スペシャル2「十一・10歳の時の一風景」 放映日:不祥 脚本:てつまにあ

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☆台所
 邦子が片付けをしていると、十一が駆け込んでくる
  十一「ただいま!」
  邦子「お帰りなさい。戸棚におやつの栗まんじゅうが入ってるわよ」
  十一「うん(戸棚を開ける)」
  邦子「だめよ。ゃんと手を洗ってらっしゃい」
  十一「チェッ」
 十一、ランドセルを床に放り投げ、洗面所の方へ駆けて行く
 邦子、栗まんじゅうと粉末ジュースをおぼんに乗せ、リビングの方へ

☆リビング
 邦子、お膳にまんじゅうの皿とジュースのコップを置く 
 十一、駆け込んで来て座ると、まんじゅうにかぶりつく
  十一「お父さん、今日帰って来るの?」
  邦子「ええ、夕方早くお帰りになるって」
  十一「おみやげ買ってきてくれるかな・・」
  邦子「お父さんと何かお約束したの?」
  十一「うん、すごくいい物だって」
  邦子「まあ、何かしらね」
  十一「わかんないよ(粉末ジュースを飲む)」

☆夕方・十一の部屋
 十一、宿題である国語の書き取りをしている
  邦子「(下からの声)十一!お父さんお帰りになりましたよ」
 十一、鉛筆を放り出し部屋を出て行く

☆玄関ホール
 鉄也、靴を脱いで旅行カバンを邦子に渡す
 十一、階段を駆け下りてくる
  十一「お帰りなさい」
  鉄也「十一、良い子にしてたか?」
  十一「うん、宿題もやったし、お母さんの言う事もちゃんと聞いたよ」
  鉄也「そうか、ハハハ。おい、これはご褒美だ(大きな包みを見せる)」
  十一「ワアー、すげえ!なあにお父さん?」
  鉄也「帆船の模型だ。模型と言ってもプラモデルじゃないぞ。木で出来たミニチュアだ」
  十一「ねえ、開けてもいい?」
  鉄也「ああ、いいとも」

☆リビング
 十一、絨毯の上で包みを破ろうとするがうまく出来ない
 鉄也、邦子入って来る。邦子、十一のそばに行き手伝う。横文字のある大きな箱が出てくる
  十一「お母さん、見て。格好イイよ」
  邦子「良かったわね」
  鉄也「今度の休みに一緒に作ろう」
  十一「ホント、お父さん」
  鉄也「ああ、ホントさ。ただし、いい子にしてなきゃダメだぞ」
  十一「大丈夫だい」
 キラキラした目で箱を見ている十一、それを暖かく見ている鉄也と邦子
 
☆朝、リビング
 十一、鉄也、邦子、食事している
  十一「(忙しなく食べている)」
  邦子「十一、もっとゆっくり食べなさい。ちゃんと噛まなくちゃだめじゃない」
  鉄也「まあいいさ。腹の減る年だ」
  十一「ごちそうさま!お父さん、今日模型作ってくれる?」
  鉄也「ああ、約束だからな」
  十一「じゃあ持ってくる!(飛び出して行く)」
  邦子「よっぽど嬉しかったのね」
  鉄也「そんなに模型が気に入ったのかな」
  邦子「そうじゃありませんよ。あなたと一緒に居られるのが嬉しいんですよ」
  鉄也「あいつの相手も中々してやれんからな・・」

☆リビング外、のテラス
 十一、鉄也、模型を作っている
  十一「お父さん、ここはどうするの?」
  鉄也「うん?これはな、この尖った部分をこの穴に入れるんだ。出来るか?」
  十一「出来るよ(苦労しながら、何とか入れる)」
  鉄也「よし、うまいぞ」
  十一「(嬉しそうに笑う)」
 邦子、粉末ジュースの入ったコップ三つおぼんに乗せ、出てくる
  邦子「一休みしたら?(椅子に座る)」
  鉄也「そうするか(邦子からコップを受け取る)」
  十一「(コップを受け取りゴクッと飲む)」
  邦子「うまく出来上がりそう?」
  鉄也「(飲んで)当たり前じゃないか、俺と十一が作ってるんだから、ハハハ」
  十一「お父さんずごいんだよ。ナイフでちっちゃい部品とか、パッと切っちゃうんだ」
  邦子「まあまあ、フフフ」
  十一「お父さん、今度はどこやればいいの?」
  鉄也「マストを紙ヤスリでみがいてくれ。大事な部分だからな、しっかりやれよ」
  十一「うん」
 十一、マストに一生懸命紙ヤスリをあてる。鉄也は部品の組み立てをしている
 邦子、穏やかな顔で二人の様子を見ている

☆リビング
 お膳の上に完成した帆船が置いてある
  十一「(嬉しそうに見ている)」
  鉄也「(煙草に火をつけ)どうだ十一、気に入ったか?」
  十一「うん、すっごく!」
  邦子「うまく出来てよかったわね」
  鉄也「何しろ丸一日かけた力作だからな、ハハハ」
  十一「これどこに置くの?お父さんの部屋?」
  鉄也「お前の部屋に置いておけ」
  十一「いいの?」
  鉄也「これはお前の物だからな」
  十一「持っていってもいい?」
  鉄也「そのままじゃ壊れ易いだろ。明日にでも、お母さんにガラスケースを買って来てもらって、それからお前の部屋に持っていった方がいい」
  十一「はーい。お母さん、明日ちゃんと買ってきてよ。忘れないでね」
  邦子「はいはい、わかってますよ」

☆翌日午後、十一の部屋
 十一、学校から帰って来て、机の上にランドセルを置く
 横の本棚の上に、ガラスケースに入った模型が飾ってある
 邦子、入って来る
  十一「(振り返って)お母さん、買って来てくれたの?」
  邦子「ええ、朝一番でお店に行ってきたのよ」
  十一「お母さん(ニッコリ微笑む)」
  邦子「(優しく微笑み返す)」
 窓の外には、初夏の夕暮れが広がっている

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