る

☆居間(十一と夏代の部屋)
 十一が出かける用意をしていると夏代が入って来る
  十一「庇ってくれたのか、さっき」
  夏代「今度だけは許してあげる。でも、もう一度やったら離婚よ。いい?」
  十一「判ってるよ・・ホントにごめんな」
  夏代「バカ」
  十一「(夏代を抱き寄せ)今夜、みんなで記念写真撮ろうか?」
  夏代「写真?」
  十一「だって、俺たちの大事な日だろ?」
  夏代「うん(胸に顔をうずめる)」
  十一「じゃあ、その前にひと稼ぎしてくらあ」
  夏代「頑張ってね、お父さん」
  十一「任せとけって(軽くウインクして出て行く)」
  夏代「ホントにダメな人(柔らかな微笑みで見送る)」
 その顔には幸せが溢れている

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