スペシャル4「十一・20歳の時の一風景」 放映日:不祥 脚本:てつまにあ
☆大場邸・書斎
机で書類に目を通している鉄也、お茶を持って邦子入って来る
鉄也「十一はまだ帰らんのか?」
邦子「ええ」
鉄也「あいつ、山だのアルバイトだのと、最近ちっとも勉強しとらんじゃないか」
邦子「あの子にだって、色々あるんでしょ。年頃ですもの」
鉄也「そんなことじゃ外交官にはなれん。一度言ってやらなくちゃならんな」
邦子「その事なんですけど、あまり無理強いはしないで欲しいの」
鉄也「お前に何か言ったのか?」
邦子「そうじゃありませんけど・・」
鉄也「だったら余計な心配はするな」
邦子「ええ・・でも・・」
十一「(声)ただいま」
鉄也「丁度いい、十一を呼んできなさい」
邦子、不安げな顔で出て行く
☆十一の部屋
十一、ベットに寝転んで煙草をふかしている
邦子「(入って来て)お帰りなさい。随分遅かったのね」
十一「ああ、佐々木がデモでパクられちゃってさ。保釈金カンパしなきゃなんないんだ」
邦子「あんまり危ないことはしないでね」
十一「大丈夫だよ。俺はそんなヘマはしないから」
邦子「あのね、お父さんがお話があるって言うの」
十一「親父が?何の話だい?」
邦子「さあ・・」
十一「またお説教か。面倒くせえなあ」
邦子「とにかくいらっしゃい」
十一、邦子出て行く
☆書斎
十一、邦子入って来てソファーに座る
鉄也「(向かいに座り)十一、友達付き合いもいいが、もっと性根を入れて勉強せんと外交官にはなれんぞ」
十一「俺、外交官にはならない」
鉄也「何だって?子供の頃から外交官になると言ってたじゃないか」
十一「昔は昔、今は今さ」
鉄也「民間企業にでも勤めるつもりか」
十一「俺・・カメラマンになりたいんだ」
鉄也「何をバカな事言ってるんだ」
十一「初めて南アルプスの写真を撮った時、俺、体が震えるぐらい感動したんだ。だから、そういう感動を感じながらずっと生きていきだいんだ」
鉄也「お前は世の中というものがわかっとらんのだ。そりゃ趣味で写真を撮るのはいい。しかしな、そんな不安定な仕事で食べていけると思ってるのか?お前だっていずれ結婚して、女房子供を養っていかなきゃならんのだ。そんな仕事で生活できるわけないだろう」
十一「・・・」
鉄也「外交官として国を動かす仕事のやりがいに比べたら、そんな感動は一時のものだ」
十一「お父さんがどう考えるかは勝手さ」
鉄也「何だと」
十一「外交官て何だよ?ベトナムじゃ偉い連中の都合で戦争してるだけで、外交官は何もしてないじゃないか」
鉄也「判ったような口をきくな!」
十一「もううんざりなんだよ!自分の価値観を俺に押し付けないでくれ!」
鉄也「ばかもん!(十一を頬を叩く)」
十一「自分のやりたい事をやって何が悪いんだ!」
鉄也「俺の言う事が聞けないなら今日限り勘当だ!今すぐ出て行け!」
十一、部屋を飛び出して行く
邦子「十一!(慌てて後を追う)」
☆十一の部屋
十一、登山用のリュックに着替えを詰め込む
邦子「(入って来て)十一、バカなことはやめなさい。もう一度お父さんと話し合って」
十一「何度話したって同じさ」
十一、リュックとカメラバックを持って部屋を出る
☆玄関ホール
邦子「ね、考え直して。お願い」
十一「(玄関を開け)母さん、ごめんよ(出て行く)」
邦子「十一!(泣き崩れる)」